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ヴィーガン・ワイン

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「ヴィーガニズム(Veganism)」は、動物由来の製品を一切使わないライフスタイルのことです。それを実践する人たちのことを「ヴィーガン(Vegan、独語でヴェガーン)」といいます。1944年に英国で設立されたヴィーガン協会が打ち出した概念で、卵や乳製品などの酪農製品をも拒否するものです。ヴィーガニズムには、食生活だけに限定されている場合と、あらゆる動物由来の製品の使用を一切拒む場合とがあります。

ここ数年、ワインにおいても「Vegan」と表示されたものを見かけるようになりました。ワインの原料はぶどう果汁ですから、100%植物由来の飲料です。ワインに使われる動物由来の製品とは、醸造の過程においてワインと接触する清澄剤(せいちょうざい)に限定されています。清澄剤とは濁った果汁を、手早く澄んだものにするための物質です。

具体的には、動物性たんぱく質由来のゼラチン、アイシングラス(魚の浮き袋から作るゼラチン)、卵白(アルブミン)といった古来から使われている清澄剤がこれに相当します。ゼラチンやアイシングラスは白ワインに、卵白は赤ワインに使われます。2012年7月からは、人によってはアレルギー反応を起こし得る、カゼイン、アルブミン、リゾチームを使用した場合、エチケット(ラベル)に表示することが義務付けられています。こういった動物由来の清澄剤を使用した場合、そのワインは「ヴィーガン」と名乗れません。

しかし現在では、ベントナイト(粘土鉱物の一種)、珪藻土(けいそうど)といった鉱物由来の清澄剤を使うことが多いので、ワインが動物由来の原料に触れる機会は減っています。そのため表示がなくても、ヴィーガン・ワインであるケースもあるのです。

近年、エチケットに「ヴィーガン」と明記し、意識的にヴィーガン・ワインを生産している造り手たちが増えています。彼らは、清澄剤として植物性たんぱく質由来のものを取り入れるようになっています。例えば、豆類、じゃがいも類から得られるたんぱく質などです。BSE(いわゆる狂牛病)が発覚した頃から、植物性たんぱく質の研究がさかんに行われるようになり、植物性たんぱく質由来の清澄剤もどんどん質が良くなっています。あるいは清澄剤を一切使わないという造り手もいます。収穫したぶどうが完璧に近ければ近いほど、濁り成分がゆっくりと樽の底に溜まるのを待つだけで澄んだワインが得られるのです。

ヴィーガン・ワインは必ずしもビオワインではありませんが、ヴィーガンの造り手のほとんどが、ビオにも関心が高く、ビオワインの生産者であるケースが多いようです。そのため、ヴィーガン・ワインはビオ・ショップで見つかる可能性が高く、最近では通常のワインショップも「ヴィーガン・ワイン」のコーナーを設けるようになってきています。

ドイツ最大のべジタリアンおよびヴィーガンの推進組織であるドイツ・べジタリアン協会(VEBU、1892 年設立)の調査によると、現在ドイツには、べジタリアンが約780万人、ヴィーガンが90万人いるとのことです(2015年の統計)。ドイツの全人口の約10%がすでにべジタリアンなのです。ヴィーガン人口が増えるほどに、ヴィーガン・ワインの需要も高まり、ヴィーガン・ワインとして公式に申告できる法的基準なども整うことでしょう。

 
Joern Wein
ヨルン・ワイン(ラインガウ地方)

ヨルン・ゴツィエフスキー
ヨルン・ゴツィエフスキー氏

2015年秋にヨルン・ゴツィエフスキーさんが興したマイクロワイナリー(小規模な醸造所)。ラインガウの8つの畑からトータル1.4ヘクタール分の区画を借りてワイン造りを行っている。ガイゼンハイム大学卒。スペイン、イタリア、ニュージーランドなどで醸造家として活躍した後、ラインガウ地方のアンカーミューレ醸造所で4年にわたってワイン造りを担当した。彼の自然に近いワイン造りは当時から注目されていたが、独自ブランドを立ち上げたことでその姿勢がより明確になった。ヨルンはヴィーガン・ワインの中で最も徹底したスタイルである清澄剤不使用を目標とし、ほぼ達成している。ラインガウの土壌と気候の恵みを受けたリースリングとシュペートブルグンダーの持てる力が最大限に引き出されたコレクション。

Joern Wein
Bahnstr. 1
65366 Geisenheim
www.joernwein.de


ヨルン2014 Joern Riesling trocken
2014ヨルン、リースリング辛口 10.80€

ヨルンの初ヴィンテージ。コレクションの中で一番ベーシックなリースリング。リューデスハイムの複数の畑のリースリングをブレンドしたもの。発酵後、9ヵ月にわたって酵母と接触。その後、清澄剤は一切使わず、1回だけフィルターにかけ、少量の亜硫酸を添加してボトリングした。2014年ヴィンテージは、非常に満足のいく出来だという。約2年を経たワインは充実した味わい。華やかなフルーティさとは異なる、大地の風味が感じられる。ヨルンの今後の目標はビオへの移行だ。エチケットにはヨルン考案のヴィーガンマークがついている。


 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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