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ロンドンのゲストハウス
So. 22. Sep. 2019
Gabriela Perret

香りと味に魅せられて
食品官能検査士
Lebensmittelsensorikerin

自分から仕事を見付け、考え、
実行できる環境で、自由に働きたい

今回の仕事人
Gabriela Perret 
ガブリエラ・ペレ

スイス・チューリッヒ出身。コンピューター関連の仕事に従事していたが、30代半ばで方向転換し、ホテル専門学校を卒業。料理本出版社ベティー・ボッシ編集部、夫の醸造所の経営、料理教室の仕事を経て食品官能検査士(Lebensmittelsensorikerin)に。2010年にペレ・コンサルティングを設立した。

「ゼンゾーリック(Sensorik)」という概念がある。日本語では「官能」と訳され、飲料品、食品を視覚、嗅覚、味覚、そしてテクスチャーから、与えられた基準に従って評価することを意味する。ガブリエラ・ペレ(51)と出会ったのは、あるワインの品評会でのこと。料理が大好きだった少女が、回り道をしながら食品官能検査士となるまでを語ってもらった。

9歳で料理を作り始める

「私の母は料理が下手で、父の方が上手だった。だから、子どもの頃は週末に父の料理を食べるのがすごく楽しみだったわ。また、どの叔母が一番料理が上手いか、子どもながらにランク付けをしていて、中でもお気に入りの叔母がいたのよ」。  

母親が働いていたため、9歳で料理を作り始めたが、本当に料理が好きになったのは、家政学校に通った12~14歳の頃だったという。卒業後、銀行での研修を始めたときに両親がアパートを借りてくれ、15歳で独り暮らしを始めた。すると、必然的に料理せざるを得ない。教科書は、スイスで最もよく知られているレシピ本『ベティー・ボッシ』シリーズ*だった。後に自分がそのレシピ本の出版社に就職し、自らレシピを開発することになるとは、その頃は夢にも思わなかった。

食品業界に辿り着くまでの回り道

スピリッツの品評会
スピリッツ(蒸留酒)の品評会にて審査中

3年ほど銀行で働き、19歳で英国へ語学留学。帰国後すぐに米系のコンピューター会社に就職が決まり、銀行の現金自動支払機のプログラミングの仕事を得る。1982年当時、コンピューター・プログラミングを学べる専門学校がなく、英国から持ち帰った大量のプログラミング言語の資料と首っ引きで仕事をした。  

その後、彼女は仕事を辞め、念願だった東南アジアを巡る旅に出た。1年にわたる長旅では、タイの友人宅の台所で料理を学び、その魅力を再発見した。しかし、旅を終えた彼女は銀行業界に復帰。そして1992年まで、複数の会社でエレクトロニック・バンキング立ち上げの準備プロジェクトなどに携った。  

彼女は東南アジアを旅した頃から、ホテル専門学校で一から勉強し直し、食に関わる仕事に就こうと決意していた。そのため、銀行の仕事と並行してホテル専門学校の入学前提条件だったビジネススクールを修了。入学年齢制限(35歳以下)ぎりぎりでホテル専門学校に入学した。授業ではマネージメントから料理まで、すべてを学んだ。  

専門学校卒業後、憧れのベティー・ボッシ出版社に就職し、雑誌版『ベティー・ボッシ』用のレシピを開発、執筆する仕事を得た。ところが、彼女はわずか4カ月で辞表を出す。「夢にまで見た仕事だったけれど、職場は思ったほどクリエイティブじゃなかった。多分、私は会社員であることに耐えられなかったんだと思う」。自分で率先して仕事を見付け、考えて実行する。そんな環境で働きたいという漠然とした想いがあった。

結婚を契機にワインの世界へ

その頃、イタリア、ピエモント地方でワイン造りをしているスイス人と出会い、結婚。夫の醸造所(Vini Bricco Sori)の経営を引き受けることになった。夫は技術畑の人間で、醸造所の運営は銀行マンである共同経営者が担当していたのだが、ガブリエラが同社を引き継いだときは倒産寸前だった。そこで彼女はチューリッヒ近郊のヴェーデンスヴィールに支店を構えて夫のワインを輸入販売し、2人で危機を乗り越える。  

「ワインの輸入販売は初めての経験だったけれど、自分で自由に仕事ができることが、とても面白かった」と言う。経営を引き継いだ時、醸造所には価格リストさえなく、まずはパンフレット作りから始めた。彼女はスイスを拠点に、月に数回イタリアに通い、夫はイタリアを拠点に、年に数回スイスに帰省するという遠距離結婚生活は、今も続いている。  

醸造所の経営を軌道に乗せるため、ワイナリーで予約制のテイスティング・ランチを提供したほか、スイスでも試飲会を開催し、ピエモントの食文化を紹介した。そんな中、1回きりのつもりで開催した手作りパスタの講習会が料理教室に発展し、6年間続いた。食のコメンテーターとしてラジオやテレビに出演するうちに、蒸留酒や食品の官能検査の仕事が少しずつ舞い込むように。2010年頃まで彼女は多忙を極めた。「このまますべての仕事を続けたら、倒れてしまうかもしれない。そろそろ仕事の優先順位を考えなければいけないと思ったの」。  

年齢が離れている夫は、いずれ醸造家の仕事を引退する。2人には後継者がいないため、醸造所は売りに出すことに決めている。料理教室はその後、理想的なスペースが見付からず断念。将来性を見出したのが、食品官能検査の仕事だった。そうして彼女は、コンサルティング会社を立ち上げた。

常に検査能力を磨くことが大切

蒸留酒の官能検査に始まり、今ではチューリッヒ応用科学大学ヴェーデンスヴィール研究所で行われる食品全般の官能検査の仕事も引き受けるようになった。 このほかにもワイン、ビオ食品、化粧品と、仕事の領域は広がりつつある。「常に良い仕事をすることで、口コミで仕事が増えていったわ」。大学で行われる官能検査士対象のセミナーや試験を定期的にこなし、常に検査能力を磨くことも大切だ。依頼主はネスレなどの大企業で、市販品のほか、開発中の新製品も対象となる。  

1年ほど前からは、大手レストラン・チェーンのクオリティーチェックも手掛けている。複数のレストランチェーン各店で、定期的に客として食事をし、100近い項目を細かく評価するのだ。レストラン側は、評価レポートをスタッフの教育に反映させている。最近は、このように第三者に評価を依頼する企業が増えているという。「同じレストランを定点観測し、サービスの質が向上していたらとても嬉しい」。  

夢は近い将来、自らのレシピ本を執筆すること。「ベティー・ボッシ時代にレシピ執筆のノウハウは学んだから、書けると思う」と語る。

Gabriela Perret - Sensorik, Kochen und Wein
Speerstrasse 14, CH-8820 Wädenswil, Schweiz
www.gabrielaperret.ch

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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