私が初めてベルリンに来たのは2017年だったのですが、その時に現代美術館のKW(KW Institute for Contemporary Art)を訪れました。展示内容を完全に理解することはできなかったけれど、ベルリンの美術館はなんてかっこいいんだ!と心と体で素直に感銘を受けたことを今でも覚えています。KWは1991年にベルリンのミッテ地区の旧マーガリン工場に設立された美術機関で、現代美術作品の展示を通して、社会が直面しているあらゆる課題にアプローチしています。
展示会期中の日曜日には会場がレコーディングスタジオになります
今回は、そんなKWで2026年1月18日(日)まで開催中の「Kazuko Miyamoto String Constructions」展に行ってきました。私はこの展示が行われるまで宮本和子さんのことは知らなかったのですが、彼女は1942年に東京で生まれ、1964年からニューヨークを拠点に活動しています。ドイツで大規模に作品が紹介されるのは今回が初めて。コンセプチュアル・アートの先駆者であるソル・ルウィットのアシスタントとしても働いた経験があり、彫刻、インスタレーション、パフォーマンス、紙の作品など多様なアプローチで、身体と空間、物質、労働、そして可視性といったテーマを探求してきました。もともと絵画の勉強をしてきた彼女は、これまで探求してきた模様を平面から外へ、立体的な形へ移行させるために、紙に書き出した線を釘と糸を使って壁や床に転写しました。
宮本さんの作品。宮本さんは1970〜1980年代にかけて、ニューヨークにある女性アーティストのみによって運営されているA.I.R. Galleryに所属していました
見る角度によってモアレが生じたり、糸と糸の間の空間が開けたりと、作品は静かに動きを持ち始めます。膨大な糸が規則的に並ぶ彼女の作品は、写真で見ると、無機質で淡々とした印象を受けるかもしれません。しかし、手作業で行ったというプロセスや彼女の残したスケッチ、釘の部分の糸の向きを見ると、糸と向き合い、手を動かしていた彼女の呼吸を感じます。精密ながら、とても人間味がある作品でした。
直線と曲線が混ざり合い、糸の世界に見るものを引き込みます
KWの別会場では、人工知能(AI)やテクノロジーを使って音楽を制作しているHolly HerndonとMat Dryhurstによる「Starmirror」(同じく1月18日まで)が開催されています。二人は、AIが人間の協力を得て音を生み出すプロジェクトを手がけており、ここではAI合唱団の音楽を聴くことができます。肉体を持てないはずのAIが「声」を学び、魂と体を持たない「声」は、人間を通り越して、どんな音を奏でるようになるか。音楽は、いつまで人間の呼吸を必要とし続けるのか……。
二つの展示を通して、私たち人間の行為や身体とは何かについて、深く考えさせられたのでした。



インベスト・イン・ババリア
スケッチブック
中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『






