海外で暮らしていると、食文化や食べ物に対する考え方の違いに戸惑った事はありませんか?その戸惑いをさらに大きくするような、世界の最もまずい食品80種を集めた「まずい食べ物博物館」(DisgustingFood Museum)がシュトゥットガルト中心地にあることを知り、好奇心から足を運びました。
インパクトのある外観
建物に近づくと、まず目に飛び込んできたのは大きな「まずい食べ物」のパネル写真と「Bäh!」(ベェー)というロゴマーク。このBäh!とは、日本語の「オェー」のこと。ドイツでは子どもから大人まで「まずい!」と感じると、ためらわず「べェー」と舌を出して表現します。私はいまだにこの言葉を発したことがありませんが、受付でチケット代わりに「エチケット」を手渡された時には、私も「べェー」を連発してしまうのではないかと少し不安になりました。
館内に入るとコウモリやカメムシ、幼虫など、今まで食べ物として認識したことがなかった昆虫や動物が整然と並んでいました。早速「べェー」という気持ちが湧いてきましたが、一つひとつの説明文をじっくり読み進めていくと、その気持ちが少しずつ変化していきます。例えばグリーンランドの「キビヤック」は、内臓をくり抜いたアザラシの体内に海鳥を丸ごと数百羽詰め込んで発酵させた保存食。出来上がりの匂いや味が想像しがたい衝撃的な調理法ですが、展示品の多くは厳しい自然環境の中で資源を何一つ無駄にすることなく、人々の命をつなぐために必要に駆られて編み出され継承されてきた伝統食ということが分かるのです。
私が大好きな納豆も「まずいもの」!?
日本の「まずいもの」としては、納豆が展示されていたほか、魚介類の踊り食いも映像で紹介されていました。もがく魚をそのまま口にする踊り食いは、他国ではなかなか理解しがたいかもしれません。また、現在では高級食材のロブスターも、かつて米国では囚人食にするほどまずいと認識されていたそうです。「まずい」という概念は国や文化、時代によっても大きく変わることがよく分かります。
特に印象に残ったのは、外壁のパネル写真にもなっているかわいい豚の置物に無数の注射針が刺さった展示です。これは食肉生産における抗生物質やホルモン剤の過剰使用を表していて、便利さと効率の裏にひそむ究極の「まずさ」を感じました。単なる奇抜なスポットではなく、食文化や食べ物に対する戸惑いは生まれ育った国や環境によって形成されること、さらに大量の食品に囲まれて生きる私たちが抱える現代の問題にも気づきを与えてくれます。地球全体の生命、環境、文化を尊重する視点を持つことは、持続可能な食の豊かさを育む鍵になるのだと実感しました。
世界各地から集められた80種類の「まずい」食品が並ぶ館内
最後に試食コーナーに立ち寄りましたが、目の前に並ぶ昆虫食に挑戦する勇気は出ず……。ザウアークラウトジュースを口にするのか精一杯でした。
Disgusting Food Museum: https://disgustingfood.de
南ドイツの黒い森の片隅で、自然と調和した暮らしを実践中。味噌や麹を通じた伝統食の紹介やオーガニックの魅力の発信、親子で楽しめる味噌作りワークショップを開催。ローカルな暮らしの日々をインスタグラムでつづっています。
@schwartzwaldtagebuch