ジャパンダイジェスト

インフルエンザの季節

インフルエンザが流行っていますが、予防接種は1回でよいのでしょうか。最近の治療法についても教えてください。

インフルエンザとは

ヒトのインフルエンザ・ウイルスによって引き起こされる急性感染症で、ドイツでは「グリッペ(Grippe)」と呼ばれています。12~3月ごろの冬期間に流行し、感染力が強いため、学校や職場において集団でインフルエンザにかかることが少なくありません。

症状は?

1~3日間の潜伏期の後に急激に出現する悪寒、38~40度近い高熱、筋肉痛、頭痛が主体で、さらに咽頭の痛み、咳、痰などの呼吸器症状を伴います(表1)。通常は1週間程度で治りますが、重症の場合はまれに肺炎や脳炎などを引き起こすことがあり、特にお年寄りは注意が必要です。

表1 インフルエンザと「かぜ」の違い
  インフルエンザ かぜ
原因 インフルエンザ・ウィルス 他のウィルス、細菌など
症状 高熱、筋肉痛、関節痛、咽頭痛、呼吸器症状 鼻水、鼻づまり、くしゃみ、せき、発熱など
主な症状部位 全身 鼻、のど
発症の経過 急激である ゆっくりが多い
感染 強い 弱い
重症化、死亡 ある めったにない

熱が下がっても油断は禁物

症状が出てから3~7日間はインフルエンザ・ウイルスが体内に残っており、3日程度で解熱したとしても、その後にもウイルスの排泄があります。熱が下がったら1日も早く出社して職場に迷惑をかけたくないと思う人もいるでしょうが、1週間は自宅での療養が勧められます。1人の患者から約3人の新たな感染者が生じると言われています。

年に2度インフルエンザにかかることはありますか?

流行しているインフルエンザに1度かかると免疫が確立されます。しかし、インフルエンザ・ウイルスには大きく分けてA、B、Cの3型に加え(表2)、さらにいくつかの亜型があり、2種類のインフルエンザが流行している場合は2度かかることもあり得ます。

表2 インフルエンザ・ウィルスの型

  変異のしやすさ 備考
A型 変異が多い ソ連型、香港型など毎年の流行がみられる
B型 変異が少ない 散発的に流行
C型 余り変異しない あまり問題とならない
症状は風邪程度
新型 未知 人に免疫がないので、爆発的な大流行が危惧されている
ウィルス株が変異(組成の一部を変えることすることにより、免疫をくぐり抜けて感染を起こします。)

予防接種は毎年する必要があると聞きました

特にA型とB型のインフルエンザ・ウイルス粒子の表面の構成物質は変異しやすく、毎年、抗原性の多少違ったタイプが流行するため、予防接種も毎年必要です。最近はソ連A型(A/H1N1)、香港A型(A/H3N2)およびB型ウイルスの3種類が流行しているので、ワクチン(予防接種液)にはそれらを組み合わせたものが用いられています。

ワクチン接種の回数

前の年に接種を受けた人や13歳以上の場合は1回でも良いと考えられていますが、明確な基準はありません。2回接種を行う場合には、1~4週間の間をあけて行われます。これは1回目で得られた免疫をさらに増強するためで、1回の接種より2回接種した方が発病予防率が約20%上がるとの報告があります。

インフルエンザ・ワクチンの効果

ワクチンによるインフルエンザ発病の減少率は1~6歳で20~30%、健康な成人では70~80%、65歳以上で30~40%ほどです。高齢者の場合、発病に対するワクチン効果は低いものの、死亡する危険が大幅に減少します。1歳未満の乳児での効果は明らかではありません。ワクチンは効果が現れるまでに2週間ほどかかり、約5カ月間効果が持続するといわれています。

ワクチン接種を控えるべき人は?

接種当日に37.5度以上の熱がある人、以前のインフルエンザ予防接種で具合が悪くなった人、免疫不全と診断されている人は接種を控えるべきです。また、インフルエンザ・ワクチン用のウイルスは卵を使った培養で生成するため、卵アレルギーのある人は医師への相談が必要です。

授乳中でもワクチン接種は可能ですか?

はい。ワクチンは母乳から乳児に移行しないため、乳児にその予防効果はみられません。一方、授乳中の母親がインフルエンザに罹患した場合、母乳からウイルスが乳児に感染することはないものの、母親と乳児の物理的距離が近いことにより感染の機会が増します。抗インフルエンザ薬は母乳中に分泌されるので、授乳は避けてください。

インフルエンザ治療薬の効果

抗インフルエンザ薬には、タミフル、リレンザ、シンメトレルなどがあります。これらは、発病から2日以内の服用開始で効果があります。対症療法としては鎮痛解熱剤が用いられます。しかし、15歳未満の子どもに対してはアスピリンなどいくつかの種類の解熱薬は避けるべきで、注意が必要です。一般的に、ドイツでは日本ほどインフルエンザの際に薬は用いられていません。

インフルエンザにおける一般的注意

十分な体力と免疫があれば自然に治ります。インフルエンザに罹ったと分かったら、安静と睡眠、栄養補給が肝要です。お年寄りを訪問したり、学校など子どもの集まるところへ行くことも控えましょう。また前述の通り、解熱後すぐに職場へ戻ることは必ずしもプラスにならないことも理解してください。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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