Hanacell

ドイツの植物療法 (フィトテラピー)

ドイツでは、植物からつくられた薬を多く見かけます。薬草からできた薬について教えてください。

植物療法とは?

薬用植物(薬草=Heilpflanzen)からつくられた「薬」を、病気の予防や治療に用いることを植物療法(フィトテラピー=Phytotherapie)と呼びます。大昔から病気の治療には、植物が「薬」として用いられ、紀元1世紀には薬草の本も現れます。中国の明時代にまとめられた「本草網目」には、1892種類もの薬草が記されおり、後の日本の「漢方」の発展に寄与しました。「植物療法」という言葉を最初に用いたのはフランスのLeclercという名の学者で、20世紀に入ってからのことです。

薬用植物の種類は?

薬用植物は、ニンニクからパイナップルまで約300種類に上ります。ドイツでは、1978年にコミッション Eと呼ばれる委員会が約250種類の薬用植物の効果、用法、副作用、さらに有効性が示唆されるか(ポジティブ)、有効性の根拠が乏しいか(ネガティブ)を評価して発表しました。

植物からつくられた薬すべてが植物療法ではない

ジキタリス、アトロピン、タキソール、モルヒネなどは、植物由来の薬です。しかし、化学合成による製薬が可能な現在、これらは一般の医薬品の1つとして扱われ、植物療法とは呼ばれません。例えばジギタリスは、ジギタリスの花の成分で、心不全の治療には欠かせない存在です。

植物療法はドイツ社会でどう受け入れられている?

16歳以上のドイツ人を対象に行った2000年の調査では、83%が植物療法を含む自然療法を好意的に捉えています(Deutsches Ärzteblatt 2001年調発表)。また別の調査でも、80%が化学合成の医薬品より植物療法などの自然療法を好むと答えています(Pascoe-Studie 2004年発表)。

植物療法についてのQ&A

どんな病気で用いられていますか?
風邪、消化器症状、不眠、うつ、不安症状、皮ふ病などの症状・病気で、植物療法などの自然療法が好まれていました(Pascoe-Studie 2004年調べ)。

薬草製剤の品質は?
ドイツの薬事法(Arzneimittelgesetz:AMG)で基準が設けられています。ただし植物であるため、生薬では気候や土壌によって発育状態にバラつきがみられます。製剤化された錠剤やカプセル剤には、含有量、抽出に用いた薬品名、添加物などが記載されています。

効能の特徴は?
一般に効果がマイルドで、薬用植物の効能は幅広く、例えばイチョウなど1つの薬用植物が、複数の有効成分を含蓄していることも少なくありません。

組み合せて用いるメリットは?
植物療法ではよく、複数の植物を組み合せて処方されます。漢方薬がいくつかの生薬を組み合わせた形で用いられるのに似ていますね。症状に合わせた配合で、より効果が上がると考えられています。

副作用はありますか?
薬用植物にも副作用がみられることがあります。 アレルギー反応以外にも、例えば甘草は、時に血圧上昇や血清カリウム値の低下を引き起こすことが知られています。

一般の医薬品との併用はできますか?
ほかの治療薬に影響を及ぼす(薬物相互作用)薬用植物もあります。例えば、イチョウの葉はパーキンソン病に使われるMAO阻害薬や血栓予防薬の効果を強めます。セントジョーンズワートは抗うつ剤、偏頭痛治療薬、抗不整脈薬、経口避妊薬などの薬剤の作用に影響します。

どんな形の薬がありますか?
お茶、顆粒、液体・シロップ、坐薬、軟膏、抽出液(エキス)を乾燥濃縮させたもの、油状塗布剤、さらに錠剤やカプセル剤があります。

薬用植物の例

イチョウ(Ginko)
葉にフラボノイド、テルペノイドなどが含まれます。ギンコール酸はアレルギー物質なので、基準値以下に除去したものが用いられます。抗酸化作用と血液凝固を抑える作用から、記憶障害や末梢循環障害などに用いられます。

甘草(Süßhölzer)
グリチルリチン、ブドウ糖、ショ糖が含まれ、胃十二指腸潰瘍、気管支炎に用いられます。グリチルリチンにはミネラルコルチコイド作用(電解質代謝)があります。

ペパーミント(Pfefferminze)
葉にメントールが含まれており、胃腸や胆のうの痙攣性の病態、筋緊張性頭痛、過敏性腸症候群に用いられます。

ユーカリ(Eukalyptus)
ユーカリの葉からとった油は、風邪の諸症状に用いられます。

センナ(Senna)
排便を促す作用のあるセンノシドが含まれます。センナ製剤は下剤として広く医薬品に用いられています。

アロエ(Aloe)
アロエに含まれるバルバロインには下剤効果があります。外用で痔疾、肛門裂肛に用いられるほか、火傷や傷の創傷回復を促進するとされています。

セントジョーンズワート(Johanniskraut)
日本ではセイヨウオトギリソウとも呼ばれます。抗うつ剤と似た作用を持つ成分が含まれており、うつ症状や不安障害に用いられます。肝臓の薬物代謝酵素に影響し、いくつかの薬剤との薬物相互作用があります。

カモミール(Echte Kamille)
花の部分が、胃腸の炎症や痙攣性の胃腸障害、歯肉や粘膜の炎症に対して用いられます。

市販の薬草製剤の例

風邪薬
総合感冒薬として用いられる「Contromutan D®」には、ムラサキバレンギク(Sonnenhut)、ベラドンナ(Tolkirsche)、ヒヨドリバナ(Wasserdost)、 青トリカブト(Blauer Eisenhut)が含まれています。

咳・気管支の炎症
「Bronchipret TP®」や「Bronchicum®」には、サクラソウ(Primeln)とタイムの葉(Thymiankraut)が含まれます。「Prospan®」「Bronchoforton®」には、キヅタ属のEfeuの葉の乾燥エキスが含まれています。

のどの痛み
のどの舐め薬(Halspastillen)には、サルビア属(Salbei)やニワトコ(Hollunderbeere)を含む製剤や、アニス(Anis)、フェンネル(Fenchel)、サクラソウなどを含むものがあります。

胃薬
胃炎や胃部膨満感などの症状に用いられるのは、9種類のエキスが含まれている「Iberogast®」です。

下痢止め
「Ginkobil®」や「Gingopret®」には、イチョウの葉の乾燥エキスが含まれています。物忘れ、めまい、耳鳴りのほか、下肢の血流障害にも用いられます。

うつ症状
抗うつ作用があるとされるセントジョーンズワートを含む製剤として、「Esbericum®」「Felis 425®」「Hyperforat®」など多くの製剤があります。同じく不安・うつ症状に対しての薬用植物、バルドリアン(Baldrian)を加えた「Psychotonin-sed®」や「Sedariston®」もあります。

更年期障害
サラシナショウマ(Trauben-Silberkertze)のエキスからつくられた「Remifemin®」や、セントジョーンズワートとの合剤である「Remifemin plus®」があります。

痛み止め軟膏
Beinwellwurzelと呼ばれる、関節痛に効くとされる薬用植物や、ローズマリー、ユーカリ、ペパーミントの入った軟膏が売られています。

痔疾
ハマメリス(Zaubernuss)が入った「FAKUTU lind®」は痔に用いられる軟膏です。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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