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ジャパンダイジェスト
Mo. 06. Jul. 2020

コロナ危機と闘うドイツ、史上初の接触制限令

3月22日、メルケル首相は厳しい表情で報道陣の前に立った。「コロナ危機はドイツにとって第二次世界大戦以降、最大の試練だ。高齢者や基礎疾患がある人たちの命を守るために、市民の自由を制約する措置が必要になった」。首相はこう述べて、ドイツ全土で2人を超える接触を禁止することを明らかにした。この措置は少なくとも4月20日まで続く。

3月25日、人通りのほとんどなくなったベルリンのブランデンブルク門前3月25日、人通りのほとんどなくなったベルリンのブランデンブルク門前

公共の場での、2人を超える接触を禁止

政府は、3月23日に施行された接触制限令によって、同じ世帯に住む家族や仕事で必要な場合を除き、公共の場で3人以上の市民が集うことを禁止。屋外でも他人との間で最低1.5メートルの距離を取るよう要請するとともに、テイクアウトを除く飲食店や理髪店の営業を禁じた。違反者には厳しい罰則が科される。例えばノルトライン=ヴェストファーレン州では、公共の場で3人以上集っていた場合、1人当たり200ユーロ(2万4000円・1ユーロ=120円換算)の罰金がある。

これに先立ち、バイエルン州政府のゼーダ―首相は3月21日から外出制限令を施行。食料など生活必需品の購入や、通院、テレワークができない仕事などを除く外出は禁止され、スーパーや薬局、銀行などを除く商店は閉鎖された。単独や家族での散歩やジョギングは許されている。

なぜドイツでの死亡率は他国よりも低いのか

メルケル政権はなぜ接触制限に踏み切ったのか。それは、イタリアやスペインのような事態を防ぐためだ。これらの国々では、特に重症者の急増に医療機関が対応できず、死者数がうなぎ上りになっている。

ジョンズ・ホプキンス大学によると、3月31日朝の時点のイタリアの感染者数は10万1739人、死者数は1万1591人。感染者数の中の死者数の比率(死亡率)は11.4%。これに対しドイツの感染者数は6万6885人、死者数は645人。死亡率は0.96%と大幅に低くなっている。

ドイツの死亡率が他国よりも低い理由はいくつかある。一つは検査数の多さだ。ベルリン・シャリテー病院のドロステン教授が3月26日に報告したところによると、ドイツでは毎週50万人がPCR検査を受けている。もう一つは、感染拡大の兆候を他国よりも早くキャッチし、隔離や治療を始めたことだ。またドイツではイタリアと違い祖父母がほかの家族と同居せず、別の家に住むケースが多いことも感染を防いでいる。

イタリア北部では1月末に肺炎患者が増えていたが、政府や地方自治体はこれが新型コロナウイルスによるものであることに気が付かなかった。そのため、市民の行動制限措置が大幅に遅れ、病院やサッカーの試合を通じて感染者が爆発的に増えたのだ。ドイツでもカーニバルのパレードや、イタリアからのスキー客の帰国によって感染者が増加。もしも政府が接触制限措置を取らなければ、感染が広がる危険があった。しかし、イタリアやスペインのように、医療体制が重症者数の増加のスピードに対処できなくなる可能性はゼロではない。3月26日にシュパーン保健相は「今は、嵐の前の静けさだ」と述べ、楽観を戒めている。

接触制限により感染拡大速度を遅らせる

ドイツには、人工呼吸器を持つ集中治療室が約2万8000床ある。メルケル政権はこの数を5万床に増やす作業を進めている。つまり政府は、接触制限令によってウイルスの感染速度にブレーキをかけることを目指しているのだ。重症者数がピークを迎える時期を遅らせることによって、医療体制がウイルス拡大に「凌駕」される事態を避けるという戦略である。

ある感染学者は、3月24日の公共放送ARDの特別番組の中で「今ドイツは、感染爆発という断崖に向かって走る列車に、非常ブレーキをかけています。国民全員が協力すれば、断崖に近づく速度を落とせるかもしれません。時間を稼げれば、ワクチンの開発によって、断崖に橋を架けることも可能になるかもしれません」と述べ、接触や外出制限の重要性を強調した。

戦後最大の支援パッケージを実施

しかしシャットダウンが経済に与える悪影響は、日に日に大きくなっている。大手自動車メーカーは欧州や米国での生産を中止したほか、ルフトハンザは国家支援を受けるべく政府と協議中だ。多くの中小企業や食品以外の商店、レストラン経営者らは突然売上高がゼロになり、途方に暮れている。2010年以降、好景気に沸いていたドイツ経済は急転直下、第二次世界大戦以降、最も深刻な景気後退に追い込まれるだろう。

IFO経済研究所は、3月24日に「コロナ危機のために経済活動が3カ月停止した場合、ドイツの今年の国内総生産は約20%減り、失業者数が180万人増える可能性がある。経済損害は、最悪の場合7290億ユーロ(約87兆円)にのぼる」という悲観的な予測を発表した。このため連邦議会は、3月25日に戦後最大規模の経済支援法案を可決した。ドイツは2014年以来財政黒字を記録し「無借金経営」を続けてきたが、今年は1560億ユーロ(18兆7200億円)の国債を発行し、資金供給によって中小企業や市民を支援する。

だが最大の不透明要因は、ウイルス拡大がいつまで続くのかが分からないことだ。ワクチンが開発されるのも、来年以降になるとみられている。ロベルト・コッホ研究所のヴィーラー所長は「このパンデミックは2年間は続くと考えている」と語っている。一刻も早くコロナ危機が世界から去ることを祈りたい。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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