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現政権への支持率激減 AfDが初めて首位に

ドイツを覆った初夏を思わせる陽気とは対照的に、メルツ政権の頭上には分厚い暗雲が立ち込めている。政権発足から約1年でフリードリヒ・メルツ氏に対する国民の信頼感が低下した。この国で最も権威がある二つの世論調査機関が、右翼ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢」(AfD)への支持率がキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)を抜き、初めて首位に立ったことを明らかにした。

ドイツの政党支持率調査(ARDとインフラテスト・ディマップ)※2026年5月7日発表ドイツの政党支持率調査(ARDとインフラテスト・ディマップ)
※2026年5月7日発表

メルツ支持率は16%と歴代最低に

5月7日に公共放送局ARDと世論調査機関インフラテスト・ディマップは「AfDへの支持率が27%と、CDU・CSU(24%)を初めて抜いた」と報じた。また5月11日にアレンスバッハ人口動態研究所が公表した政党支持率調査でも、AfDへの支持率は26%とCDU・CSU(25%)を初めて上回った。ドイツには八つの主要な世論調査機関があり、新聞社や放送局などのために政党支持率調査を発表している。今年4月には、そのうち半分に当たる4社の調査で、すでにAfDがCDU・CSUを追い抜いていた。

AfDのアリス・ヴァイデル共同党首は、これらの結果を受けて「われわれはドイツを建て直すために、政権に就く準備がある。メルツ首相が退陣すれば、CDU・CSUの少数派政権を支援する準備がある」と述べ、ドイツ政界で重要な役割を演じることへの期待を見せている。

AfDへの支持率がCDU・CSUを上回った理由の一つは、メルツ氏に対する国民の不満の高まりだ。インフラテスト・ディマップの調査によると、「政府の仕事ぶりに満足している」と答えた回答者の比率は13%。さらにメルツ首相の仕事ぶりに満足を表明したのも、わずか16%だった。これは歴代の首相の中で最低の数字だ。

景気回復の兆しが見えない

メルツ氏への不満が強まっている理由は、いくつかある。首相は昨年以来、ドイツのGDP(国内総生産)成長率を2%に引き上げ、2022年以来続いている不況を克服するためにさまざまな経済対策を打ち出して来た。例えば緊縮的な財政政策を部分的に改めて、経済活性化のため国債発行による積極財政に転じた。具体的には総額5000億ユーロ(92兆5000億円・1ユーロ=185円換算)の国債を発行して、高速道路、鉄道線路、送電網などのインフラへの公共投資を実施する。

メルツ政権は企業の国際競争力を高めるために、産業用電力料金や電力税などを引き下げたり、自動車業界を支援するために前のショルツ政権が廃止した電気自動車向けの購入補助金を復活させたりした。再生可能エネルギー拡大などのエネルギー転換にかかるコストを抑制し、市民や企業の負担を軽減するための対策も次々に打ち出している。

だがこれらの政策がドイツの景気を回復させ、成長率を引き上げるには時間がかかる。自動車業界を中心として、人件費を節約するための従業員数削減のニュースが後を絶たない。フォルクスワーゲンだけでも、2030年までに国内の従業員数を3万5000人減らす方針だ。

イラン戦争もこの国の経済に影を落としている。ドイツの実質GDP成長率は2023年と2024年にマイナスで、2025年は0.2%だった。メルツ政権は今年1月、「2026年の実質GDP成長率は1. 0%になる」という予測を発表していたが、4月にはイラン戦争の影響でこの数字を0.5%に修正した。もし仮にホルムズ海峡の通行が近い将来に可能になったとしても、今年中にドイツ経済の成長率が大きく回復することは期待できない。

社会保障改革で不満が高まる

さらにメルツ政権にとっての大きな試練となるのが、社会保障改革だ。同政権は現在、公的健康保険と公的年金保険制度の改革を進めている。過去20年で最も抜本的な改革だ。政府はこれらの制度の赤字を大幅に減らすために、国民の自己負担を増やし、保険のカバー範囲を減らす。例えばこれまで公的健康保険では、所得が一定の水準(2026年時点で565ユーロ)を超えない場合、配偶者は無料でカバーされた。メルツ政権は原則として無料カバーを廃止し、配偶者からも保険料を徴収することを決めた。

公的年金については現在学識経験者らから成る委員会が提案を作成中だが、支給開始年齢を現在の67歳から70歳に引き上げるという提案も浮上している。またメルツ政権は労働時間の制限をこれまでの1日当たりから、週単位に変更することを目指している。労働組合はすでにこうした提案に反対しており、市民がメルツ政権への不満をさらに強めることは必至だ。

ザクセン=アンハルト州でAfDの州首相?

今ドイツの政界で特に注目されている選挙が、9月6日に予定されている旧東ドイツのザクセン=アンハルト州の州議会選挙だ。この州ではAfDの州首相が初めて誕生する可能性が強まっている。世論調査機関INSAが今年5月13日に公表した政党支持率調査によると、AfDへの支持率は42%で首位だった。2位のCDUとの間には18ポイントもの差が開いていた。日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は、「ザクセン=アンハルト州議会選挙でAfDが43%の得票率を確保し、緑の党、自由民主党(FDP)などの得票率が5%に達せず、議席を取れない場合、AfDの議席数が過半数に達し、同党が単独政権を樹立できる」と報じた。

AfDの州首相が誕生した場合、ドイツの対外的イメージには深い傷がつく。だがメルツ首相にとって国民の信頼を回復するのは容易なことではない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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