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ジャパンダイジェスト
Mo. 06. Jul. 2020

ロックダウン緩和開始とウイルス拡大への懸念

ドイツは主要先進国の中では最も早く、コロナ危機に伴うロックダウンの部分的な解除に踏み切った。だがウイルス学者の間では、経済活動などの早急な再開について、「ウイルスの拡大を加速する危険がある」という警告も出ている。

ベルリンでは、4月27日から公共交通機関の利用時にマスク着用が義務化されたベルリンでは、4月27日から公共交通機関の利用時にマスク着用が義務化された

部分的な「正常化」への動き

まず各州政府は、4月20日以降、面積が800平方メートル以下の商店の営業再開を許可し始めた(具体的な再開日には、州の間で違いがある)。自動車、自転車、書籍を売る店などは、面積にかかわらず再開を許可。ただし、店内では顧客は最低1.5メートルの間隔を取らなくてはならず、マスク着用も義務づけられた。また、学校も徐々に再開されている。たとえばノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州では、4月23日にアビトゥーア(大学など高等教育機関への入学資格試験)を控えた生徒たちの授業を再開し、5月4日から小学校の授業も部分的に始まった。

ドイツは連邦制の国なので、防疫政策の最終的な決定権は各州政府が握っている。このため、学校再開の日程などに州の間で違いがある。特に南と北に温度差が目立つ。NRW州のラシェット州首相は、教育や経済活動の早期の再開へ向けて積極的だ。これに対し、バイエルン州はNRW州よりも慎重で、授業や商店の再開時期もやや遅い。この背景には、バイエルン州の感染者数がドイツで最も多いという事実もある。

それでも社会全体の流れが、「ロックダウンの部分的な緩和」へ向けて進んでいることは間違いない。5月4日からは、慎重なバイエルン州政府ですら教会のミサや集会を人数の制限付きで許可し始めたほか、理髪店や美容院の営業も再開された。

ロックダウンで独経済に深刻な打撃

緩和の背景には、食品販売や薬局を除く多くの商店が、3月以来、売上高の急減・経営難に苦しんでいるという事実がある。ドイツ小売業協会(HDE)によると、食料品を除き、営業禁止措置のために小売店業界が1日ごとに失う売上高は、11億5000万ユーロ(1380億円・1ユーロ=120円換算)に達する。また、ドイツ商工会議所(DIHK)が4月3日に発表したアンケート結果によれば、ドイツの企業・事業所の43%で業務が完全に停止しているという。

レストランや酒場、クラブ、ホテルなどは、ロックダウン緩和の対象にまだ含まれていない。HDEによると、飲食店の91%、旅行関連企業の82%が全く営業していない状態だ。ホテル・飲食業連合会(Dehoga)は「4月末までに、100億ユーロ(1兆2000億円)の売上額が失われる。このままでは、会員企業の3分の1に相当する約7万の企業や飲食店が倒産するだろう」と警告している。

経済界は4月20日以降、商店の部分的な再開が許されたことを歓迎しているが、「なぜ800平方メートル以下の店だけが営業を許されるのかの理由が曖昧だ。レストランやホテルについては、将来の営業の見通しが全く立たない」という不満の声もある。一部の行政裁判所は、「面積が800平方メートルを超える店の営業を許さないのは、適法ではない」という判断を示している。これに対し政府は、「繁華街が多数の市民で混雑するのを防ぐためには、商店の営業再開は段階的に行う」と説明した。

学界からはロックダウンの早期緩和に批判の声

メルケル首相は、「せっかく国民の努力によって感染拡大の速度が抑えられているのに、外出制限措置を急に解除することで、ウイルス拡大が再び加速されたら、元も子もない」と述べて、各州政府に対し拙速を戒めている。

この背景には、ウイルス学者たちの慎重な姿勢がある。1人の感染者が何人に感染させるかを、「再生産数=R」と呼ぶ。これは市民の間の感染速度を推測する手掛かりとなる数字だ。ロベルト・コッホ研究所によると、3月10日には1人の感染者が3人に感染させていた。外出制限令の施行や、気温の上昇によって、4月17日の時点ではRが0.7に下がった。だが、ロックダウンを緩和すると外出する人が増えて、感染速度が再び加速される可能性がある。実際、復活祭には初夏のような陽気に誘われて外出する人が増えたため、4月27日にはRが再び1に増えてしまった。

ドイツには現在人工呼吸器付きの集中治療室(ICU)が約1万3000床空いている。だがメルケル首相が4月15日に説明したところによると、Rが1.2に増えると今年7月にはICUの余裕がなくなってしまう。また、新型コロナウイルスは秋から冬にかけて気温が下がり始めると再び活発になる危険があり、一部のウイルス学者は「秋以降に第二波が来る可能性がある」と述べている。1918年から2年間にわたり全世界で流行したスペイン風邪でも、秋以降に第二波が襲来した。ベルリン・シャリテー病院のドロステン教授も、「ドイツは早めに準備を始めたので、これまでのところはイタリアやスペインのような事態を避けられた。今慌ててロックダウンを緩和して、事態を悪化させてはならない」と警鐘を鳴らしている。

学界では、新型コロナウイルスに対して有効なワクチンが開発され、実際に投与が始まるのは早くても2021年になるという見方が有力だ。メルケル政権は、市民の生命を守りながら、景気後退の悪影響を最小限にとどめるという難しい綱渡りを、今後長期間にわたって迫られるだろう。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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