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高まる変異株の不安 - 独政府がワクチン義務化へ

ドイツで毎日4~6万人の新規感染者が出るなか、新たな変異株オミクロン感染者がドイツでも見つかった。ショルツ政権はワクチン接種キャンペーンを始めたほか、接種義務化のための準備を開始した。

1日、連邦軍の輸送機がドレスデンからケルンへコロナ重症患者を移送する様子1日、連邦軍の輸送機がドレスデンからケルンへコロナ重症患者を移送する様子

「ワクチン拒否者へのロックダウン」

3日、連邦政府と州政府は感染者数を抑制するために、感染症防止法を強化することで合意した。政府は今年末までに3000万人にワクチンを接種するが、法改正によって薬局の従業員や歯科医、介護職員も接種作業に動員する。

7日間指数(7日間における人口10万人当たりの感染者数)や入院指数が特に高い地域では、地方自治体はクラブ、バー、レストランなどの営業禁止を命じる。食料品店や薬局を除いて、商店にも2G規則を拡大し、接種者か快復者以外は入店禁止に。ワクチン拒否者には接触制限を実施し、家族以外は2人までしか接触できないようにする。ブンデスリーガのサッカーの試合は、今年末までは無観客で実施するという。

また連邦首相府にコロナ危機対策本部を設置し、連邦軍のカルステン・ブロイヤー少将がロジスティクスを指揮する。同氏はこれまでも連邦軍兵士による病院や介護施設の支援、物資の運搬などを統括した経験をもつ。

11月30日には、カールスルーエの連邦憲法裁判所が、今年4月から2カ月にわたって政府が実施した「連邦非常ブレーキ」について、合憲の判断を下した。当時のメルケル政権は、ウイルス拡大を防ぐために、全国規模で休校措置や夜間の外出禁止措置を実施したが、多くの市民が違憲訴訟を起こしていた。これに対し憲法裁は、「国民の健康と安全に関わる非常事態には、政府は自由権を制限することを許される」として、メルケル氏の決定を追認した。この判決は、ショルツ政権や各州政府の首相たちにとって、コロナ対策を一段と強化するための追い風となった。

接種義務化への作業を開始

さらにオラフ・ショルツ首相は来年2月までに、小児などを除く国民全員に対するワクチン接種義務を法制化する作業を始めることを宣言した。義務化された場合には、接種拒否者は罰金を科される。ドイツの接種率は11月30日の時点でも、68.5%にすぎない。政府は、「市民の自主的な判断に任せていては、もう接種率は上がらない」と判断したのだ。だが義務化するには、政府が法案を連邦議会に提出し、議員たちが票決で法案を可決させなくてはならない。ドイツでは今後義務化をめぐって、激しい議論が行われるだろう。

興味深いのは、これまでショルツ氏、メルケル前首相や各州首相たちは、一貫して「接種義務を導入しない」と明言してきたことだ。つまり政治家たちは前言を翻したことになり、面目丸つぶれとなった。彼らが態度を180度転換せざるを得なかったことは、ドイツの状況がいかに深刻かを物語っている。

11月上旬に始まったドイツの感染爆発は、今なお続いている。11月30日の新規感染者数は6万7186人。446人が死亡した。7日間指数は442.9で、早く対策を始めたイタリア(143.1)スペイン(130.2)、イスラエル(39.5)よりもはるかに高い。

最も被害が深刻となっているザクセン州(7日間指数1268.9)、テューリンゲン州(936.7)、バイエルン州(619.1)では一部の病院で集中治療室(ICU)のベッドが足りなくなり、約50人の重症者が連邦軍の輸送機やヘリコプターで、北部の病院へ搬送された。医師や看護師たちは、肉体的、精神的に極限状態のなかで患者の治療にあたっている。ドイツ集中治療・救急医療協会(DIVI)によると、11月30日の時点でドイツにはICUに2万2186床のベッドがあるが、そのうち89.3%が埋まっている。残りは2363床である。

オミクロン変異株への不安

もう一つの大きな懸念は、11月9日に南アフリカで検出されたオミクロン変異株である。この変異株は、デルタよりも感染力が強いとされ、世界保健機関(WHO)は11月29日に「この変異株は非常に高いリスクを秘めている」と各国政府に警告した。オミクロン感染者は、アフリカからの渡航者を中心として、ドイツ、イスラエル、英国、日本などで見つかっている。

マインツのバイオンテック社などは、現在のコロナワクチンがオミクロン変異株による発症を効果的に防げるかどうかについて、分析を急いでいる。メッセンジャーRNAワクチンの特徴は、ウイルスに合わせた「改良」が比較的簡単であることだ。バイオンテック社とともにワクチンを開発したファイザー社は、必要となれば、約100日でワクチンのアップデートが可能だと説明している。

ドイツでは連邦議会選挙のために、夏から秋にかけてのコロナ対策がおろそかになった。政治家たちは支持率が下がるのを恐れて、選挙戦で「冬に向けて接種率の引き上げなど、厳しい対策が必要だ」というメッセージを前面に押し出さなかった。彼らは、ワクチンの義務化など、有権者の耳に痛いことを言うのを避けたのだ。その結果、フランス、イタリア、スペイン、イスラエルなどに比べて対策強化が大幅に遅れ、感染爆発を招いた。欧州のほかの国々は、「かつてコロナ対策の優等国といわれたドイツは、なぜ感染拡大に歯止めをかけられないのだろう」と首をかしげている。

ショルツ政権の最初の仕事は、コロナとの闘いになった。同政権が感染爆発を抑制し、重症者や死者の数を減らせるかどうか、世界全体が注視している。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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