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ドイツ、2030年のCO2削減目標の達成失敗か

欧州で気候変動への不安が高まるなか、ドイツ政府の諮問機関・気候問題専門家評議会(ERK)は8月22日、「政府の気候保護プログラム(KSP)施策は不十分であり、ドイツは2030年の二酸化炭素(CO2)削減目標を達成できない」という厳しい見解を発表した。

交通によるCO排出量の多さが目標達成の足かせの一つになっている交通によるCO2排出量の多さが目標達成の足かせの一つになっている

2030年までにCO2排出量を65%減に

2019年に施行され、2021年に改訂された気候保護法は、2030年までにCO2などの温室効果ガス(GHG)の排出量を、1990年比で65%減らすことを政府に義務付けている。ドイツでは2022年に7億4600万トンのGHGが排出されたが、2030年までに4億4000万トンに減らさなければならない。

さらに政府は、2040年までにGHGの排出量を88%減らし、2045年までにカーボンニュートラルを達成しなくてはならない。カーボンニュートラルとは、CO2排出量が事実上ゼロの状態だ。排出が避けられないCO2と同じ量のCO2を植林や大気中からの回収することで、プラスマイナスゼロの状態にする。KSPは、気候保護法の基礎となるもので、再エネ拡大、水素を生産するための水電解設備の建設など130の施策が盛り込まれている。

交通と暖房からの排出量に大きなギャップ

ERKのハンス・マルティン・ヘンニヒ座長は、ベルリンでの記者会見で「KSPの方向性は正しいが、具体的な施策が不十分だ。今のままでは、2030年にドイツで排出される温室効果ガスの量は、目標値を約2億トン上回ってしまう」と批判した。

気候保護法は、エネルギー、製造業、交通、建物、農業の五つの部門について、2030年までに排出を許される温室効果ガスの上限を定めている。それぞれの大臣が排出量の削減を監督しなくてはならない。ERKの報告書によると、エネルギーと農業の各部門は2030年の目標を達成できるが、それ以外の3部門は達成に失敗する。特にギャップが大きいのが自動車や船舶など交通部門で、2030年の排出量は目標値を1億1700万トン~1億9100万トン上回る見通しだ。

気候保護法の改正案は今年6月21日にショルツ政権によって公表され、現在連邦議会で審議されている。ヘンニヒ座長は、「政府は、2030年の排出量と目標値のギャップをどう埋めるのかは明らかにしていない。政府はKSPを見直すべきだ」と述べた。

気候変動による影響が顕在化

今年の夏には、世界各地で地球温暖化や気候変動と関連があると思われる現象が多発した。気候学者たちによると、欧州は地球温暖化の兆候が世界で最も明確に表われている地域の一つだ。

例えば、イタリアのサルデーニャ島では、7月25日に気温が48.2度に達した。これは2021年にシチリア島で観測された欧州での最高気温(48.8度)に次ぐ。南欧ではギリシャのロードス島、スペインのテネリファ島などで森林火災が多発し、多くの観光客が避難を強いられた。地中海では、一時水温が通常よりも1~5度高い25~30度に達した。水温の上昇は大気中の水蒸気を増やすので、いわゆるゲリラ豪雨の頻度を高める。今年5月にはイタリアのエミリア・ロマーニャ地方、6月にはスロベニアなどバルカン半島を洪水が襲い、深刻な被害をもたらした。

気候変動は、難民危機にも拍車をかける。アフリカの一部の地域では、数年前から一度も雨が降らず、深刻な食料難が起きている。今後食糧や水不足が原因で、アフリカや中東から欧州を目指す市民が増える可能性があるという。難民数は、すでに増加傾向にある。欧州統計局によると、2020年に欧州連合(EU)加盟国で亡命申請した難民の数は約47万人だった。2022年には104%増えて約96万人になった。

温暖化は、生命と健康にも関わる問題だ。7月28日、ドイツのカール・ラウターバッハ健康大臣は、「昨年わが国では、暑さに関連した死者の数が約8000人に達したと推定される」と発表した。日本の2022年6~9月の熱中症による死者数1387人(厚生労働省調べ)を大幅に上回る。ドイツでは日本に比べてエアコンが普及していないことが一因かもしれない。ラウターバッハ大臣は、死者数を半分に減らす対策を実施すると約束した。

一部の市民は気候保護策に反発

ドイツではハーベック経済・気候保護大臣が、建物エネルギー法案によってヒートポンプを急速に普及させようとしたが、野党などの反対のために内容を大幅に緩和せざるを得なかった。この法案は緑の党への支持率を引き下げ、右翼政党ドイツのための選択肢(AfD)の支持率を押し上げる一因となった。一部の市民は、気候保護のための政策に強い反発を示している。

今年11月には、ドバイで地球温暖化に関する国連の会議COP28が開かれる。この会議では、CO2削減の加速を求めるEUと、産油国の間で意見が激しく対立することが予想される。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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