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CSUはなぜ大敗したのか

9月28日のバイエルン州議会選挙は、「革命的な事件」としてこの国の政治史に記録されるだろう。政権党のキリスト教社会同盟(CSU)が未曾有の大敗を喫し、46年ぶりに単独過半数を失ったのだ。同党の得票率は前回選挙の60.7%から17ポイントも減り、43.4%となった。支持者の数が約162万人も減ったことを意味する。同党のパートナーであるキリスト教民主同盟(CDU)、そしてメルケル首相にとっても大きな痛手だ。

CSUが得票率を減らすことは予想されていた。だが有権者がこれほど激しくCSUに反旗を翻し、長期単独政権を崩壊させるとは誰も予想していなかった。CSUが失った票は、どこへ流れたのだろうか。最も躍進したのが、無党派の有権者組織「フライエ・ヴェーラー(FW)」である。FWの得票率は前回の4%から2倍以上増えて、10.2%となった。FWはCSUの票を大量に切り崩し、支持者を約68万人も増やした。FWはミュンヘンなどの大都市では影響力が少ないが、小都市や農村地域では強い支持基盤を持つ。また前回の選挙でわずか2.6%の得票率だった自由民主党(FDP)も、CSUの票を大量に奪って8%を確保し、17年ぶりに州議会に返り咲くことになった。

バイエルン州はバーデン=ヴュルテンベルク州と並んでドイツで最も経済状態が良い州であり、失業率も全国で最も低い部類に属する。それにもかかわらず、市民はCSUの政治に不満を持っていた。その原因の1つは、CSUの党首でもあったシュトイバー前首相である。長年にわたる単独支配は、緊張感を失わせたようである。シュトイバー氏はトランスラピードのように多額の費用がかかり、庶民に受け入れられないプロジェクトを強引に推し進めようとした。ベルリンで大連立政権ができた時、シュトイバー氏は閣僚として中央政界で働くという公約を翻して州首相にとどまり、優柔不断な性格をさらけ出した。

経済グローバル化の圧力により多くの企業でリストラが進み、市民の間で将来への不安が高まる中、CSUは「どのように経済立地バイエルンの未来を確保するか」という問いに答えを出せなかった。長期単独政権は民意を読めなくなり、地に足がついた政策を執ることができなくなったのだ。

シュトイバー氏の後を継いだベックシュタイン州首相とフーバー党首は、トランスラピード計画を直ちに撤回したものの、前体制の頑迷さや保守性を色濃く残していた。多くの市民は「この2人ではCSUを改革し、バイエルン州の繁栄を維持することはできない」と考えたのである。両氏が大敗の責任を取り、辞任の意向を表明したのは当然のことである。州政府が1つの党に支配される時代が終わったことは、民主主義の基本原則に照らして好ましい。今回の「大地震」は、バイエルン州が半世紀ぶりに「正常な状態」に戻ったことを意味する。だがCSUの敗北を利用できず、むしろ得票率を減らした社会民主党(SPD)にとっても危機が続いている。投票率の低さと合わせて、来年の連邦議会選挙で在来政党が厳しい戦いを強いられることを予言しているのではないか。

10 Oktober 2008 Nr. 735

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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