Hanacell

金融危機とボーナス論争

米国の不動産バブル崩壊に直撃されたドイツでは、多くの金融機関が巨額の赤字を抱え、危機の只中にある。しかしそうした中でも、ドレスナーバンクの投資銀行であるドレスナー・クラインヴォルト(DKW)の面々は笑いが止まらないだろう。社長だったシュテファン・イエンチュ氏は、巨額の損失を生んだにもかかわらず、800万ユーロ(約9億6000万円)の退職金を手にしている。さらに、彼の下で働いていたディーラーたちも、合わせて4億ユーロ(約480億円)のボーナスを支給されることになっている。

DKWは昨年の第3四半期までに22億ユーロ(約2640億円)の損失を計上。コメルツバンクは昨年アリアンツ保険からドレスナーバンクを買い取ったが、買収してからドレスナーの財務状態が当初の予想よりも悪いことに気付き、ドイツ政府に支援を要請した。政府はコメルツの破たんを防ぐために、同行に180億ユーロ(約2兆1600億円)の公的資金を注入するとともに、株式の25%を買い取って部分的に国有化した。

イエンチュ元社長の退職金やディーラーたちへのボーナスは、彼らの契約に明記されていたものであり、法的には問題がない。だが彼らがコメルツの経営悪化の一因を作ったことも間違いない。そうした銀行員たちが多額のボーナスを受け取ることに、ドイツ社会では強い憤りの声が上がっている。

財務省側にも落ち度はある。コメルツバンクへの支援を決定する際に、社員への多額のボーナス支払いを禁止するなどの条件を設けなかったからだ。メルケル首相は、「国の支援を受けている銀行が、同時に巨額のボーナスを支払うことは理解できない」と述べてバンカーたちの振る舞いを批判した。

金融機関に注入される公的資金は、国民の血税である。大手銀行が破たんすると、ドイツだけでなく世界中の金融システムに悪影響が及ぶので、政府は銀行が潰れないように天文学的な額の金融支援を行わざるを得ない。

しかし、幹部に巨額のボーナスを支払うのは、DKWだけではない。英国のRBSは、昨年352億ユーロ(約4兆2240億円)の赤字を出しながら、総額13億ユーロ(約1560億円)のボーナスを支払う。スイスのUBSの幹部たちも、124億ユーロ(約1兆4880億円)の赤字決算にもかかわらず、合計14億ユーロ(約1680億円)のボーナスを受け取る。

多くのメーカーが社員の解雇や労働時間の短縮に追い込まれている。銀行融資の条件も厳しくなり多くの企業が資金繰りに苦労している。そうした中、不況の一因を作った銀行が幹部たちに多額のボーナスを払うことに、市民の怒りが高まるのは当然だ。

だが、銀行が高い報酬で人材を集めるのは今に始まったことではない。「利潤極大化」という根本的な欲望がある限り、この不況が去った時、金融機関は再び高額のボーナスでディーラーをかき集め、短期的な利益の計上に走るだろう。過去に世界中で何回もバブルが出現しては消えていったが、バブルの形成が一向に後を絶たないのは、人間の性(さが)のためである。

27 Februar 2009 Nr. 754

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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