Hanacell

アフガン戦争の闇


©CDU/ullstein bild - ddp

ドイツを初めとする西側諸国が多数の将兵を派遣し、抵抗勢力との戦闘を続けているアフガニスタンでは、状況がますます混沌としてきた。特に今年9月4日に、ドイツ連邦軍のクライン大佐が現地で下した攻撃命令は、首都ベルリンにも政治的な衝撃波をもたらした。この日、抵抗勢力タリバンが2台のタンクローリーを盗んだが、大佐は「タンクローリーが自爆テロに使われる危険がある」と判断して、米軍の戦闘機に爆撃を命じた。この攻撃でアフガン人約140人が死亡した。

当時国防大臣だったユング氏は、攻撃直後に現場を視察した憲兵隊から「死者の中にはタリバンだけでなく民間人も含まれている」という報告書を受けとっていたにもかかわらず、マスコミに対して「死亡したのは抵抗勢力だけだ」と嘘をついていた。

ユング氏は新政権で労働大臣になっていたが、ビルト紙が報告書の存在をすっぱ抜くと、労働大臣を辞任した。さらにグッテンベルク新国防相は、制服組の最高幹部であるシュナイダーハン総監だけでなく、ヴィヒャート国防次官も解任した。

グッテンベルク氏は国防大臣に就任した直後、「クライン大佐が下した爆撃命令は軍事的に正しかった」と公言していた。しかし、今回明るみに出た憲兵隊の報告書を読んだ結果、12月3日に「爆撃命令は軍事的に適切ではなかった」と発言を訂正した。

この異例の方向転換は、問題の報告書を国防省の幹部たちが隠していたことが原因であり、グッテンベルク氏の責任ではない。それにしても、メルケル政権きってのスター閣僚としては内心忸怩(じくじ)たる思いがあろう。

ドイツは約4500人の戦闘部隊をアフガニスタンに送っている。メルケル首相は、「タリバンが政権を奪還したら、テロ組織アルカイダに基地を提供し、再びアフガニスタンが欧米諸国に対する大規模なテロのための出撃拠点になる危険がある」と主張して、この戦争への参加を正当化している。実際、タリバンがこの国を再び支配したら、長年の内戦による荒廃からの復興努力や、今かすかに芽生えつつある民主的な政治への希望は水泡に帰すだろう。タリバンは核兵器を持つ隣国パキスタンでもテロ攻撃を強化しており、この地域の安定化は世界全体にとって重要な課題である。

だがタリバンによる外国駐留軍への攻撃の回数は年々増加している。さらに欧米諸国が支援しているカルザイ氏が、大統領選挙で得票数を不正に水増ししていたことや、真剣に腐敗を根絶しようとしていないことも明らかになった。欧米がこうした大統領を支援することが妥当かどうかについても、議論が起きている。

ドイツ政府は元々「軍事手段だけでアフガニスタンをタリバンから守ることはできない」として、病院や学校などインフラの建設、行政機関の整備、警察官の訓練など民生面での支援に力を入れようとしてきた。だが現地の治安が悪化するにつれて、抵抗勢力との戦闘に巻き込まれることが多くなってきた。

ユング氏らが、民間人の死傷者に言及した報告書を長い間隠し、メルケル首相や世間をあざむいていたことは、事実を糊塗し、「臭いものにはフタ」という発想が国防省に残っていることを浮き彫りにした。ドイツ市民のアフガン派兵についての反感は、このスキャンダルでさらに強まるに違いない。政府は年明け早々、アフガン駐留部隊を増やすかどうかについて決定を迫られるが、これは極めて難しい選択になるだろう。

18 Dezember 2009 Nr. 796

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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