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ヴェスターヴェレ論争


©Michael Sohn/AP/Press Association Images
読者の皆さんの中には、連立政権のナンバー2であるギド・ヴェスターヴェレ外務大臣が、なぜ今マスコミと野党の集中砲火にさらされているのか、不思議に思われる方もいるだろう。

批判の原因は、ヴェスターヴェレ氏が今年1月に中国、日本、サウジアラビアなどに外遊した際、ボーイフレンドだけでなく、親しいビジネスマンを同行させたことである。

彼らは旅費を自分で負担しており、公費の流用などの法律違反は確認されていない。それでも、ヴェスターヴェレ外相が同行させたスイス人の実業家C・ベルシュ氏は彼の親しい友人で、自由民主党(FDP)に献金を行っているほか、ヴェスターヴェレ氏の兄弟が経営する会社に資本参加している。ベルシュ氏は、ヴェスターヴェレ外相のボーイフレンドが経営する会社にも関わっている。

FDPは、企業家や自営業者を重要な支持基盤としている。このため党首であるヴェスターヴェレ氏がビジネスマンを外遊に同行させて、企業の国際的なネットワーク作りを助けるのは、望ましいことだ。資源が乏しいドイツは、貿易に大きく依存しているからだ。

しかし、外相という重要な立場に就いている今、親しい人をひいきにする「縁故主義」と誤解されるような行為は避けるべきだ。ヴェスターヴェレ氏は「外遊に同行した人は公正に選ばれており、やましいことは全くない。(縁故主義との批判は)私の家族まで中傷するキャンペーンだ」と反論しているが、市民は完全には納得していない。

この結果、3月中旬にZDFが行った世論調査によると、ヴェスターヴェレ氏への評価はマイナス0.9と、連立政権の主要な政治家の中で最も悪くなっている。通常、ドイツの外務大臣はマスコミへの露出度が高いこともあり、閣僚の中で最も国民からの評価が高いポストである。したがってヴェスターヴェレ氏は今回の騒動によって、政治的に大きなダメージを受けたことになる。

彼に対する集中砲火は、5月9日にノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW)で行われる州議会選挙の前哨戦が始まったことを意味する。政治的な醜聞は、しばしば重要な選挙の前に暴露される。特定の政治家や政党の得票率を下げるためである。

ドイツ最大の人口を持つNRW州議会選挙は、この国全体の政局の行方を占う上で重要な意味を持っており、「ミニ連邦議会選挙」と呼ばれることがあるほどだ。

現在メルケル首相が率いるCDU(キリスト教民主同盟)への支持率は、急速に下がりつつある。果たしてNRW州のリュトガース首相(CDU)は、FDPとの連立政権を維持するだけの票を確保できるのか。ヴェスターヴェレ氏への集中砲火でFDPの得票率が下がった場合、CDUは緑の党と連立する可能性を探るのか?

一方、昨年の連邦議会選挙で大敗し、結党以来の危機に直面している社民党(SPD)にとっても、NRW州での選挙は試金石となる。SPDは、東独の社会主義政権の後身である左派政党リンケと本格的に連立して、これまではタブーとされてきた中央政界での「赤・赤」連立へ向けて本格的な一歩を踏み出すのか。

「ローマ帝政末期のような退廃につながる」とヴェスターヴェレ氏が警告した、ドイツの社会保障制度をめぐる論争に、NRW州の有権者はどのような判断を下すのか。選挙の結果が、大いに注目される。

26 März 2010 Nr. 809

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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