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NRW選挙・保守政権崩壊

「私にとって、そして党にとって厳しい日だ。私は敗北の責任を取る」。ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州のJ・リュトガース首相(キリスト教民主同盟=CDU)は、5月9日夜、こわばった表情でこう語った。「ミニ連邦議会選挙」と呼ばれるほど注目された同州の議会選挙で、有権者はCDUとFDP(自由民主党)の連立政権に鉄槌を下した。

CDUは前回の選挙に比べて得票率を10.2ポイント下げ、34.6%しか確保できなかった。FDPは得票率を0.5%増やしたものの、両党は議席の過半数を取れなかった。NRW州での保守中道政権の崩壊により、CDUとFDPは連邦参議院でも過半数を失った。SPD(社会民主党)も得票率を2.6%減らしたが、CDUと同じ67議席を確保。今回の選挙の勝利者は、緑の党である。同党の得票率は前回の6.2%からほぼ2倍に増え、12.1%となった。

注目されるのは、連立政権をめぐる交渉である。最も自然な流れは、SPDと緑の党の連立だ。SPDの州首相候補であるH・クラフト氏も、「まず緑の党と連立について話し合う」としているが、SPDと緑の党だけでは議席が過半数に達しない。このため、SPDと緑の党が、初めて11議席を確保した左派政党リンケと「赤・赤・緑政権」を樹立するかどうかが焦点である。しかしヘッセン州議会選挙で見られたように、SPDには社会主義時代の東ドイツの政権党の流れをくむリンケとの連立に強い反感を持つ人々がいる。

また、SPDがCDUを交えて大連立政権を作る可能性もある。だが大連立政権には、政党の間の政策の違いが不明確になり、有権者の不満が募るという難点がある。いずれにせよ、クラフト氏は慎重な判断を迫られる。

元々NRW州は、SPDの牙城だった。CDUは前回の選挙で、39年間にわたったSPDによる支配体制を終わらせたのだが、CDUとFDPの連立政権はわずか1期と短命だった。最大の理由は、リュトガース氏の指導力の弱さである。NRW州は、州政府や自治体の債務、雇用、教育など様々な懸案を抱えているが、リュトガース氏はこれらの問題について有効な対策を打ち出せず、有権者の間では現政権に対して不満感が高まっていた。

さらに、今年2月にCDUのNRW州支部に対して「スポンサー疑惑」が浮上したことも痛手だった。同支部は、企業に対して「1万ユーロから2万ユーロを払えば、リュトガース首相と単独で話したり、首相を交えて写真撮影をしたりできるように便宜を図る」という手紙を送っていたのだ。リュトガース氏は関与を全面的に否定し、支部の幹事長を更迭したが、この疑惑がCDUのイメージを悪くし、選挙戦の出足をくじいたことは間違いない。

また、中央政界でのメルケル政権のイメージも最近は芳しくない。たとえばCDUとFDPの間には、減税や健康保険制度の改革をめぐって足並みの乱れが見られる。多くの市民がFDPの提案する「国民一律保険料制度」に不満を抱いている。ギリシャの債務危機について、メルケル首相がほかのEU加盟国の圧力に抗することができず、ドイツが多額の負担を強いられることも、CDUの票を減らした。

NRW州の州議会選挙の結果は、その次の連邦議会選挙に密接に反映されることがある。メルケル首相は選挙結果を詳しく分析し、早急に対策を取る必要があるだろう。

21 Mai 2010 Nr. 817

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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