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決戦! NRW

ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州では、今年3月にクラフト首相が予算案について過半数を得られなかったため、議会の解散を要求した。この結果、5月13日に前倒し州議会選挙が行なわれることになったが、この選挙はベルリンの中央政界やマスメディアからも大きな注目を集めている。

ドイツで人口が最も多いNRW州の議会選挙は、「ミニ連邦議会選挙」と呼ばれる。その理由は、NRW州議会選挙の結果が、それに続く連邦議会選挙と似た結果になることが多いからだ。つまり今年5月の選挙結果を見れば、来年予定されている連邦議会選挙の趨勢がわかるというわけだ。各党が、NRW州議会選挙に力を入れるのは、そのためである。

現在のところ、赤緑政権が過半数を奪回するという見方が有力だ。たとえば3月14日に公共放送ARDが行なった世論調査によると、社会民主党(SPD)が38%、緑の党が14%であり、すでに50%以上に達している。これに対しキリスト教民主同盟(CDU)と自由民主党(FDP)を支持する人は、わずか35%。FDPへの支持率は2%にすぎず、会派としては州議 会から追い出される可能性が強い。

CDUは、環境相として比較的人気があるレットゲン氏をNRW首相候補に立てる予定だ。彼は、CDUきっての環境保護派として知られており、緑の党と連立する可能性も示唆している。だがCDUがNRWで敗北した場合、レットゲン氏は中央政界に戻らず同州に残って、州議会で野党席に座り続けるのかどうかが、不透明である。こうした優柔不断な態度は、選挙結果に悪い影響を与えかねない。

だが選挙結果には、常に番狂わせがあり得る。最近、各地の地方選挙で海賊党が躍進し、緑の党が得票率を奪われる例が目立っている。3月にザールラント州で行なわれた選挙では、海賊党が7.4%の得票率を記録し、緑の党を2ポイントあまり上回った。ARDの世論調査では、海賊党に対するNRWの有権者の支持率は5%だが、投票日にはさらに票を伸ばし て緑の党との差を縮める可能性もある。

追われる緑の党は、苦しい立場にある。昨年の福島事故をきっかけに、それまで原発擁護派だったCDU、CSU(キリスト教社会同盟)、FDPが「転向」し、脱原子力を主張するようになったからだ。また、再生可能エネルギー拡大による温室効果ガスの削減も、すべての政党が主張している。これまで緑の党の重要なセールス・ポイントだった反原発・環境保護は、もはや同党だけの主張ではなくなってしまったのだ。その意味で昨年メルケル政権は、脱原子力政策の加速によって、緑の党のお株を奪い同党に打撃を与えたことになる。

海賊党は、社会保障や外交などについては政策プログラムが固まっていない若い党だが、「ネット上の音楽や著作物の使用の自由化」など、ITに関する主張では、すべての政党の中で最もはっきりと独自色を出している。この点が、若い有権者を急速にひきつけている理由だ。在来政党、特に緑の党のようなリベラルな政党にとっては脅威である。

はたしてSPDと緑の党は、NRWで下馬評通り絶対過半数を確保するだろうか。もしも赤緑政権がライン河畔で誕生した場合、来年はベルリンでもメルケル首相が政治の表舞台から去り、SPDと緑の党が連邦政府の舵を握ることになるかもしれない。来月の「ミニ連邦議会選挙」の結果が、非常に注目される。

13 April 2012 Nr. 914

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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