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ドイツの公的銀行は大丈夫か?

ドイツの公的銀行は大丈夫か?この夏、ドイツの多くの金融関係者は、バカンス気分になれなかったかもしれません。8月にデュッセルドルフの公的銀行であるIKB産業銀行が、米国での不動産投資のせいで巨額の損失を被ったというニュースは、金融界に強い衝撃を与えました。

IKBは、われわれ市民になじみ深い銀行ではありません。主に中小企業に対して融資を行う、半官半民の銀行だからです。しかし金融関係者の間では、手堅い経営を行う銀行として知られてきました。それだけに、この銀行が米国のサブプライム・ローン(信用力の低い借り手向けの不動産ローン)市場への投資のせいで自力での再建が困難になり、公的機関や民間銀行から80億ユーロもの緊急融資を受けたことは、金融のプロたちにとっても驚きだったのです。

サブプライム危機でIKB以上に深い傷を負ったのは、ザクセン州立銀行です。同行を破綻から救うために他の銀行が注ぎ込んだ資金の額は、173億ユーロ、つまりIKBの2倍以上に達しました。連邦金融庁は、ザクセン州立銀行の損失が巨額であるために、現在の状態のまま存続させることは困難と考えました。このためバーデン=ヴュルテンベルク州立銀行が、連邦金融庁の指導の下でザクセン州立銀行を買収するという、異例の事態になったのです。同州は、さらに2億5000万ユーロの公的資金を注入することになっています。この救済措置がなかったら、ザクセン州立銀行は破綻していたでしょう。これらの二つの銀行ほどではありませんが、他の州立銀行や民間銀行も、多かれ少なかれサブプライム・ローンによる損失を抱えています。

なぜ、このような危機が起きたのでしょうか。米国では2000年ごろから金融緩和のために資金がだぶつき、民間銀行は自己資本のない市民にも、家を購入するためのローンを積極的に貸し出しました。客の中には失業者や不法移民もいたというから驚きです。不動産価格がどんどん上がったために、1軒目の家を抵当に入れて、さらに広い家を買うためのローンを組むことも可能でした。

こうした返済能力の低い市民に対するサブプライム・ローンは、銀行にとって焦げ付く危険が大きいはずです。しかし、金融工学が発達した今日の金融界では、こうしたリスクの高いローンを束ねて証券化し、利益を上乗せして資本市場に提供すれば、投資家を見つけることができます。IKBやザクセン州立銀行は、子会社を通じてこの種の証券に投資したのです。しかしドイツの公的銀行は、米国のサブプライム・ローンの危険性を十分認識していなかったのでしょう。米国で不動産価格が下がり始め、バブルが崩壊するとともに、こうしたローンは巨額の損失を生んだのです。

ドイツでは、今年ようやく景気が回復の兆候を見せ始め、平均株価も上昇していました。ところが、IKBやザクセン州立銀行が破綻の瀬戸際に追い込まれたことで、銀行を中心に株価が下がり始め、せっかく上り坂にあった景気の動向にブレーキがかかるかもしれません。米国で起きた不動産バブル崩壊が、大西洋を隔てたドイツを揺さぶるのは、経済のグローバル化を象徴しています。金融機関、特に半官半民の公的銀行に対しては、今後、リスク管理にいっそうの注意を払ってもらいたいものです。

14 September 2007 Nr. 680

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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