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SPDよ、どこへ行く

SPDよ、どこへ行く大連立政権の一角を担う社会民主党(SPD)が、大きく揺れている。象徴的なのは、中高年の失業者に対する援助金の支給期間を延長するかどうか、という議論である。ベック党首は、失業者の間で評判が悪い「ハルツIV」法に変更を加え、中高年層に対する援助金の支払期間を延ばすべきだと主張。激論の末、ミュンテフェリング労働相は、しぶしぶこの方針を受け入れた。

ミュンテフェリング氏は前のシュレーダー政権でハルツIVの成立に寄与した人物。SPD党員の大半がベック党首に味方をしたことは、ミュンテフェリング氏に代表される経済改革推進派が、党内のせめぎ合いで敗れたことを意味する。

シュレーダー政権は、「ドイツ経済の競争力を高めることが、失業率を低くするためには不可欠だ」と考えて、社会保障コストを減らすための政策を次々と実行に移した。ハルツIVはその一環であり、失業者への援助金を大幅に減らすことによって、再就職への圧力を高めることが目的だった。

だが驚いたことに、シュレーダー元首相ですら「ハルツIVはモーゼの十戒ではない」と言って、法律に変更を加えることに理解を示し、ミュンテフェリング氏を事実上孤立させた。SPDで、左派路線が主流となったのである。

10月末にハンブルクで開かれたSPDの党大会では、草の根の党員たちがさらに「左傾化」の姿勢を示し執行部を驚かせた。例えば党員たちは、ドイチェ・バーンに議決権のない「国民株式」を導入し、外国の投資会社による買収から守るべきだと主張したり、二酸化炭素削減のためにアウトバーン全線に時速130キロのスピード制限を導入したりするべきだと主張したのだ。

これは、緑の党や左派政党を思わせる政策である。草の根の党員の間では、シュレーダー前首相が財界に太いパイプを持っていたことから、SPDの政策がキリスト教民主同盟(CDU)に近づき、弱者に冷たくなったという意見が強まっているのだ。次の選挙で緑の党や左派政党に票が流れるという危惧も出ているのだろう。

ベック党首は、その雰囲気を敏感に察知し、シュレーダー路線に背を向けたのである。社会の弱者に手を差し伸べようとするのは、理解できる。だが、党首が変わるごとに、政策が財界寄りになったり、左派寄りになったり、猫の目のように激しく変化するのはいかがなものであろうか?

9 November 2007 Nr. 688

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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