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ロンドンのゲストハウス
Mi. 11. Dez. 2019

今後の政策が問われる難民問題と犯罪

偶然かもしれないが、毎年暮れになると難民が絡んだ犯罪が起きて、ドイツ社会に衝撃を与える。2015年の12月には、新年の花火を見るためにケルン中央駅前の広場に集まっていた群衆に混ざって、北アフリカからの難民らがドイツ人女性ら約1000人の身体を触ったり、携帯電話を奪ったりするという前代未聞の事件が起きた。2016年の12月には、テロ組織イスラム国(IS)の思想に感化されたチュニジア人が、ベルリンのクリスマス市場に大型トラックで突入し、12人を殺害し50人以上に重軽傷を負わせた。

2018年ドイツの展望昨年12月27日の事件を受け、現場で今の政治についての不満を掲げる男性

難民がドイツ人少女を刺殺

去年12月27日にも、悲惨な事件が起きた。ラインラント=プファルツ州のカンデルという町で、アフガニスタン難民が、商店で15歳のドイツ人の少女を、包丁で刺し殺したのだ。少年は一時この少女と付き合っていたが、交際を断られたために犯行に及んだ。

少年は自分の年齢を15歳と語っていたが、パスポートなど年齢を確認する書類がないため、実際には年齢が15歳よりも上である可能性がある。この少年は、両親の付き添いもなく、独りでドイツにやって来た難民である。このためカンデルのドイツ人たちが、少年の面倒を見ていた。この少年は、失恋の怒りと悲しみを、直ちに暴力として噴出させて、元恋人を殺害した。その冷血さに、多くのドイツ人が「文化の違い」を感じたはずだ。

一部のドイツのメディアは、このニュースの扱いに苦慮した。「ビルト・オンライン」を始め多くのメディアは、12月27日から翌日にかけてこの事件を速報した。だが公共放送ARDのニュース番組「ターゲスシャウ」は、12月28日もこの事件をあえて報じなかった。ARDには、恋愛関係のもつれによる殺人事件は社会性が低いので、報じないという原則がある。しかも犯人が未成年である場合は、特に扱いに慎重になる。すると、「ターゲスシャウ」のサイトには、「難民をかばうために報道しないのか」という内容の批判が殺到。「ARDは、もしもドイツ人が難民の少女を殺害したら、すぐに報じるだろう。逆の場合は、なぜ報道しないのか」という書き込みもあった。ARDもこの圧力に負けて、翌日にこのニュースを報じた。

人心を煽る極右政党?

極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、ツイッターやフェイスブックで、「あと何人ドイツ人が殺されれば、政府は難民政策を変えるのか?」と挑発的なメッセージを発信していた。あたかもメルケル首相の難民政策が、カンデルの少女を殺したかのような論調である。こうしたメッセージが、スマートフォンでツイッターやフェイスブックを読む若者たちの心を汚染していくのは、由々しき事態である。

ドイツ市民の間には、2015年にメルケル首相が多数の難民に門戸を開いて、ドイツでの亡命申請を許して以来、治安が悪化したと感じる人が多い。確かに、過去3年間に、難民が電車やスーパーマーケットで無差別に市民に切りつけたり、音楽祭の会場付近で自爆した事件、爆弾テロを計画していたがドイツの警察に未然に摘発されたケースなどが、報告されている。

「暴力犯罪の増加の原因は、難民の急増」

こうした中、難民の急増と暴力事件の増加の間には、相関関係があるという内容の報告書が公表された。ドイツ連邦家庭・青年省は、犯罪学者クリスティアン・プファイファー氏らに委託して、ニーダーザクセン州で難民が起こした暴力事件の実態を調査した。「ドイツの暴力犯罪の動向について」と題された報告書によると、同州での暴力犯罪の数は、2007年から2014年までに21.9%減少していた。だがその件数は、2015年からの2年間に10.4%増加した。学者たちが暴力事件の内容を分析した結果、件数の増加の92.1%では、難民が容疑者であることがわかった。難民が容疑者である暴力事件の件数は、2014年から2016年までに241%も増加している。ニーダーザクセン州では、難民の数が2014年から2016年までに117%増えていた。また、2014年に起きた暴力事件の内、難民が起こした事件の比率は4.3%だったが、2016年には13.3%に増加している。

ドイツは今後難民政策をどう変えるのか?

2015年以降ドイツにやって来た難民の半数以上は、30歳未満の若者である。ニーダーザクセン州で2014年から2016年に難民が起こした暴力事件の内、容疑者の年齢が14~30歳だった事件の比率は、全体の65.4%にのぼる。

このためプファイファー氏らは、「若い難民の数が急増したことが、ニーダーザクセン州での暴力犯罪が増えた原因である」と結論付けている。特に、北アフリカのチュニジアなどから地中海を渡って欧州にたどり着いた難民が暴力犯罪の容疑者の中に占める比率は、49.4%と最も高かった。これに対し、シリア、イラク、アフガニスタンからの難民の比率は25%と比較的低かった。

難民の受け入れは、文化や国民のアイデンティティーに大きく関わる問題だ。去年の連邦議会選挙で、有権者がメルケル首相が率いる大連立政権を厳しく罰したことは、多くのドイツ人が難民政策に強い不満を抱いていることを浮き彫りにした。ドイツ社会が今後難民や外国人に関する政策をどのように変えていくか、我々は注意深く観察していかなくてはならない。

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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