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新春号 英国・ドイツ 2国特集 英国・ドイツ・フランスで気持ちをリセット - アフター・コロナの 欧州旅行

新春号 英国・ドイツ 2国特集
英国・ドイツ・フランスで気持ちをリセット
アフター・コロナの欧州旅行

ここ数年、私たちの暮らしから失われてしまっていた旅の感覚。しかし、こんな時代を生き抜いていくには、旅が与えてくれるエネルギーが何よりも必要だ。2023年の英独新年号特集では、コロナ禍のステイホームですっかり固まってしまった心や体を解き放つ、本物の体験ができる英国、ドイツ、フランスでの旅のプランをご提案。2023年の旅行トレンドやアフター・コロナの旅の注意点についても併せて紹介する。 (文:英国・ドイツニュースダイジェスト編集部)

2023年の旅行事情は?

2023年は自分独自の「ニューノーマルな旅」の模索

新型コロナウイルスによる不安は完全にぬぐい切れていないが、Booking.comが世界中に住む人を対象に行った調査「2023年の旅行トレンド予測」*では以下のような結果が出た。

まず、人々は22年に比べ、旅行に対してかなり楽観的な考え方を持ち始めたといえる。旅行意欲が大幅に増してきていると答えた人は73%で、23年に旅行すると答えた人は72%。このような前向きな意見は各国の入国規制が緩和され、渡航者に対し物理的に門戸が開かれたことが要因だろう。旅行の目的としては、ステイホームの多かった過去数年分の反動か、旅先に新しい経験や刺激を求める傾向が大きい(73%)のが特筆すべきポイント。一方、心身を癒やす滞在先(44%)や静かな場所(40%)も根強い人気がある。しかし、48%はインターネットに接続できる環境が整備されていることが、自然の中に身を置く条件だとしている。

一方で、現在の世界不況も無視することはできない。旅行者の多くは、あえてオフシーズンに目的地を訪れたり、移動にも最短距離ではなく長いルートを選ぶことを検討し、予算を節約しようと考えている。またそれとは逆に、数年にわたる旅行制限により休暇に費やすはずだった資金を節約することができたため、49%が23年の旅費にこれまでの分を上乗せする形で旅行を楽しむ予定だという。また、61%は計画的な長期休暇を過ごしたいと回答。予算の使い方としては、短い休暇を何度も取るのではなく、1回か2回の長い休暇を選びたいと考えていることが分かった。

これらからいえるのは、パンデミックや不況に負けず、いかに旅を楽しむか人々が策を練っているということだろう。外国を訪れ、良い意味でのカルチャー・ショックを活力としたい人、仕事や心配事から離れ、旅先で自分を徹底的に癒やしたい人など、23年は多くの人々が旅行への期待を大きく膨らませ、自分が望む旅を楽しもうと考えている。

*2022年8月時点から1~2年以内にビジネスまたはレジャー目的で旅行を計画している32の国と地域の計2万4179人を対象に実施されたもの

ワーケーションの感覚は残っている?

コロナ禍で欧米を中心に多くの企業が、ラップトップ一つで従業員がリゾート地で働きながら休暇を取るワーケーション(worcation)を認めた。ホテル管理システムMewsの調査によると、英国ではパンデミック前の在宅勤務率は5%だったが、22年には16%の就業者がワーケーションを検討していたという。しかしこの傾向は23年には下降気味になる可能性が高い。Booking.comの調査では49%は通常の職場とは異なる場所にいることで仕事の生産性が向上すると理解はしているものの、68%は23年は旅行と仕事を完全に切り離し、休暇として満喫することを望んでいる。

久しぶりの旅行の注意点

パンデミックによる入国制限や規制は各国で大幅に緩和された。英国、フランスでは新型コロナによる規制はほぼ撤廃され、屋内の過密している場所でマスク着用が推奨されているくらい。ドイツでは、23年4月7日まで長距離交通機関や病院等の訪問時に医療用マスクの着用義務がある(22年12月16日現在)。また、20年のブレグジット(英国の欧州連合離脱)に伴い、EU・英国間を出入国する際のパスポート・チェックが義務化された。日本のパスポートを所持する場合はこれまでと変わらないが、チェック対象者数が増加したため、いつもよりゲート通過に時間がかかる可能性があるので注意が必要だ。

英国・ドイツ・フランスの傾向

2023年は世界中の人々が旅行に行きたくてウズウズしていることが分かったが、欧州の3国内では顕著な違いはあるのだろうか。似ているようで案外異なる、その傾向をまとめた。

英国

短期間の旅行で倹約傾向に

金融サービスの比較サイトGo.Compare Travel Insuranceの世論調査によると、英国の人々は生活コストの上昇により予算を抑えた旅行を選択する傾向にあるようだ。22%は2023年の休暇に費やす金額を減らし、12%はより安い旅行先を探すと回答。また他国とは異なり長期より短期滞在を好み、滞在費を極力抑えたい傾向がある。このように日常生活への不安は尽きないものの、英国人の41%はそれが理由で旅行を止めることはないと考えている。また、22年には空港のスタッフ不足により多数のキャンセル便が出て連日ニュースになったが、それが旅行への情熱を止める理由にはならないと思っている人が39%もいるそう。

プレッパーが急増

2023年のトレンドの一つとして、最低限の必需品だけで生活し、人間の原点に立ち返るような特別な体験を求めるプレッパー(Prepper=最悪の事態の備え準備をする人)の増加が挙げられる。きれいな水を調達する方法(37%)や点火法(36%)、食料を探す方法(30%)などを学びたいと考えている人が多く、23年は不測の事態を生き抜くための基本的なスキルを学ぶサバイバル・スクールの参加者増加も予想されている。ただし先のコスト問題が解決する場合、50%の人はより良いホテルに宿泊しながらオフグリッド旅行を楽しみたいと答え、54%が電話とネット接続は欲しいというのが本音のようだ。

ドイツ

国を挙げてサステナビリティを重視

環境大国ドイツでは、長年の課題である気候変動をはじめ、近年のエネルギー危機により、ますます持続可能性への関心が高まっている。そのため、2023年はさらにサステナビリティの旅が注目されると予想される。例えば、ドイツ政府観光局によるサステナブル・キャンペーンのポータル・サイトFEEL GOODは、ウェブサイト上で持続可能な旅行をするためのヒントを紹介。サイトには二酸化炭素(CO2)計算機が搭載されており、CO2の量を具体的な数値で知ることでよりエコを意識した旅行を推奨している。また、環境に配慮した宿泊先を検索することもできる。

ただし、サステナビリティとの付き合い方について、まだ消費者が完全に追いついていないのが現状。例えば、旅行会社Tourlaneの調査では、旅行をする際にサステナビリティを重視すると回答した人はわずか39%で、61%は重視しないという結果だった。理想と現実にまだギャップがあるものの、時代の流れとともに次第に変化していくといえそうだ。

出典:Tourlane「2023年旅行トレンド調査」出典:Tourlane「2023年旅行トレンド調査」

自然の中で過ごす休暇がやっぱり好き

2021年にStatistaが行った調査では、66%が好きな休暇のアクティビティとして自然の中で過ごすと回答した。そのほか、散歩する(43%)、ハイキング(38%)というように、自然を愛することで有名なドイツ人。コロナ禍での自然回帰もあいまって、23年の休暇はマスツーリズムよりも自然の中で過ごす時間を選択する人が増えるとみられる。

フランス

屋外で過ごせる観光地を選ぶ

「8月は街から地元の人がいなくなる」といわれるほど、バカンスはフランス人にとって大切。そのため2023年はパンデミックで抑圧された時間を取り戻すべく、「リベンジ旅行者」が増加する見込みだ。旅行会社Tourlaneの調査によると10人中8人は23年に旅行すると答え、13%は旅行頻度はまだ増やさないが、その代わりに長期滞在を選ぶという。また、一定層のフランス人はやはり新型コロナを気にしており、68%は今後も屋外で過ごせる観光地を選ぶそう(22年比-4ポイント)。酪農やハーブ園などは、屋外で実際に生き物や植物に触れて自然の恵みを堪能するなど、現地でしか味わえない体験ができるため23年は特に人気が出そうなジャンルだ。バカンス! と言いながら新型コロナのことは気になるのがフランス人といえる。

長距離旅行の人気が高まる

パンデミックによって海外旅行が大幅に制限されていたが、2023年にはフランス人の70%が欧州以外の国へ積極的に旅行するようになり、飛行機を使った長距離旅行の人気が高まる(22年比+27ポイント)と予想されている。18~25歳は登山やスポーツなどアクティブな休暇を選ぶ傾向が強く(40%)、20%が美食の休暇を選ぶなど、グルメな傾向は若い世代にも相変わらず強い。また、18~25歳に次いで最もアクティブな休日を選んだ年齢層(24%)が56~65歳という高齢層という意外な結果が出た。

英国のおすすめ旅行先

無骨な建物や廃墟好きにはたまらない 産業革命の時代をリアルに学ぶ旅

18世紀の工業地帯にタイム・スリップ

現在私たちはAIやIoTなどの技術革新による第4次産業革命の世に生きている。初代の産業革命は18世紀中ごろ、蒸気機関の発明とともに英国で起きた。その歴史を今も誇りに思う英国には、当時をしのぶ遺構が各地に残り、後世にその姿を伝えている。ウェールズ南東部の町ブレナヴォンにも、そんな遺構の一つ「ブレナヴォン産業用地」(Blaenavon World Heritage Site)がある。産業遺産群として2000年にユネスコの世界遺産に指定された。約33平方キロメートルの広大な敷地内には、炭鉱遺産のビッグ・ピット(Big Pit)や製鉄所跡を中心に、石切場、鉄道、溶鉱炉、そして労働者の住宅や暮らしに必要なインフラなども残り、産業革命を支えた町をほぼ全て本来の姿で見ることができる。

ブレナヴォン製鉄所の溶鉱炉。垂直に削り取られた丘の側面に建てられたブレナヴォン製鉄所の溶鉱炉。垂直に削り取られた丘の側面に建てられた

ビッグ・ピットは1980年に閉山となった炭鉱を博物館に再生させたもので、地下90メートルの採掘場に降りるツアーが開催されている。ビジターは元炭鉱労働者の案内で、炭鉱労働の追体験ができるとあって人気が高い。ツアー中はかつて労働者たちが使ったものと同じヘルメットやベルトなどを装着し、シャフトで下降した後、地下採掘場の一部を50分ほどかけて歩く。ちなみに、スタジオジブリの長編アニメ「天空の城ラピュタ」の主人公パズーが働く炭鉱は、このビッグ・ピットをモデルにしているといううわさもある。

国立炭鉱博物館ビッグ・ピットの敷地内国立炭鉱博物館ビッグ・ピットの敷地内

一方、ブレナヴォン製鉄所跡には、溶鉱炉、鋳造所、鋳物工場、バランス・タワー、住居などがほぼ完全な形で残されている。当時の最新鋭の技術で造られた溶鉱炉は見応えも十分なので、ビッグ・ピットと併せてぜひ立ち寄りたい。また、敷地から国立公園を走る蒸気機関車は、英国の保存鉄道の中で最も高い標高を行くといわれており、ゆっくりと景色を楽しみたい方におすすめ(4~10月のみ営業)。

『嵐が丘』の故郷を走る蒸気機関車

産業革命をけん引した蒸気機関車は英国では今も特別な存在。上記のような保存鉄道が国内随所に残り、ボランティアたちによって大切に保存・運行されている。保存鉄道の走る路線は、停車駅もまた昔の面影を残した風情ある駅舎であることがほとんど。英北部のウェスト・ヨークシャーを走るキースリー&ワースヴァレー鉄道(The Keighley & Worth Valley Railway)もそんな蒸気機関車の一つだ。この路線は地元の繊維産業の裕福な工場所有者の出資によって1867年に開通。以来、急な勾配を大きな蒸気を吐きながら登る機関車は、近隣の谷間に反響する走行音とともにドラマチックな光景をもたらしている。かつて周辺にあった羊毛工場の多くは取り壊されたものの、機関車はこの地の産業遺産として生き残り、人々に美しい田園風景を見せてくれる。道中にはエミリー・ブロンテの小説『嵐が丘』の舞台にもなったハワースの村も。石炭の匂いや白い煙にまみれ、機関車ならではの振動に身を任せながらかつての英国に思いをはせることができる旅は、今も人々を引き付けてやまない。

『嵐が丘』の舞台になったハワース駅に停車中の蒸気機関車『嵐が丘』の舞台になったハワース駅に停車中の蒸気機関車

Blaenavon World Heritage Site www.visitblaenavon.co.uk The Keighley & Worth Valley Railway https://kwvr.co.uk

おすすめの体験3選!

地球の歴史を体感したい 1.ジュラシック・コーストで化石掘り

恐竜が地上を歩いていた2億800万年前から1億4600万年前。そんな中生代ジュラ紀の地層が残る英南西部ドーセットの海岸線は、化石の宝庫として知られる。アンモナイトを中心に、大量の化石が素人でも簡単に発掘できるのが魅力で、週末は家族連れでにぎわう。現地スタッフが化石の探し方を教えてくれる1時間ほどのツアーもある。また、海岸に突き出たアーチ状の岩、ダードル・ドア(Durdle Door)は偶然にも水を飲む恐竜のような形をしており、人気観光スポットの一つだ。近くには「恐竜ランド化石博物館」(Dinosaurland Fossil Museum)があり、ここには1万6000点あまりの化石が展示されている。手作り感のある恐竜の実物大オブジェなども設置されており、大人から子どもまで楽しめる。暖かい季節に、世界自然遺産でもあるジュラシック・コーストで太古の昔に触れてみては。

Jurassic Coast Information Centre
http://jurassiccoast.org(化石ツアー) Dinosaurland Fossil Museum
www.dinosaurland.co.uk

ウイスキーの聖地と呼ばれる 2.アイラ島で蒸留所見学

スコットランドのアイラ島といえば、良質なモルト・ウイスキーの産地として日本でも知られた存在。島内には王室御用達のラフロイグ(Laphroaig)や1779年創業のボウモア(Bowmore)をはじめとした8カ所*の特徴ある蒸留所があり、それぞれが見学ツアーを実施している。ツアーでは蒸留所の中を歩きながら、ウイスキー造りや蒸留所の歴史などをスタッフが丁寧に案内してくれる。試飲ばかりではなく、床に大麦を広げて大麦を発芽(モルティング)させるフロア・モルティングや、ウイスキーをたるから空瓶に自分で詰めるハンドフィル・ボトルなど、蒸留所によってさまざまな体験ができる。また、8カ所の蒸留所を回るツアーなども開催されているが、季節さえ良ければ3日ほど滞在し、レンタルした自転車でのんびり回ることも可能だ。
*9カ所目のポート・エレンは2022年に再開としながら現時点では未定

Isle Islay Information
www.visitscotland.com/destinations-maps/isle-islay

自力で乱世を生き抜け 3.サバイバル・スキルを磨く

新型コロナの流行やウクライナ紛争、そして経済不況など、自分の命や生活を脅かすような事柄が続いたこともあり、多くの人が「自分の身は自分で守る」モードに。そんな気持ちをすくい上げてくれるのが、「ベア・グリルズ・サバイバル・アカデミー」(Bear Grylls Survival Academy)だ。同アカデミーは、元兵士で現在はTVやNetflixでも活躍する冒険家、ベア・グリルズが設立。サバイバルに必要なアウトドア・スキルを身に付けるためのコースが各種そろっている。スコットランドのハイランドで山を登り滝を下る、野生動物を捕獲して調理するなど、自らを究極まで追い込む厳しい5日間コースから、森林での方向感覚を養う、道具を作るなど、家族で楽しめる手軽な4時間コースまでとレベルもさまざま。スキルが身に付くだけではなく、自然の中で体を動かすことで心身ともにリフレッシュできる。

Bear Grylls Survival Academy
https://beargryllssurvivalacademy.com

ドイツのおすすめ旅行先

持続可能性を体感できる施設に泊まろう 環境大国ドイツのサステナブルな旅

まるごとサステナブルなリゾート地

旅行業界でも「サステナビリティ」がトレンドのドイツでは、それを実践するユニークな宿泊施設が増えている。まずは、ドイツ北西部ニーダーザクセン州ヒッツアッカーにある「デスティネイチャー」(destinature)をご紹介しよう。「ヴェルクハウス」(WERKHAUS)という接着剤やねじを使わずに組み立てられる家具のメーカーが、2020年に「持続可能な観光」というコンセプトで立ち上げたリゾート地だ。自然のど真ん中につくられたこの施設は、一つの村のようになっており、持続可能な運営を実践している。

ゴミを出さずに解体できるシンプルなつくりのコテージは「デスティネイチャー」の顔ゴミを出さずに解体できるシンプルなつくりのコテージは「デスティネイチャー」の顔

特に驚きなのは、ヴェルクハウスの家具と同じコンセプトで造られたコテージだ。シングルベッド・サイズの1人用コテージからリビングとバスルーム付きのファミリー・コテージまで、簡単に組み立てることができ、一切ゴミを出さずに解体が可能だという。施設内にはオーガニック・ビストロがあり、地元の材料を使った料理が楽しめる。また屋外には、自然を見ながら入れるバスタブとサウナがあり、お風呂好きにはたまらない。

さらに近郊には、ドイツで人気のサイクリング・ルートの一つ、全長1200キロにわたるエルベ川サイクリング・ロードがある。デスティネイチャーを拠点に日帰りのツアーに参加するのも良し、自転車旅行の途中に宿泊するのも良し、自分に合ったスタイルで訪れてみよう。

そんなデスティネイチャーは、経済的にも持続可能な形で運営されていることなどが評価され、2021年にドイツ観光賞の最優秀賞と観客賞をダブル受賞。EUから資金援助も受けており、パイロット・プロジェクトとしても注目されている。

ローカルに根ざす新しい時代のホテル

「ミヒェルベルガー・ホテル」(Michelberger Hotel)は、大都市ベルリンにある三ツ星ホテルだ。ベルリンでもとりわけヒップなフリードリヒスハイン地区に位置し、かつてオフィスとして使われていた建物を改装して造られた。インダストリアル・デザインにインスパイアされた23室の客室には、それぞれ「Cozy」や「Luxus」などの名前があり、ミニ・バーやサウナがついている部屋、プロジェクターで映画を楽しめる部屋など、滞在の目的や人数によって選ぶことができる。さらに大小五つのミーティング・ルームもあり、オルタナティブ・スペースとしても注目されている。

ミヒェルベルガー・ホテルの一室。「Band」と名付けられたファミリー・ルームミヒェルベルガー・ホテルの一室。「Band」と名付けられたファミリー・ルーム

さらにミヒェルベルガー・ホテルで特筆したいのは、ベルリン南部に自家農園を所有していること。ホテルのレストランでは、そこで採れる野菜やハーブをふんだんに使った料理がふるまわれる。また、ベルリンを美食の街とすることを目的とした共同体「ベルリン・フード・コレクティブ」(Berlin Food Kollektiv)のメンバーであり、飲食業におけるエコ・システムの確立に積極的に貢献。そんなミヒェルベルガー・ホテルは観光客をもてなすだけでなく、地元にもファンを持つ、これからの時代のホテルといえるだろう。

広々としたミヒェルベルガー・ホテルの中庭では食事が楽しめる広々としたミヒェルベルガー・ホテルの中庭では食事が楽しめる

destinature www.destinature.de Michelberger Hotel www.michelbergerhotel.com 「サステナブルな旅」におすすめのサイト
FEEL GOOD
www.germany.travel/de/feel-good/nachhaltigkeit サステナビリティを重視する宿泊施設を検索できるほか、移動で排出されるCO2を算出する計算機などがある

おすすめの体験3選!

国境の街バウツェンに住む少数民族 1.ソルブ人の生活文化を知る

ドイツといえば単一民族のようなイメージを持ちがちだが、実はいくつかの少数民族が暮らしている。その一つが、西スラブ系の少数民族であるソルブ人。ドレスデンから東へ約60キロ、チェコとポーランドの国境付近にあるバウツェンという街には多くのソルブ人が居住する。ソルブ語とドイツ語の二言語表記の標識や、ソルブ語の学校、ソルブ博物館、ソルブ語の劇場などがあり、その歴史や文化を維持し続けている。とりわけ有名なのが、イースターの時期に行われるシルクハットをかぶった男性たちによる騎馬行列(Osterreiten)や、精緻な装飾が施されたカラフルなイースター・エッグ。中世さながらの街並みの中に、土着的なスラブ文化とキリスト教文化が混ざり合っており、ドイツの多様な一面を垣間見ることができる。街にはソルブ料理を提供するレストランもあるので、ぜひ試してみて。

Stadt Bautzen
www.bautzen.de

サンティアゴへと通じる「ヤコブの道」 2.サイクリングで巡礼の旅

ローマ、エルサレムと並ぶキリスト教の最も重要な巡礼地であるスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ。ドイツにもこの聖地へと通じる巡礼の道「ヤコブの道」(Jakobus Weg)があり、30以上のルートが国内に張り巡らされている。長距離を歩くのが苦手な人には、ドイツ南部のオーバーフランケン地方を自転車でめぐる「ヤコブの自転車巡礼道」(Jakobus Radpilgerweg)がおすすめ。ホーフからバイロイトを経てニュルンベルクへ、さらにアウグスブルク、ウルム、アイヒシュテットへと、自転車での巡礼を気軽に楽しもう。美しい自然の中を自転車で走ると、およそ2時間に一つの教会にたどり着けるようにルートが整備されており、教会を見学したり修道院に宿泊したりと、巡礼の醍醐味(だいごみ)を味わえる。おいしい南ドイツ料理レストランや疲れを癒やすサウナなど、各種アクティビティも充実。

Jakobus Radpilgerweg
https://erlebe.bayern/storys/radpilgern-jakobsweg

バーデン・ワインの名産地をめぐる 3.黒い森のワイン・ハイキング

南ドイツに広がる山岳地帯シュヴァルツヴァルト(黒い森)。さくらんぼケーキや黒い森のハム、カッコウ時計などで世界的にも有名だが、実はバーデン・ワインの名産地としても知られる。「ハイキングとワインどちらも両方楽しみたい!」というぜいたくな願いをかなえてくれるのが、約280キロのバーデンワイン街道に沿って歩くワイン・ハイキングだ。黒い森の美しい景色を楽しみつつ、途中の村でブドウ畑を眺めたり、ワイナリーを見学したりできるほか、ランチタイムにはそこで造られたワインや伝統料理が味わえる。この地域では1年中、ワイン・フェスティバルやテイスティングのイベントが開催されており、またバーデン・ワイン街道沿いには美食を味わえるこだわりのレストランも多い。テイスティングをしてお気に入りのワインを見つけたら、旅のお土産に購入しよう。

Badische Weinstraße
www.badische-weinstrasse.de

フランスのおすすめ旅行先

実際に作ってみる食体験 グルメ&農業大国を味わい尽くす旅

生物多様性の宝庫! 農場を見学

世界に冠たるフランス料理だが、農耕に適した土地が多いのも料理文化が発展した理由の一つだろう。2019年の農業総生産額はEU加盟国の中でフランスが最も高く、牛肉の生産量でもトップ、乳製品は第2位となっている。そんな農業大国で実際に農業に携わって本物のグルメを堪能しよう。スペインのカタルーニャ州と隣接するアリエージュ県にある「キュビエール農場」(La Ferme Cubières)では、70頭のヒツジやニワトリを飼育し、菜園や果樹園も所有。オーガニックの乳製品の製造や、ヒツジから刈りとった上質なウール、環境にも肌にもやさしいナチュラル・ソープなど、自然の素材を使った製品を、動物たちのリズムに合わせて生産している。それを一般の人にも体験してもらおうと、定期的にワークショップを開催。例えば、乳搾りから始まるフレッシュ・チーズ作りの全工程を学び、自分だけのチーズを味わうことができるワークショップなどがある。

キュビエール農場でゼロからチーズを作ってみようキュビエール農場でゼロからチーズを作ってみよう

のんびりファーム・ステイを体験

もっとゆっくり農場で過ごしたい人には「レ・ボヌール・ドゥ・ソフィー農場」(Les bonheurs de Sophie)がおすすめ。この農場はフランス東南に位置するオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏にあり、農場見学のほか、民宿も運営している。特にオーヴェルニュ地方はなだらかな起伏や小山の続く地形で、牧畜業が盛ん。良質な食品が生まれることで知られている。同農場で搾乳されたヤギとヒツジの乳で、チーズだけでなく、ヨーグルトやアイスクリームなども作られている。オーナーのモットーは「大量生産はしない、手に入るものを食べる、旬のものを食べる」とのこと。この農場でとれた旬ものをいただくレストランをはじめ、生態系について学ぶワーク・ショップ「fil du vivant」(命の糸)も開催。搾乳体験をはじめ、チーズ造りの見学、さらに農産物を味わったり、牛の群れの見張りをしたりと農家の生活を体験できる。ただし人数が限られているので、事前の予約が必要!

動物たちと触れ合えるレ・ボヌール・ドゥ・ソフィー農場の農泊が人気動物たちと触れ合えるレ・ボヌール・ドゥ・ソフィー農場の農泊が人気

農園で「自然」を味わう

フランス料理では古くから素材の臭みを抑え風味を良くするためにハーブが使われてきた。そんなハーブを栽培している農園「ナテュレルマン・サンプル」(Naturellement Simples)が、仏中南部のオクシタニー地域圏にある。植物学者・ハーブ専門家として経験を積んだ夫婦が経営する農園では、芳香植物や薬用植物を主とする500~600種類の植物が育ち、天然植物由来の製品も幅広く取りそろえている。4月から10月にかけて植物を使ったワークショップを開催。植物学をはじめ、有機菜園方法、野生料理など、食用の草花を使った料理を学べる。また薬草を摘み取り、それを使った治療法を伝授してもらったり、植物からインクを作り水彩画を描いたりと、発見と驚きに満ちた時間が過ごせるはず。

ナテュレルマン・サンプルでは食用の草花を使った料理を紹介ナテュレルマン・サンプルでは食用の草花を使った料理を紹介

La Ferme Cubières www.lafermecubieres.fr Ferme Les bonheurs de Sophie https://lagrangealudo.fr Naturellement Simples www.naturellementsimples.com

おすすめの体験3選!

ハエドゥイ族が生活した城塞都市 1.ビブラクテでガリア文化を体験

文化的な体験や自然を楽しむ旅を求める方にたまらないのが、城塞都市「ビブラクテ」(Bibracte)。ここはガリア人・ハエドゥイ族が住んでいた場所であり、ジュリアス・シーザーが『ガリア戦記』の仕上げを行ったのも、このビブラクテだといわれている。現在はフランスの偉大な景勝地として認定され、保護森林に囲まれたビブラクテの遺跡の見学や、ガリア人の日常生活を知ることができる博物館がある。2000年前に放棄されたビブラクテの街は、19世紀以来毎年行われている発掘調査によって、先人たちの暮らしが少しずつ明らかになっている。例えば、ビブラクテの食生活の一部を復原することに成功。博物館内にあるレストラン「ル・ショードロン」(Le Chaudron)では、当時の食事を再現したグルメを味わえる(要予約)。美術館のみ毎年冬は休館し、2023年は3月18日から再開する。

Bibracte
www.bibracte.fr

有名な塩はこうしてできる 2.ゲランドで塩田見学

世界中のシェフが愛用しているブルターニュ地方ゲランドの塩。1000年以上の歴史を誇る伝統手法で作られたこの自然塩は、精製塩とは異なり添加物は一切加えておらず、多くの栄養を含む。経験豊富な塩田職人が土地を整え、塩田内の水位を管理している。おすすめはその塩田を職人とともに巡るツアー。塩の形成、塩湿地のしくみや塩性湿地帯の植物について、科学的な実験を体験しつつゲランドの塩湿地についてを、楽しく理解することができる。ゲランドの塩は食塩と同じ使い方ができる細かい塩「セル・マリン・ムウル」(Sel marin moulu)、パスタをゆでるときやグリルのときに使う粗塩「グロ・セル」(Gros sel)、前菜や料理、デザートに使う「フルール・ド・セル」(Fleur de sel)の3種類ある。特に希少価値の高いフルール・ド・セルはお土産としても人気。

Terre de Sel
www.terredesel.com

豊かな自然を体感しよう 3.ワイン畑の風車に宿泊

「フランスの庭園」と呼ばれるロワール渓谷はユネスコの世界遺産に登録されている。フランス一長い川であるロワール川が流れているこの流域のブドウ畑は、土壌や気候条件によって味の違いが楽しめ、ワイン巡りにも最適だ。そのブドウ畑とロワール渓谷の真ん中にある古風な風車「ムーラン・ジェオン」(Moulin Géant)は、なんと宿泊可能。ブドウ畑に囲まれた風車からは、自然と静寂に包まれたロワール川とブドウ畑が織りなす特別な景色を満喫できる。このおしゃれなB&Bはロワール川の水源と河口を結ぶ長距離ハイキング・コース「GR3」やサイクリング・ロード沿いにあるので、ロワール川岸の探索と合わせて楽しめるのもうれしい。宿泊施設では自転車やカヌーの貸し出しも行っているので、手ぶらで訪れてもOK。オリジナルで非日常的な時間を楽しんでみては。

Moulin Géant
www.moulin-geant.com

特集 番外編:編集部スタッフおすすめ
本当に「行ってよかった」旅行先 >
最終更新 Mittwoch, 11 Januar 2023 18:35
 

特集 番外編:編集部スタッフおすすめ 本当に「行ってよかった」旅行先

特集 番外編
編集部スタッフおすすめ
本当に「行ってよかった」旅行先

本特集では英独仏の旅の傾向をもとに選りすぐりの旅行プランをご紹介してきたが、特別な旅の可能性はいつだって無限大! 番外編として、ドイツニュースダイジェスト編集部3人がトレンドを度外視し、自身が体験したからこそおすすめしたい旅行先をご案内する。

フランス FRANCE

フランス、スイス、イタリアを一望 アルプスで英気を養う

都会の人混みや仕事生活に疲れた人にお勧めしたいのは、やはり自然の空気を吸うこと。これを実感したのは昨年の夏、欧州最高峰モンブランの麓にある町、シャモニーを訪れたときでした。シャモニーではアクティブウエアに身を包んだ登山家たちが多くいますが、さすがに私にはそこまでの元気はありません。そこで知人のお薦めするロープウェイでモンブラン山系の山「エギーユ・デュ・ミディ」に登ってみました。

昨年の夏は暑さでくたびれていましたが、標高3842メートルの山頂は真夏でもコートがいるほどの寒さです。そして山頂には、フランス、スイス、イタリアのアルプス山脈を360度見渡すことができるテラスがあります。まるで飛行機の窓から飛び出したような世界が広がり、息をのむような美しさ! 体の中からゆっくりとポジティブなエネルギーが沸き起こるのを実感しました。体力に自信のない人でも、気軽にモンブランの絶景を堪能できるのでお勧めです。

最後に、グルメ情報もお伝えしましょう。シャモニーの周辺はチーズの切り口を温めてから削ぐ料理「ラクレット」やチーズフォンデュで有名。冬場の料理ですが、寒い山頂から帰ってきたら食が進みますよ。

by 編集部(島)

チェコ CZECH REPUBLIC

地元のディープな文化に浸る プラハ7区での1日ツアー

世界で最も美しい都市、プラハにかつて1年ほど住んでいました。観光地はほぼ1区に集中していますが、今回はギャラリーや劇場、カフェ、芸術家のアトリエなどが集まる7区をお勧めしたいと思います。

まずはナショナルギャラリーへ。チェコの作家はもちろん、アイ・ウェイウェイなど世界的に有名なアーティストの企画展も精力的に行っています。お昼休憩は、美術館からも近いカフェ「Ouky Douky Coffee」で。古本だらけの魅力的な空間で、おなかも心も満たされます。カフェを出たら、市街地で本屋、雑貨屋、古着屋さんめぐり。アートブック店「Page Five」や、オリジナル文房具店「Papelote」では、特別なお土産が見つかるはずです。

天気が良ければ、地元民の憩いの場であるレトナー公園を散歩しましょう。高台から旧市街を一望できるほか、夏にはビアガーデンもあるので、ここで夕食を取るのも良いですね。すっかり日が暮れた頃には、ヒップな映画館「BIO OKO」(写真)へ。実験的な映画はもちろん、エントランスの広いバーには若者たちが夜な夜な集い、談義に花を咲かせています。こうしてプラハの夜は、更けていくのでした……。

by 編集部(真)

日本 JAPAN

故郷を観光者目線で楽しむ 東京の島めぐり

2022年4月から、ドイツニュースダイジェストは東京観光財団より指名を受けて「東京観光レップ」を務めています。ドイツから東京へ旅行してもらうため、PR活動をしているのですが、自分の故郷でもある東京の魅力にあらためて触れる機会が増えました。

そして夏に訪れたのが、伊豆諸島の新島と式根島。どちらも東京都の島で、本土からはフェリーで3時間ほどなのですが、調布飛行場からプロペラ機に乗るとたったの35分! 到着してまず驚いたのは海の色でした。「新島ブルー」と呼ばれる少しミルクがかかった青色で、ついさっきまでコンクリートジャングルにいたのがうそのよう。ひとしきり泳いで海岸にある無料温泉へ行き、海を眺めながら体を温めました。夕食は名物「島寿司」に舌鼓を打ち、満点の星空の下飲み屋をはしごして、大人な夜を過ごしたのでした。

翌日は連絡船でお隣の式根島へ。レンタサイクルでリアス式海岸へ行き、シュノーケリングにトライ。ほんの少し泳いだだけで、サンゴ礁をお散歩中の魚たちに出会えます。旅行中、一緒に行った友人と「ここ、本当に東京?」と何度口にしたことか……。ぜひ皆さんも新鮮な気持ちで故郷を旅してみてくださいね。

by 編集部(穂)

英国・ドイツ・フランスで気持ちをリセット アフター・コロナの欧州旅行 >
最終更新 Mittwoch, 11 Januar 2023 18:35
 

日独代表はドイツでどう報道されたか? - カタールW杯2022

カタールW杯2022日独代表はドイツでどう報道されたか?

11月20日にカタールで開幕したワールドカップ(W杯)では、ドイツも日本も敗退してしまったが、史上初の日独戦があり、日本がグループリーグを首位で突破するなど、見どころがたくさんあった。そんな日独代表にまつわるドイツメディアの報道をピックアップ!(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

決勝トーナメント進出が決まり、かけよってよろこぶ日本代表選手たち決勝トーナメント進出が決まり、かけよってよろこぶ日本代表選手たち

初戦で日本に敗れたドイツ1. ドイツ代表から落胆の声

11月23日、カタールW杯グループEの初戦で、ドイツ代表は日本に1対2で敗北。開幕直後からドイツには重苦しい空気が流れた。試合当日、スポーツメディアSPORT1では、監督や各選手たち、解説者の声を紹介した。

  • ハンジ・フリック監督
    「日本は効率という点で明らかにわれわれを上回っており、そのおかげで一つ多くゴールを決めた」
  • マヌエル・ノイアー選手
    「われわれが勝利を逃したことに完全に失望し、腹立たしく思っている」
  • バスティアン・シュヴァインシュタイガー(解説者・元ドイツ代表)
    「われわれにはゴールを決めるチャンスがあった。でも2対0にすることができなかった」

人権問題をめぐり、口をふさいでFIFAに抗議したドイツ代表選手たちが話題になった人権問題をめぐり、口をふさいでFIFAに抗議したドイツ代表選手たちが話題になった

日本代表が決勝トーナメント進出決定2. ドイツは「世界王者から問題児へ」

12月1日、ドイツはグループリーグ最終戦でコスタリカに4対2で勝利した。しかし、日本が2対1でスペインに勝ったため、ドイツ代表は決勝トーナメント進出を果たせなかった。各メディアはドイツの悲報、日本の勝利を次のような見出しで報道した。

  • 第2ドイツテレビ「DFB11人の運命 - 数ミリの問題:いかにして日本がスペインに勝ったのか」(2022年12月1日)
  • 第1ドイツテレビ「DFBがサッカーW杯から退場 - 世界王者から問題児へ」(2022年12月2日)
  • ヴェルト紙「W杯敗退の反応 -『 ドイツは敗退したのではなく、ドイツはこれ以上プレーしないだけ』」(2022年12月2日)

クロアチアに敗れた日本代表3. 日本は「とても強い」

12月5日、日本代表は対クロアチア戦で1対1のまま延長戦を迎え、PK戦でクロアチアに敗れた。決勝トーナメント敗退となり、悲願のベスト8は叶わなかった。南ドイツ新聞のコラムでは、見出しで「日本は(11メートル)地点で冷静でいることに負けた」としつつも、日本代表について次のように評価している。

「ハンジ・フリック(監督)は、ドイツのW杯敗退について分析するのに忙しいはずだが、監督が月曜夕方にテレビを見ていたことは間違いないだろう。(中略)カタールでドイツ代表を1対2で決定的に負かした敵は、一体どのくらい強いのか? 答えは『とても強い』だ」

ニュース番組が物議をかもす3. 日本人に対する差別発言

ニュース番組「ヴェルト」で、元プロサッカー選手のジミー・ハートヴィッヒ氏が発言した内容が物議をかもしている。同氏は日本に敗れたドイツ代表が敗退した理由を分析し、アジア人を差別する用語「チン・チャン・チョン」という言葉を日本人に対して発した。この差別発言をめぐって、ツイッター上でドイツに住む日本人を中心に問題視する声が広がり、番組のユーチューブからは動画が削除された。

ベルリン在住ライターの河内秀子さんは、12月4日にヴェルトに抗議のメールを送付。その翌朝に動画は削除され謝罪の返事をもらったが、あくまで形式的な対応で、差別問題の根幹について触れるような回答は得られなかったという。ハートヴィッヒ氏は個人のインスタグラムに謝罪文を投稿したが、12月7日時点でヴェルトからは今回の発言に対する公式見解は発表されていない。

最終更新 Dienstag, 13 Dezember 2022 18:41
 

ドイツで楽しく気持ちよくできる節約のヒント

インフレ、エネルギー危機に備えるには?ドイツで楽しく気持ちよくできる「節約のヒント」

戦後最大のインフレ、そしてエネルギー危機で、これまでになく家計が圧迫され、この冬をどう過ごそうか不安に思っている人は少なくないだろう。もともと倹約家として知られるドイツ人は、節約術に長けているほか、最近は環境保護の観点から省エネにも積極的だ。そんなドイツでは、経済的にも環境的にもサステナブルなサービスが増えてきている。本特集では、こんな大変なときだからこそ実践してみたい、ドイツで楽しく気持ちよくできる節約のヒントをお届けする。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

節約のヒント

今ドイツで何が起きている?

過去70年で最大のインフレ率

今年9月、ドイツのインフレ率はついに10.0%(10月には10.4%)となった。これはおよそ70年ぶりの上昇率だ。最大のインフレ要因は、ウクライナに侵攻したロシアからエネルギー供給が削減されたことで起こった、エネルギー価格の高騰。エネルギー価格だけでみれば、今年10月には前年同月比で43%も上昇している。特に家庭用のエネルギー価格高騰は著しく、天然ガスは2倍以上(109.8%)となり、電気も26%値上がりした。

エネルギー価格インフレ率(2022年10月) ※前年同月比

エネルギー価格インフレ率(2022年10月)

出典:ドイツ連邦統計局

エネルギーの次に大きな影響を受けているのが、食料品だ。エネルギー、肥料、飼料のコストが急激に値上がりし、労働不足と人件費が高騰したことが要因となっている。10月時点のインフレ率は、前年同月比20.3%。2000年から2019年にかけてのインフレ上昇率が平均1.5%弱だったことを考えると、大幅な価格高騰であることが分かる。

食料価格インフレ率(2022年10月)※前年同月比

食料価格インフレ率(2022年10月)※前年同月比

出典:ドイツ連邦統計局

生活スタイルを変えざるを得ない状況

イプソスが10月に行った「世界が心配していること調査」では、インフレはドイツ人の2人に1人にとって不安の種であることが分かった。8月に行われた同調査から6ポイント上がっており、生活を不安に感じる人がますます増えてきている。

ドイツ人は何を心配しているのか?

ドイツ人は何を心配しているのか?

出典:Ipsos Global Advisor-Studie »What Worries the World«(2022年10月)

また、ドイツ貯蓄銀行協会が夏に行った調査によると、46%の人が消費を制限したいと考えており、10月にはその割合が54%にまで上昇したという。さらに消費者の61%がより安価な商品を手に取るようになり、54%は買い物自体が減った、49%が家庭での暖房の使用を減らすなどエネルギーを節約するようにしている。調査の結果、人々の消費意欲は過去16年間で最低レベルに達していることが明らかになった。

このような状況下では、市民一人ひとりが生活を見直すことが求められる。以下では、そのヒントとなる節約術をご紹介しよう。

参考:tagesschau「Welche Preise besonders stark steigen」、zdf「Menschen schränken Konsum noch stärker ein」、ドイツ連邦統計局

お財布にも環境にも優しい「節約術」

いろいろと我慢することだけが節約だけではない。今回紹介するのは、ドイツで注目されている経済的にも環境的にもサステナブルなサービスの一例だ。家計を節約しながら、地球に優しいアクションを起こせたら、まさに一石二鳥。ぜひ生活スタイルを見直すヒントにして。

リーズナブルな価格で食料品を救うToo Good To Gohttps://toogoodtogo.de

世界では、食料品の約3分の1が食べられることもなく廃棄されているという。この食料廃棄物の問題を解決しようとデンマークで生まれたのが、「Too Good To Go」というアプリだ。アプリをダウンロードしたら、自分の住んでいるエリアを登録。すると、近くのスーパーやパン屋、飲食店、ホテルなどが表示され、それぞれ廃棄される予定の食品の一覧を見ることができる。

例えば、とあるパン屋の「2枠/夜の特売品/21:00~22:00/10.5€→3.5€」という情報が出ていた場合、そのお知らせをクリックして予約し、指定の時間にピックアップするという仕組み。割安で食品を手に入れられるだけでなく、食料廃棄物を減らすことに貢献できるのがうれしい。

Too Good To Go

レシピと必要な食材を届けてくれるHelloFreshwww.hellofresh.de

いつも食材を余らせてしまう、毎日の献立に悩んでいる、忙しくて外食が続いている……そんな悩みに答えてくれるのが、レシピとそれに必要な食材をクックボックスに入れて届けてくれる「HelloFresh」だ。2011年にベルリンでスタートし、現在では日本を含むおよそ20カ国で事業を展開している。「肉と野菜」、「ベジタリアン」、「時短」などのカテゴリを選び、人数と一日の食事の回数を設定すると、1週間分がまとめて送られてくる。

一食分の最低価格は4.22ユーロ(2022年11月現在)で、新鮮な旬の食材を使用しており、調理時間は30分ほど。HelloFreshは配送で二酸化炭素(CO2)排出量の削減に取り組むほか、必要な分の食材だけを提供するため、食料破棄物を減らすことにもつながる。

HelloFresh

贈り物も見つかるオンラインの古着屋さんVintedwww.vinted.de

「Vinted」は、2008年にリトアニアで設立された古着のオンラインマーケット。欧米18市場で7500万人以上が登録しており、メンバーがお互いの洋服や雑貨を売買することが可能だ。一般的なオンラインショップのように、サイズや色、価格などが選択でき、ピッタリな商品を見つけることができる。売買はVintedを通じて行われ、販売手数料は無料。

買い手は一律で0.70ユーロ+価格の5%を支払う仕組みだ。Vintedが今年夏に発表したドイツのユーザー調査によれば、今後12カ月以内に中古品をプレゼントとして検討すると答えた人は73%だったそう。Vintedでレトロなヴィンテージものやお気に入りのブランドを見つけて、クリスマスプレゼントにしてみるのはいかがだろうか。

Vinted

CO2排出量を知って省エネnullifywww.nullify.app

2015年に採択されたパリ協定により、世界各国が2050年までにCO2の排出量をゼロにする、いわゆる「カーボンニュートラル」を目指している。しかし、実際に自分がどれほどのCO2を排出しているかは意外と知らないもの。気候活動家と学生のチームが開発した「nullify」は、「毎日どの交通機関を使っている?」、「あなたの食事のスタイルは?」などの質問に答えていくだけでCO2排出量を計算してくれるアプリだ。ドイツの一人当たりのCO2排出量は年間平均1万1170トン。計算して出た自分の数値を見比べて、もしかしたらショックを受けるかもしれない。そうしたら、nullifyが提案するCO2排出量の削減方法を試してみよう。めぐりめぐって、節約にもつながるはずだ。

nullify

省エネ生活見直しリスト

習慣を変えるだけで省エネにつながったり、意外と知らない方法があったりするもの。一つひとつチェックしてみよう!
※あくまで一般論のため、製品や建物の構造や環境、地域によって期待できる効果は異なる

  • 照明を全てLEDに切り替える(最大90%エネルギー削減に)
  • PC(約200ワット~)の代わりにラップトップ(約30ワット)を使う
  • 使用していない電化製品のコンセントを抜く(電気代の約10%を占める)
  • 洗濯機の温度設定を30度にする(60度と比較して消費電力が約3分の1に)
  • シャワーヘッドを節水タイプに変える(使用水量が約半分になる)
  • 冷蔵庫と冷凍庫の霜取りをする(5ミリの霜で消費電力は30%増)
  • ケトルで必要な分だけお湯を沸かす(電気コンロよりも消費電力が約3分の1に)
  • 蓋をして調理をする(調理時のエネルギーを最大3分の2削減)
  • オーブンは「予熱」せず、出来上がりの数分前にはスイッチを切り「余熱」を利用する
  • 暖房の代わりに湯たんぽを使う(本当に暖房が必要か常に考える)

参考:Utopia.de「Energiesparen: 17 Tipps für jeden Haushalt」、WWF「Strom sparen im Haushalt」

なぜドイツ人は「倹約家」といわれるのか?

倹約はブルジョア階級の美徳

ドイツ人に「倹約家」というイメージがあるゆえんは、どこから来ているのだろうか。ドイツ人ジャーナリストのペーター・ツーダイク氏はドイチェ・ヴェレのコラムで、なかでも倹約家なのはブルジョア階級を象徴するような家長だと分析する。ツーダイク氏によれば、彼らは歯磨き粉のチューブを切り開いて最後の数ミリグラムまでを確実に使い切り、液体石けんの一滴一滴を無駄にしないように家族を教育し、ランプをつけっぱなしにせず、ティーバッグは少なくとも2回は使用するという徹底ぶりだという。

倹約の精神は16世紀のフランスの宗教改革者カルヴァンの思想にまでさかのぼる。勤勉さと謙虚さが敬けいけん虔な生活の中心であり、浪費は重罪とされたのだ。その後18世紀までには、倹約は秩序、清潔さ、時間の正確さに並んで、ブルジョア階級の美徳となった。19世紀末には「倹約する人は社会主義者でも無政府主義者でもない」という思想が、労働者階級の間で広まった。1925年にはドイツで初めて世界勤倹デーが制定され、当時のモットーは「倹約はドイツの復興の力になる!」だった。さらにナチス政権のプロパガンダでは「労働と倹約をする人がドイツの気質を守る」といわれ、倹約が奨励されたという負の歴史もある。

現代ではサステナビリティの視点も重要

1950年代以降、ドイツの子どもたちは毎年10月の世界勤倹デーで倹約の大切さを学んでおり、倹約の精神は今も受け継がれている。それは、ドイツ人が倹約してきたことによってたびたび経済危機を乗り越えてきたという経験もあるからだろう。現在ではさらにサステナビリティが重要視され、さまざまなアイデアを持ったスタートアップが登場し、楽しく節約できる 方法も増えてきている。そんなドイツで生み出され、実践されてきた節約術や省エネ術から学べることは、まだまだたくさんありそうだ。

参考:DW「Die deutsche Sparsamkeit」、RP ONLINE「Wie die Deutschen zu Meistern im Sparen wurden」

最終更新 Donnerstag, 08 Dezember 2022 18:08
 

ザイフェンの木工おもちゃに会いに行く

ドイツのクリスマスを彩るザイフェンの木工おもちゃに会いに行く

ドイツのクリスマスの風物詩の一つに、くるみ割り人形やクリスマスピラミッドなどの木工おもちゃがある。実はこれらのほとんどが、ザクセン州エルツ山地のザイフェンという村で作られている。本特集では、ザイフェンが「おもちゃの村」になった歴史をはじめ、クリスマスおもちゃの種類やザイフェンの観光情報などをご紹介。今年のクリスマスシーズンは、ザイフェンのおもちゃと夢のような時間を過ごしてみては?(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

ザイフェンの木工おもちゃに会いに行く

ザイフェンってどんなところ?

ザイフェンってどんなところ?

ザイフェン(Seiffen)は、ドイツ東部ザクセン州エルツ地方(Erzgebirge)にある山間の村で、チェコ共和国との国境にも近い。くるみ割り人形をはじめとする木工おもちゃ産業で世界的に有名で、人口約2500人のうち半分以上がおもちゃに関わる仕事をしている。村には140ほどのおもちゃ工房があり、特にクリスマスシーズンは各地からの観光客でにぎわう。

「おもちゃの村」ザイフェンの歴史

参考:Erzgebirgisches Spielzeugmuseum Seiffen「Museumsfühler」、Die Gemeinde Seiffen「Das Historische erzgebirgische Spielzeugland」、Spielzeugdorf Kurort Seiffen

1. 炭鉱夫から木工職人へ

エルツ地方の「エルツ」(Erz)がドイツ語で「鉱石」を意味するように、この地方は、かつて錫すず、銀、鉄、鉛などの地下資源が豊かで、炭鉱業で栄えた。ザイフェンでも15世紀中ごろから錫鉱業が行われ、1324年の文献ではこの村を「Cynsifen」(採掘された錫鉱石を分別するという意味)と呼んでおり、ザイフェンの名前はこれに由来する。

しかし鉱山の全盛期においても、炭鉱夫は十分な収入を得られず、副業や兼業で生活費を補わなけらばならなかった。その一つがボタンや皿などの木工製品を作る仕事で、ザイフェンでは早くも1644年に最初の木工職人がいたとされる。エルツ山地には豊かな森があり、鉱石を砕くために使っていた水車は、木工ろくろの動力に利用されたのだ。やがて17世紀ごろから鉱山資源が減り、また海外から安い鉱石を輸入するようになったため鉱山が衰退。炭鉱夫から木工職人へと仕事を変える人が増え、1849年に鉱山は閉鎖された。

ザイフェンで初めて木のおもちゃが作られたのは1750年ごろで、18世紀後半ごろにかけて大きく発展。ドイツでは時を同じくしてブルジョア啓蒙主義の思想が広がり、子どもの遊びやおもちゃの教育的価値が社会的に認知されるようになっていたのだった。

ザイフェンの伝統的な暮らしを描いたキャンドルアーチ。ザイフェンの伝統的な暮らしを描いたキャンドルアーチ。中央には制服姿の炭鉱夫、アウグストス強王の紋章(クロスした刀)、鉱山業のシンボルである石ノミとハンマー、右におもちゃ職人と天使、左にレース細工をする女性と燭台シャンデリアのモチーフがある

2. 「おもちゃの村」の繁栄とその影

ザイフェンのおもちゃは、おもちゃ市場の中心地ニュルンベルクや、ライプツィヒの見本市、さらにはドレスデンなどで一躍人気となった。音の出るおもちゃや動くおもちゃなど、その種類は数千にも及んだ。1850年ごろに作られた、舟の形の入れ物にミニチュアのペアの動物が詰まった「ノアの箱舟」セットは国外でも大ヒット。くるみ割り人形や煙出し人形など、クリスマスシーズンのおもちゃ制作にも注力するようになった。

輸出商品の大ヒットとなった「ノアの方舟」セット輸出商品の大ヒットとなった「ノアの方舟」セット

ザイフェンのおもちゃが世界的に知られる一方で、職人たちの収入は少なく、苦しい生活を強いられたままだった。おもちゃ問屋や小売店は、ザイフェンのおもちゃを職人たちから安い値段で仕入れ、それらを見本市などで高く販売していたのだ。そのため特に冬の間、ザイフェンの工房では一家総出でおもちゃ作りに取り組んでいた。照明や設備が不十分なせまい居間で、熟練の旋盤工がろくろを回し、別の人が動物の形を彫り、また別の家族が絵付けや小箱作りをしたりと忙しく働いた。多い時は1日の労働時間が13〜15時間にも及び、1903年に家業での児童労働を制限する法律ができるまでは、子どもたちも1日に12時間以上働かされることもあったという。

家族総出でおもちゃ作りを行う様子家族総出でおもちゃ作りを行う様子

1870年ごろ、くるみ割り人形を初めて制作したヴィルヘルム・フュヒトナー1870年ごろ、くるみ割り人形を初めて制作したヴィルヘルム・フュヒトナー

3. ミニチュアおもちゃの世界

主に家族単位の小さな工房で作られていたザイフェンのおもちゃだったが、1852年にはザクセン王国のおもちゃ専門学校(Königliche Special –Gewerbeschule zu Seiffen)が開校。当時、貿易の自由が導入されて未熟な職人でも商売をすることができるようになり、おもちゃの品質が著しく低下していたことから、専門教育機関を設けて優れた職人を養成するようになったのだ。ここは現在も、ドイツ唯一のおもちゃ職人養成専門学校として存続している。

寒空の下でおもちゃを売る子どもたちの姿は、ザイフェンの歴史を物語るワンシーン寒空の下でおもちゃを売る子どもたちの姿は、ザイフェンの歴史を物語るワンシーン

さらに1880年ごろからは、木材の価格高騰に加えて税関の規制が変更されることに。米国やフランスなどの主要な輸出先が、商品の価値に応じた関税ではなく、重量に応じた関税を導入。そのため、大きくてかさばるおもちゃを輸出することが難しくなった。

ドイツトウヒの薄い板で作った曲木の箱は、ミニチュアおもちゃの持ち運びや保存に便利なおもちゃの入れ物として重宝されたドイツトウヒの薄い板で作った曲木の箱は、ミニチュアおもちゃの持ち運びや保存に便利なおもちゃの入れ物として重宝された

そこで始まったのが、おもちゃのミニチュア化だった。ザイフェンでは、1905年に取次業者のH.E. ランガーがマッチ箱に入ったおもちゃシリーズを考案。マッチ箱の中には背景の風景画や、超ミニチュアの人形や家具など、物語の世界がまるごと納められた。代表的なモチーフは100を超え、ランガー社だけでも年間約50万個を販売。暮らしを再現した豊富なモチーフ、ミニチュアの旋盤加工や絵付けの技術、細部まで見事にデザインする能力は、ザイフェンの新たな強みとなった。

マッチ箱の中に広がるミニチュアの世界マッチ箱の中に広がるミニチュアの世界

4. 二度の世界大戦と旧東ドイツ時代

第一次世界大戦、そして1929〜1932年の世界恐慌はザイフェンをも大きく揺るがした。クリスマスシーズンであってもわずかな注文しか入らず、最大で人口の3分の2が無収入に。さらに第二次世界大戦中、おもちゃ工場の一部は戦争産業に組み込まれたという。

1971年ごろのザイフェンのおもちゃ工房1971年ごろのザイフェンのおもちゃ工房

第二次世界大戦後、ザイフェンは東ドイツ(DDR)に組み込まれ、おもちゃのための資材調達や商品の販売も、厳密な指示のもとに行われるようになった。従業員数が10人を超える企業は強制的に国営化。小規模な工房は民間経営を許されたものの、国から指定されたものだけを製造し、店舗での直販売は禁止された。ザイフェンのおもちゃはブランド力があり、DDR政府にとって外貨を得るための重要な輸出品の一つだった。そのため西側諸国にばかり輸出され、DDR市民の手には入りにくかったという。一方で高価なザイフェンのおもちゃは生産者たちにとって、実は物々交換の品にもなった。ある人は車の修理代として、ある人はバルト海の別荘代として、おもちゃで対価交換をすることもあったとか……。

ザイフェンでは、米国など西側諸国の需要に応じたおもちゃ作りも盛んに行っていたザイフェンでは、米国など西側諸国の需要に応じたおもちゃ作りも盛んに行っていた

5. ベルリンの壁崩壊後「おもちゃの村」の再出発

東西ドイツ再統一以降、ザイフェンの人々は自由を手に入れた一方で、厳しい競争環境の中で自活していかなければならなくなった。資本主義経済や市場の仕組みなど、西側のルールを新たに学ぶ必要があったのだ。また旧西ドイツの規定では、おもちゃは手工業種から外されており、マイスター育成のための国からの補助金の対象外となっていた。これを変えるためにおもちゃ職人たちが働きかけ、1996年には正式に手工業の職人として認められた。

さらにザイフェンの人々は、自分たちで見本市や海外市場に出向いて新たな顧客を見つけたり、流行や需要に沿った新しいデザインを自分たちで生み出したりするように。クリスマスを祝う習慣があるドイツ系米国人をはじめ、工芸品や匠の技術への親和性が高い日本でもザイフェンのおもちゃは愛されるようになった。

クリスマスのザイフェンの様子を表したミニチュアクリスマスのザイフェンの様子を表したミニチュア

モダンなデザインも生み出される一方で、ザイフェンの工房では今なお、村の歴史や、地元の豊かなクリスマス文化、エルツ地方の素朴な日常詩などをモチーフにしたおもちゃが多く作られている。そのことは、伝統的な技術だけでなく、故郷に対する人々の深い愛情もまた、おもちゃ作りを通して脈々と受け継がれてきたことの表れでもあるだろう。ザイフェンのおもちゃに流れる静かで独特の時間を、ぜひクリスマスシーズンに味わってみてほしい。

ザイフェンのクリスマスマーケット期間中に開催される炭鉱夫たちのパレードザイフェンのクリスマスマーケット期間中に開催される炭鉱夫たちのパレード

ザイフェンのおもちゃ職人の技

ザイフェンのおもちゃ作りの原点ライフェンドレーン

ザイフェンがおもちゃの村として発展した理由の一つに、1800年ごろから伝統的に使われている木工技法「ライフェンドレーン」(Reifendrehen)がある。これは、輪切りにした太い木を木工ろくろに固定して回転させ、そこに刃物を当てて断面が動物の形になるようリング状に加工する技術。完成した輪を切り割ると、金太郎あめのように40〜60体くらいのフィギュアの原型を取り出せる。

ライフェンドレーン

その後、手で彫って形を整え、色を付ければ出来上がり。完成したリングを割って初めてその形状を確認できるため、高度な旋盤技術とデザイン力、形を把握する熟練の技が必要。現在、数十人ほどしかこの技術を使える人はいないという。

ライフェンドレーン

ザイフェンで復活した伝統技法シュパンバウム

ミニチュア細工の木を作るエルツ山地特有の伝統技法で、1920年代にザイフェンのおもちゃ専門学校が主導してこの技法を復活させた。湿気を含んだ円錐形の木材を固定し、木の表面をノミで削って、削り節を小さな巻毛状にする。20世紀初頭には、シュパンバウムの技術を応用してミニチュアの削り花( Blümel)を作る技術も誕生。

シュパンバウムシュパンバウム

今年のプレゼントにいかが?ザイフェンの代表的なクリスマスおもちゃ

ザイフェンの名を一躍世に知らしめたのが、クリスマスの風物詩ともいえるオーナメントやクリスマスおもちゃの存在だ。そんなザイフェンで伝統的に作られている、クリスマスおもちゃの種類をご紹介。今年のクリスマスプレゼントの参考にしてみて。

Engel und Bergmann天使と鉱夫

天使と鉱夫

エルツ山地ではクリスマスシーズンになると、ろうそくを手にした天使と鉱夫のモチーフが窓際に置かれるという。暗く危険な炭鉱で働くエルツ地方の鉱夫たちにとって、古くから「光」はクリスマスを祝う重要なシンボルだった。その後、夫の安全を願い、愛とぬくもりを与える妻を天使に見立てたモチーフが加わり、ペアで飾られるようになった。

Nussknackerくるみ割り人形

くるみ割り人形

もとは王様や宮廷の人、衛兵など、「権力者の口をクルミでふさいでしまおう」という庶民のアイデアから生まれたくるみ割り人形。ザイフェンでは、1870年ごろにおもちゃ職人のヴィルヘルム・フュヒトナーが、『くるみ割り王とあわれなラインホルト』という絵本にインスピレーションを受けてデザインしたのが最初といわれる。

Schwibbogenシュヴィップボーゲン

シュヴィップボーゲン

アーチ型のキャンドルスタンドで、この形は鉱山の入り口を象徴している。鉱夫たちは、早朝に仕事に出かけて夜遅くに帰ってくるため、特に冬場は日の光を何週間も見ることができなかった。そのため各家の窓辺に置いてあるシュヴィップボーゲンの明かりは、鉱夫たちが家族のもとへ安全に帰るための道しるべでもあったといわれている。

Räuchermann煙出し人形

煙出し人形

クリスマスシーズンに飾られる人形で、1830年ごろに初めて作られた。人形は上下に外れて足の部分にお香をセットできるようになっており、口から煙をもくもくと出す。炭鉱夫をはじめ牧師やパン屋、おもちゃ屋さんなど、エルツ地方に暮らす村人たちの生活を表現したさまざまな種類があり、ユーモアに溢れたデザインが面白い。

Weihnachtspyramideクリスマスピラミッド

クリスマスピラミッド

数階建てのクリスマスピラミッドは、ザイフェンのおもちゃ作りの技術が集結した芸術品。ろうそくの熱によって羽根車が静かに回転し、ピラミッドの中ではキリスト降誕のシーンや炭鉱夫のパレード、エルツ地方の風景などが再現されている。ドイツ各地のクリスマスマーケットでは、高さ数メートルの巨大ピラミッドが登場。

インタビュー

ミュラー社4代目 リンゴ・ミュラーさんザイフェンの伝統を更新し続けるおもちゃ工房

ベルリンの壁崩壊後、自由主義経済の波がザイフェンにもやって来た。そんななか世界中を飛び回り、時には最先端技術を導入しながら、ザイフェンのおもちゃを世に広めてきた工房がある。ザイフェンの伝統を守りつつも、現代のライフスタイルにもなじむおもちゃ作りを果敢に行う、ミュラー社4代目のリンゴ・ミュラーさんに話を聞いた。

4代目のリンゴ・ミュラーさん(左)と、娘のソフィーさん(右)

4代目のリンゴ・ミュラーさん(左)と、娘のソフィーさん(右)
www.mueller.com

Q.リンゴさんがおもちゃ職人になった理由は?

子どもの頃から工房で育った私にとって、曽祖父が1899年に創業した家業を継ぐことは自然なことでした。高校を卒業してすぐに実家でおもちゃ職人の修行を始め、1996年にはおもちゃに電気配線を組み込んだ電動イルミネーションのクリスマスピラミッドやシュヴィップボーゲンを発表、この技術でマイスターの称号を取得しました。

2000年から、会社の経営を父から受け継いで今に至ります。木から創造的なおもちゃを作ることは、とても多才で特別な仕事だと思っています。何より自分たちが作ったおもちゃが、お客さんたちの生活を彩ることができるという大きな充実感を得られます。

Q.工房ではどんな人が働いていますか?

現在は、おもちゃ職人や木工旋盤職人など、熟練した35名の職人のほか、木工おもちゃ職人の実習生を2名が修行しています。また実はミュラー社にとって、日本は東西ドイツ再統一後に積極的に取り組んだ最初の海外市場の一つであり、長きに渡って友好関係が続いてきました。それもあって、日本からの短期研修生も定期的にうちの工房で受け入れ、ザイフェンのおもちゃ作りやドイツでの暮らしを体験してもらっています。

Q.東西ドイツ再統一の前後で、仕事や生活にどのような変化がありましたか?

DDR政府による企業の国有化は、まずDDR建国後の1950年代前半、そして1972年に急速に進みました。ミュラー社は幸運にも、創業から今日まで家族経営が途切れることなく続いています。もちろんDDR時代には資材調達や生産が思うようにいかなかったり、また国営企業と民間企業では賃金に大きな差があったりと、先行きには常に不安がありました。

東西ドイツが再統一されて、全てが変わりました。DDR時代は何をどのくらい生産するか、いくらで販売するかなどを国が決めていましたが、再統一後、私たちは突然全てを自分の責任で行わなければならなくなったのです。当時18歳だった私は、運良くこの大きな変化に適応することができました。一方で、例えば私の祖父母は戦前には自営業、DDR時代には国の管理下で働き、そして壁崩壊後にまた自営業に戻るという、二度も大きな変化を経験しました。彼らが新しい時代に適応することの困難は、計り知れなかったと思います。

Q.ザイフェンが世界的な「おもちゃの村」であり続ける理由は?

ザイフェンのおもちゃは、新しいアイデアや多様な技術・素材を用いることで、これまで幾度の荒波を乗り越えてきました。私も先人たちにならい、スキー選手とコラボレーションした作品や、音楽家の方と一緒にオルゴールを作るなど、ザイフェンのおもちゃを発展させるべく、さまざまな試行錯誤を行っています。その過程で形や色が変わることはありますが、原点は何も変わらない。こうした職人たちの努力によって、ザイフェンの思い出は生き続けているのだと思います。

特別に工房をのぞき見!ミュラー社の工房見学ツアー

ミュラー社

ザイフェンで一番大きいといわれるミュラー社の工房。東西ドイツ再統一後、ミュラー社は東西格差是正のための補助金でこの工房を建てたといい、最先端の機械なども導入している。そんなミュラー社のおもちゃ作りの現場に潜入してみよう。(Foto: Asuka Okajima)

木工の作業場

おもちゃの原材料となる多種多様な木材が並ぶおもちゃの原材料となる多種多様な木材が並ぶ

木工の作業場

サンプルと照らし合わせながらパーツを作る職人さんサンプルと照らし合わせながらパーツを作る職人さん

木工の作業場

おもちゃの原材料となる多種多様な木材が並ぶおもちゃの原材料となる多種多様な木材が並ぶ

塗装のための工房

パーツごとに塗装中パーツごとに塗装中

煙出し人形の組み立て作業

煙出し人形のミュンヘン・オクトーバーフェストのデザインを組み立て中。両手にはビール、白ソーセージとブレッツェルのプレートが載せられる煙出し人形のミュンヘン・オクトーバーフェストのデザインを組み立て中。両手にはビール、白ソーセージとブレッツェルのプレートが載せられる

煙出し人形の組み立て作業

煙出し人形の組み立て作業

完成!完成!

電気式シュヴィップボーゲンの配線

ミュラー社の電気式シュヴィップボーゲンを組み立てる様子ミュラー社の電気式シュヴィップボーゲンを組み立てる様子

電気式シュヴィップボーゲンの配線

ミュラー社のシュヴィップボーゲンは、アーチが雲の形になっているのが特徴ミュラー社のシュヴィップボーゲンは、アーチが雲の形になっているのが特徴

おもちゃの村で特別な時間をクリスマスのザイフェン観光案内

ザイフェンが一年で最も美しい季節といえば、やっぱりクリスマスシーズン! エルツ地方やおもちゃの歴史を知れる博物館はもちろん、数世代にわたって続く伝統的なおもちゃ工房を訪ねたり、イベントに参加したりするも良し。クリスマスの特別な時間を、ぜひザイフェンで楽しんで。

クリスマスマーケット30. Seiffener Weihnacht

クリスマスマーケット

今年で30周年を迎えるザイフェンのクリスマスマーケット「30. SeiffenerWeihnacht」。華やかに飾られた街の中心部や、50を超える屋台が、クリスマスならではの雰囲気を醸し出している。期間中の毎週土〜日曜日には、エルツ地方伝統の鉱夫のパレードや、聖歌隊によるコーラス、音楽の夕べなどのイベントも開催。

11月25日(金)〜12月18日(日)
月曜〜金曜11:00-17:00、土曜10:00-20:00、日曜:11:00-18:00
https://seiffen.de/weihnachten

山の教会Bergkirche Seiffen

山の教会

村の中心部からもほど近くにある、正八角形で淡い黄色のかわいらしい教会。1776〜1179年にかけて大工の巨匠クリスチャン・ゴットヘルフ・ロイターの設計で古い教会跡地に建てられ、ザイフェンのおもちゃのモチーフとしてもしばしば登場する。教会のガイドツアーはもちろん、クリスマスの雰囲気を味わえる礼拝やオルガン音楽の時間に訪れるのも◎。

Deutschneudorfer Str. 4, 09548
https://bergkirche-seiffen.de

おもちゃ博物館Erzgebirgisches Spielzeugmuseum

おもちゃ博物館

1953年にオープンした博物館で、ザイフェンやエルツ地方の伝統的なおもちゃが三つのフロアにわたって紹介されている。もともと1936年におもちゃの総合広告展用に建てられ、1943年に戦争で閉鎖されるまで数十万人の観客を集めていた。

おもちゃ博物館

博物館では、かつての仕事場や生活の様子を再現した部屋や、クリスマス飾りの歴史やおもちゃ職人たちの紹介、そして高さ6.3メートルのクリスマスピラミッドなどを見ることができる。

Hauptstraße 73, 09548

野外博物館Erzgebirgisches Freilichtmuseum

野外博物館

1973年にオープン。自然豊かな丘の上に19〜20世紀初頭の古い民家が点在しており、その中が展示室になっている。大きな水車小屋や職人の工房、家族でおもちゃ作りをしていた居間、小さなベッドルームなど、ガラス越しに当時の生活の様子をうかがい知ることができる。

野外博物館

目玉はなんといっても、「ライフェンドレーン」の実演を間近で見られること。職人の熟練の技と、木が削り出される香り、そして出来上がった動物のミニチュアの手触りなど、五感でザイフェンの歴史を体験しよう。

Hauptstraße 203, 09548

サンタさんへの手紙ボックスErzgebirgisches Freilichtmuseum

サンタさんへの手紙ボックス

毎年10月になるとザイフェンの村役場前の広場に、サンタさんへの手紙ボックスが設置される。子どもたちは、ここで「願い事リスト」に記入して投函することができる。手紙ボックスに集まったリストは、第四アドベント前にサンタさんに渡され、その後、この広場でプレゼントの贈呈が行われる。ちなみにサンタさんいわく、「(プレゼントの)願いが大きすぎない方が、かなう可能性が高い」らしい。

ザイフェン観光のためのお役立ち情報

現地までの交通アクセス

ドレスデン中央駅からバスを乗り継いで約2時間半、ケムニッツ中央駅から約2時間。バスの本数も少ないので下調べは必須。日帰りもしくは複数都市を周遊する場合、ザクセン州、ザクセン=アンハルト州、テューリンゲン州域内が当日限り乗り放題になる「ザクセンチケット」(Sachsen-Ticket)が便利。1〜5人までが25〜57ユーロで、かつ15歳未満の子ども3人までが無料で同乗できる。(※2022年10月現在の情報)

宿泊の場合は早めの予約がマスト

クリスマスシーズンは、各地からの観光客やスキー客などでにぎわうため、宿泊を希望の場合は早めに宿を予約しよう。ホテルをはじめ、ペンションや貸別荘(Ferienwohnung)など、滞在期間や目的によって選ぶと良い。一般的な宿泊予約ポータルサイトに載っていない宿泊施設も多いため、ザイフェン観光局のウェブサイトからも要チェック。
https://seiffen.de/tourismus/uebernachten

おもちゃ工房探訪でディープな旅を

ザイフェンには大小含めて約140のおもちゃ工房があり、直売をしている所も少なくない。一見普通の住宅のように見える工房でも、「Direktverkauf bitteklingeln」(直販を希望の場合はお呼びください)のような張り紙が玄関にしてあれば、インターホンを押すと中に入れてもらえる。実際に作っているところを見られたり、製作者から直接話を聞いたりすることもで

最終更新 Mittwoch, 30 November 2022 10:03
 

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