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教会の権威はどこへ


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ドイツ・プロテスタント教会(EKD)評議会の議長だったマルゴット・ケースマン氏が、先月20日に酒酔い運転で赤信号を無視して警察官に見つかり、EKDのすべての役職から退いた。このニュースを聞いて、落胆したドイツ人は多かったに違いない。

ケースマン氏は、昨年10月に女性として初めてプロテスタント教会の最高責任者となったばかり。EKDのビショッフ(プロテスタント教会の監督。カトリック教会の司教にあたる)という高位に就いた女性も、彼女を除けば1人しかいない。プロテスタント教会に新風を吹き込んでくれるのではないかと多くの人が期待し、ケースマン氏の著書はベストセラーになった。

その貴重なチャンスを、ケースマン氏は酔っ払い運転で自らふいにした。記者会見に現われた同氏は、憔悴しきっていた。「辞任の仕方が潔い」と褒める声があるが、社会のロール・モデル(模範的な人物像)にふさわしくない行為をしたのだから、辞任は当然だろう。

彼女はEKD評議会議長として、まだ仕事らしい仕事をせずに教会の要職から去った。「アフガニスタンからドイツ連邦軍を早期に撤退させるべきだ」と発言し、連邦政府のアフガン派兵に批判的な態度を見せたが、その発言には熟慮した形跡があまり感じられなかった。

EKD評議会議長は、一種のオピニオン・リーダー(世論形成において主導的な役目を演じる人)であるため、政治家並みに一挙一動を注目される。ケースマン氏は、そのような要職に就いたわりには、責任感を十分に自覚していなかったのかもしれない。その油断が、酒酔い運転という形で噴出したのだろう。いずれにしてもケースマン氏が、EKD指導層の権威を大きく失墜させたことは間違いない。

一方、カトリック教会も深刻な危機に直面している。過去数十年の間に、修道院や寄宿学校で、神父などの聖職者たちが子どもたちに対して性的ないたずらや虐待を行ったケースがこれまでに100件以上あったことが明るみに出たのだ。

虐待された子どもたちの中にはトラウマに悩まされている者もいるが、「教会の権威」が重圧となって被害を警察などに届け出ることができず、事件は闇から闇へ葬られてきた。だが被害にあった人々が、最近マスコミに対して自分の体験を語り始めたために、ドイツのあちこちで同様のケースが起きていたことがわかってきた。

修道院や寄宿学校は社会から隔絶された閉鎖空間だ。聖職者が権威を悪用して欲望を満たし、子どもたちの人格を傷付けてきたとしたら、言語道断である。カトリック教会は捜査当局に全面的に協力して真相の解明に努めるとともに、被害者に対して謝罪するべきだ。

ドイツのプロテスタント教会とカトリック教会は、長年にわたり信者の減少に悩まされてきた。2008年にプロテスタント教会を脱退した人は16万9000人、カトリック教会を去った市民の数は12万2000人に達する。01年からの6年間でプロテスタント教徒の数は6.1%、カトリック教徒の数は4.5%減った。

私の知り合いのドイツ人の中にも、「教会税を払いたくない」という理由だけで教会を脱退する人が少なくない。教会が介護や貧困層の支援などの社会福祉活動、幼稚園や託児所の経営、発展途上国の支援などで重要な役割を演じていることは間違いない。だがケースマン氏の脱線と聖職者の性的スキャンダルは市民をさらに失望させ、信者の減少に拍車をかける可能性がある。教会が道徳的な権威を回復するには、かなりの時間がかかるだろう。

12 März 2010 Nr. 807



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著者プロフィール:熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
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