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銃乱射事件・若者の心の闇

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これまでのところ遺書や犯行声明は見つかっておらず、動機は解明されていない。裕福な家庭に育った、一見おとなしそうな少年が、なぜ大量殺人を実行したのか。彼は何に対して激しい怒りを持っていたのか。なぜ両親を始め、周りの人々は凶行の兆しを見つけることができなかったのか。謎は深まるばかりである。 これまで学校での無差別発砲と言えば主に米国が舞台だったが、2000年以来ドイツでも5件発生している。とりわけ、02年にエアフルトのギムナジウムで19歳の若者が拳銃で教師や生徒16人を射殺した事件は、記憶に新しい。政府はこの事件以来、銃の所持に関する規制を強めたが、少年Kは射撃クラブの会員である父親の銃と実弾を犯行に使った。法律改正だけでは、この種の事件を防ぐことはできないのである。 むしろ問題は、社会が子どもたちの心を読めなくなっている現状にあるだろう。犯罪心理学者によると、このような無差別殺人(Amoklauf)に走る少年は友人が少なく、集団の中で孤立していることが多い。友人や両親から認められないことを不満に思っているが、内向的な性格なので悩みをほかの人に相談することもできない。ささいなことで「ばかにされた」と感じて、怒りを心の中に溜め込み、ある日ダムが決壊するように暴力を爆発させる。 少年Kは、特殊部隊とテロリストの戦いを題材にしたコンピューター・ゲームが好きだった。ドイツだけでも200万人の若者がこのゲームで遊んでいるというが、もちろん大半の若者は殺人者にはならない。だが心理学者は、「Kのように強い怒りを溜め込んでいる少年がこの種のゲームで遊ぶと、人を撃つことに対するためらいが減る」と指摘する。さらにKの父親は自宅に15挺の銃、4600発の実弾を保管しており、Kを射撃場に連れて行って試し撃ちもさせていた。平和そうなシュヴァーベンの田舎町で、彼を殺人者に変える条件は、刻々と整っていたのである。ただし、周りの人々は全くそのことに気づかなかった。 ドイツでは今、教師不足が深刻だ。また、両親が働いている家庭も多く、大人たちは子どもの話をじっくり聞く時間を持てなくなっている。戦後最悪の不況のために、若者たちの就職は今後さらに難しくなるだろう。安定した職業に就くために、学校で良い成績を収めなくてはならないというプレッシャーは一層高まる。 子どもたちとの対話を深めることによって、彼らの心の闇に光を当てることが緊急の課題である。 27 März 2009 Nr. 758 |
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著者プロフィール:熊谷徹 1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。 http://www.tkumagai.de/ |

3月11日午前9時30分。バーデン=ヴュルテンベルク州のヴィネンデンで実科学校に乱入した17歳の少年ティム・Kは、拳銃で生徒や教師12人を次々に射殺。そして、逃げる途中に自動車販売店の従業員や顧客など3人を無差別に殺害した後、自殺した。ドイツ社会に強い衝撃を与えたこの事件で、特に人々を震撼(しんかん)させたのは、少年の冷血さである。なぜか女子生徒を中心に狙い、落ち着き払って頭を撃ち抜いた。生徒をかばって前に立った若い教師も、ためらうことなく射殺している。

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