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重みを増すユーロ


  
ユーロ導入よりもかなり以前の1992年、私は欧州通貨同盟について記事を書くために、当時ボンにあった連邦財務省で担当課長G氏をインタビューした。私の最大の関心は、なぜドイツは安定通貨マルクを廃止するのかという点だった。G氏は「我々はマルクを捨てますが、マルクの安定性、優秀性を欧州全体に輸出するのです」と言った。マルクに固執していたら、ドイツの成長には限界がある。発展的に解消してこそ、未来があるというのだ。それから17年経った今、彼の予言は現実のものになりつつある。

国際通貨基金(IMF)の調べによると、世界各国が持っている外貨準備高の中でユーロが占める割合は、1999年には18%だったが、現在では9ポイント上昇して27%になっている。ユーロ誕生前、国際金融市場の基軸通貨はドルだけだった。中国などアジア諸国、それに中東の国々が、彼らのポートフォリオの中でユーロを少しずつ増やしているのだ。ユーロ建ての外貨準備高の増大は、欧州統一通貨の国際的な地位が上昇していることを意味する。ユーロは将来、ドルと並ぶ基軸通貨になるかもしれない。

東欧を中心に、EU加盟だけでなくユーロ導入も希望する国は多い。長い目で見れば、地中海沿岸の諸国にもユーロが広がっていく可能性がある。

ユーロ導入によって最大の利益を得たのは、ドイツだ。1990年代初頭、ドイツはマルク高に見舞われ、それによってスペインやイタリアへの輸出が急激に減少し、大きな悪影響を受けたことがある。ユーロ導入によって、域内での貿易は国内取引と同じになったので、ドイツ企業は少なくともユーロ圏内では、為替変動の悪影響を一切受けなくなった。輸出依存度が高いドイツにとって、これは大きな利益である。将来東欧にユーロ圏が拡大すれば、ドイツ企業の輸出先はさらに増えるだろう。一方、ユーロと対照的に、ドルが世界の外貨準備高に占める割合は過去10年間に71%から64%に減った。また、円の割合も6%から3%に減っている。長期的に見ればドルによる一極支配は、終局に向かいつつあるのだ。

このことは、第2次世界大戦直後には文字通り世界最強だった米国の政治的な地位が、東西対立の終焉以降、徐々に低下していることも反映している。

今年7月に開かれたラキラ・サミットで中国は再び、「ドルを唯一の基軸通貨とする、現在の外貨準備システムを改革するべきだ」と主張した。中国の外貨準備高は過去2年半の間で2倍以上に増え、初めて2兆ドル(約180兆円)の大台を突破した。ドル建て外貨準備高でも世界一の座にある。中国は、米国が金融危機の影響で巨額の財政赤字を抱え、ドルの価値が不安定になることを懸念し、ドルに変わる新しい国際準備通貨を創設することを提案しているのだ。

こうした中国の発言は、世界経済の主要メンバーの間で、力関係の変化が進んでいることを示している。上海証券取引市場は、株式時価総額ですでに東京を追い抜いた。中国が国際経済の表舞台に堂々と姿を現し、日本は静かに舞台の後方に下がりつつある。

ドイツ・マルクが、単独で今日のユーロのような地位を占めることは不可能だった。その意味でマルクを廃止し、他の国々とユーロを分かち合ったドイツ政府の決断は、正しかったと言うべきだろう。現役を退いて年金生活者となっているG氏は今頃、ライン川のほとりで満足そうに微笑んでいるに違いない。

7 August 2009 Nr. 777



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著者プロフィール:熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
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