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Oliver Was­ser­mann
So. 05. Apr. 2020

ベルリン国際映画祭70年史 社会とともに歩み続けるベルリナーレ

今年で第70回を迎える、ベルリン国際映画祭(ベルリナーレ)。社会派の作品が多く集まることで知られるこの映画祭では、これまでドイツや世界が直面する問題をさまざまな視点で切り取り、社会に対して問いを投げかけてきた。映画という「社会の鏡」を通して、私たちは未来に何を見出すことができるだろうか?ベルリナーレ70年の歩みを歴史とともに振り返ってみよう。(Text:編集部)

ベルリン国際映画祭で史上初のダブル受賞! 映画「37セカンズ」
HIKARI監督インタビュー

昨年のベルリン国際映画祭で史上初のダブル受賞を果たした映画「37セカンズ」が、ドイツをはじめ欧米で1月31日(金)からNetflixで配信、日本では2月7日(金)から劇場公開される。脚本・監督を務めたのは、米国・ロサンゼルスを拠点に活動するHIKARIさん。彼女が作品へ込める思い、そして映画を撮る理由を聞いた。

37セカンズ

HIKARIHIKARI 大阪市出身。脚本家、映画監督。幼少のころからミュージカルやオペラなどで舞台に立ち、18歳で単身渡米。女優、カメラマン、アーティストとして活躍後、南カリフォルニア大学院(USC)映画芸術学部にて映画・テレビ制作を学ぶ。現在はロサンゼルスを拠点に、精力的に活動している。https://www.hikarifilms.com

「障がい者の映画」ではなく「私の物語」

2019年2月。ベルリナーレのパノラマ部門に「37セカンズ」(作品紹介はP12)が出品され、ベルリンに滞在していたHIKARI監督。そこに、本作が「パノラマ観客賞」と「国際アートシアター連盟賞」を受賞したとの連絡があった。

「いやー、驚きましたね。これは、ほんまに私の人生変わるな、と。あれだけ飛び上がったことはないってくらい大喜びしました。それと同時に、この作品を受け入れてくれる人がいた、ということが本当にうれしくて。感謝しかなかったですね」

史上初のダブル受賞を成し遂げ、もともと5回の上映予定だったところ、最終的には9回上映された。チケットも毎回ソールドアウトに。上映後のQ&Aでは観客からさまざまな質問や感想を受けたが、そのなかで1番多かったのが「障がい者の映画だと思って構えてきたけど、全然違った」というコメントだった。

「ベルリナーレは社会的な問題を扱う映画祭ですし、本作は『障がい者』が主役の物語。いろんな意味で身構えている人が多かったと思います。でも、いざ映画が始まってみたら、みんな大笑いしていて。主人公・ユマはたまたま車イスに乗っているというだけで、私が描いたのは、ある1人の女性の冒険と成長。観客の方々はそのことを自然に受け止めてくれました」

上映中はところどころで大爆笑が起こるとともに、感動して涙を流す人も。ユマが精一杯自分の人生を歩もうとする姿は、「障がい者」という他者ではなく、多くの人の目に「自分の物語」として映ったのだ。

37セカンズベルリナーレを訪れたHIKARI監督(赤い服の方)とキャスト・スタッフの方々

やりたいことを全部やったら映画監督に

子どものころから「何かを表現したい、人を笑かしたい」という意思が強かったというHIKARI監督。高校3年生のときに女優を目指して単身渡米し、女優やカメラマン、音楽など、多彩なキャリアを積んだ。とにかく自分の勘を信じて、やりたいと思うことをやり続けてきたというHIKARI監督だったが、大学院の卒業制作である短編映画「Tsuyako」が数々の世界映画祭に招待されたことをきっかけに、「映画監督」としての人生に大きく舵を切ることに。

「『Tsuyako』は戦後間もない日本を舞台に、レズビアンの女性の恋愛を描いたもの。ある映画祭でこの作品を観た50代のイタリア人男性は、『僕はこれから母に、(自分がゲイであることを)カミングアウトしようと思う。ありがとう』と私に伝えてくれて。あぁ、この人は50年以上も待ってたんや。私の映画がこの人の人生をこれから変えていくんだ……と思ったときに、私がやるべきことはこれかもしれないと感じました」

そんなHIKARI監督が「37セカンズ」の着想を得たのは2015年ごろ。米国を訪れていた熊篠慶彦(くましのよしひこ)さん*1らとともにセックス・セラピストの女性医師へインタビューしたのがきっかけだ。インタビューを通して、女性は下半身不随でも自然分娩できることなどを知り、人間の身体や脳の働き、そして生まれてくる命の素晴らしさに感銘を受けたという。そこから、障がいのある女性やその家族などにインタビューを行ったり、自ら車イスをレンタルし、その生活を体感したりしながら、アイデアを膨らませていった。

*1 特定非営利活動法人ノアール理事長。出生時より脳性麻痺による四肢の痙性麻痺がある。障がい者の性に関する支援活動を精力的に行っている

映画に介在するリアル

それから3年ほど経ち、HIKARI監督はついにユマ役の佳山明(かやまめい)さんと出会う。当初はヒロインに健常者の俳優の起用を考えていたが、健常者が障がい者の役を演じることに疑問を抱き、一般オーディションを開催。100人近いヒロイン候補と面談し、その最後に現れたのが佳山さんだった。彼女がオーディションで冒頭のセリフを発した瞬間、HIKARI監督は「この子だ」と直感した。

「もともとは下半身不随の女の子が主人公で、物語としてもラブストーリーや性体験がメインでした。でも、明ちゃんは一見高校生かと思うほど見た目が若く、全然そういうものと結びつかない。すでに構想したストーリーのなかに無理やり彼女を入れ込むのではなく、彼女が生きるリアルを映像にしたいと思ったんです」

この出会いによって、脚本を大幅に修正。主人公の設定も、佳山さんと同じ脳性麻痺に変えた。タイトルの「37セカンズ」は、佳山さん自身の体験がもとになっている。また、熊篠さんが自身をモデルにした役で出演するなど、登場人物たちのリアルが幾重にも交差している。そうすることで現実とファンタジーの溝が埋められ、それぞれのシーンが有機的に繋がっていった。

37セカンズ

「見えない壁」を壊すこと

本作の特徴は、車イスの高さからのカメラワーク。観客は、ユマが普段見ている目線(=世界)を体感できる。さらにHIKARI監督は、ユマを美しく撮ることにこだわった。

「日本では障がい者と健常者の間に、どうしても隔たりのようなものがあると感じます。障がい者の人が静かに大人しく生きなきゃならない雰囲気を、周囲が作り出している。ユマの心の成長を美しく捉えることで、健常者と障がい者の間にある『見えない壁』を壊したかったんです」

HIKARI監督の本作への思いが実を結び、「37セカンズ」はベルリナーレでの受賞を皮切りに各国の映画祭で絶賛。現在、彼女のもとにはハリウッドからさまざまなオファーが舞い込んでいる。

「すでにいくつか走り出している作品がありますが、自分が監督・脚本をする作品では、ポジティブに生きようと思ってもらえるようなメッセージを込めたい。たくさん笑って、みんながハッピーに生きていける社会のための足掛かりになるような作品をつくっていきたいです」

そう語るHIKARI監督の笑顔は、明るいエネルギーと優しさに満ちていた。「恐れ」や「不安」のなかで立ち止まってしまいそうなとき、彼女の作品は私たちの手をぐっと引いて、一歩踏み出す勇気をくれるだろう。

37セカンズ

 

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