ジャパンダイジェスト

10年続く福島・ドイツ交流プロジェクト高校生たちが福島を伝え、再エネを学ぶ

2013年から毎年夏に行われている日本とドイツの高校生の交流プロジェクトがある。NPO法人アースウォーカーズが主催する「福島・ドイツ高校生プロジェクト」だ。福島の高校生たちがドイツを訪れ、ドイツにおける再生可能エネルギーの取り組みなどを学びながら、ドイツ人家庭にホームステイしたり、地元の高校生たちと交流したりする機会が持たれる。今年3月で東日本大震災から12年、そして4月にはドイツは脱原発を達成した。8月にドイツを訪れた日本の高校生たちは、ドイツで何を見聞きし、どのように「福島」を伝えたのだろうか?(取材・文:見市知)

デュイスブルクの高校で、日本語を勉強しているドイツの高校生と交流会が持たれたデュイスブルクの高校で、日本語を勉強しているドイツの高校生と交流会が持たれた

脱原発したドイツで福島の記憶を語る

「汚染された福島から来たから近寄るな」。今回ドイツを訪れた福島市出身の押山祐太さんは、震災当時わずか3歳。その後小学生になってから移住した他県で、そう言われたときのことを鮮明に覚えている。震災直後は福島にいて、東京電力福島第一原発の事故による放射能汚染のため、外では自由に遊べなかったと話す。

「原子力発電が本当に必要なのかどうか、自分にはまだ分からない。ただ、子どもたちが何の不自由も不安も感じないで暮らせる世の中になってほしい」。8月6日、ベルリンで開催された広島原爆慰霊祭の場で、祐太さんは自身の思いを聴衆に訴えた。

ベルリンで行われた広島原爆慰霊祭で、祐太さんが東日本大震災で経験した被害を伝えたベルリンで行われた広島原爆慰霊祭で、祐太さんが東日本大震災で経験した被害を伝えた

今回、同プロジェクトに参加して訪独した高校生は8人。12年前の震災当時はまだ3~5歳だった世代だ。祐太さんのように、それぞれが震災当時の記憶やそれにまつわる思いなどを、ドイツの複数箇所でスピーチする機会があった。ベルリンの後に訪れたデュイスブルクでは、同年代の高校生たちと交流。高校の授業に参加し、英語でスピーチを行った。

「福島の原発事故のことを知らなかったので、生々しいエピソードを聞いてびっくりした」と語るのは17歳のベネットさん。一方15歳のユリアさんは、12年前の出来事と、それによってドイツ連邦政府が脱原発を加速化させることを決定した経緯を知っていた。今年4月の脱原発完了についても、「ドイツは正しい判断をしたと思っています」とはっきり意見を述べる。日本では原発が再稼働しており、脱原発の道筋も立っていないことに対しては、驚きを隠せない様子だった。

各都市をめぐり再エネについて考える

福島の高校生たちは約2週間の間に、ベルリン、デュイスブルク、デュッセルドルフ、マインツなどを訪れた。滞在期間中は、ベルリン在住のエネルギー政策専門家・西村健佑氏の講演を聞いたり、デュッセルドルフの生物季節観測用の庭や、マインツの再エネ大手のJUWI社を訪問したりする機会も。

再生可能エネルギーへの取り組みは、いかにクリーンなエネルギーを作るかの前に、いかにエネルギーの消費量を減らすかが、必ずセットになって考えられなければならない。例えば、省エネを考えて建てられたドイツの住宅は断熱構造になっている。ドイツの高校生たちに尋ねると、「近い距離であれば、自転車で移動するようにしている」「なるべくゴミを出さないように気を付けている」「肉は食べない」「自宅にソーラーパネルが取り付けてある」など、各自が気候と環境のために心がけていることを語ってくれた。

ドイツの考え方から日本の高校生たちが得た気づき

西村氏は、講演会で次のエピソードについて紹介。ドイツでは2020年、15~32歳の9人の若者たちが「政府の気候政策において自分たちの未来が脅かされている」として、ドイツ連邦政府を連邦憲法裁判所に訴えた。これによって連邦政府は二酸化炭素(CO2)の削減目標を引き上げ、気候政策の強化を余儀なくされたのである。同じ若者たちの行動に、福島の高校生たちは感銘を受けていた。

デュッセルドルフにある、さまざまな植物を植えて気候の影響を観察している庭で説明を聞くデュッセルドルフにある、さまざまな植物を植えて気候の影響を観察している庭で説明を聞く

こうしたエピソードからも分かるように、ドイツでは「バックキャスト的」な考え方が重要視されている。すなわちよりよい未来を思い描き、そこから逆算して今何をするべきか考えるという思考法だ。一方日本では、例えば「今の自分の学力ならば、どこの大学に行けるだろうか?」というような「フォアキャスト的」な考え方が主流だ、と西村氏は語る。

「気候問題は身近なことなんだと気付いた」(遠藤真志さん)、「日本に帰ったら、私も身近なところから地球環境のために何かをしたい」(深谷美波さん)、「ほかの人に流されない、自分の意見をきちんと持てるようになりたい」(古川佳音さん)。

今回の旅を終えた福島の高校生たちは、それぞれの思いをそんなふうに語ってくれた。次世代を担う10代の彼らが今回の体験を、よりよい未来を目指す力に変えていってほしい。

INFO

アースウォーカーズ
www.facebook.com/EarthWalkers.jp

 
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