「投票したいのに投票できない」をゼロに在外投票をめぐる海外有権者たちの挑戦
2026年2月8日、第51回衆議院議員選挙が行われた。戦後最短の選挙期間だったことは記憶に新しい。そうしたなか、X(旧ツイッター)では海外の有権者たちの悲痛な叫びが次々と投稿されていた。「投票期間が4日しかない」「泊まりがけで投票へ」「十分に考える時間がない」……。導入から25年以上がたった在外投票制度に、今一体何が起きているのか。海外有権者ネットワークNY共同代表を務める竹永浩之さんに、詳しくお話を伺った。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)
参考:「海外有権者ネットワーク」公式サイト

お話を聞いた人
竹永浩之さん
米国・ニュージャージー在住。海外有権者ネットワークNY共同代表。1990年代の在外投票運動に参加し、現在は在外投票制度のネット投票を求める署名活動を行っている。X(@jovnewyork)で日々情報を発信中。https://jovnet.org

過去最高の投票率の裏に投票できない在外邦人の叫び
今回の衆院選の在外投票率は28.08%と過去最高を記録した。「逆に言えば、たくさんの人が投票にトライしたので、X上でこうした声が多く見られたんだと思います」と話すのは、海外有権者ネットワークNY共同代表の竹永浩之さん。1990年代に在外投票制度実現に向けて活動していた海外有権者ネットワークは、選挙があるごとにX上でつぶやかれた在外投票制度への意見や不満をリストにまとめており、今回は特にその数が多かったという。
なかには、郵送投票のため事前に投票用紙の取り寄せを申請したにもかかわらず、期間があまりにも短かったために投票用紙が届かず、さらには申請のために一時的に預けていた在外選挙人証が手元になく、在外公館での投票も叶わなかったというケースも。「私たちがXで拾った声は氷山の一角。こうした意見は、実際にはもっとあるわけです」と竹永さんは声を曇らす。
終わっていなかった海外有権者ネットワークの使命
そもそも在外投票制度が認められたのは、1998年のこと。1993年に細川連立政権が誕生して55年体制が崩れたことをきっかけに、日本国憲法に規定された国民の基本的人権である「選挙権」を在外邦人にも認めることを求めて、ニューヨーク、シドニー、バンコク在住の有権者が署名活動を開始。その活動は世界各国へと広がり、翌年に「海外有権者ネットワーク」が誕生した。国会や関係省庁に署名を提出後、1995年には日弁連で人権救済申立て、村山総理(当時)に直接陳情を行い、最終的に国を相手取って違憲訴訟を起こすことになった。訴訟中に公職選挙法が改正され、比例代表選挙のみ在外投票権が認められたが、その後も裁判が続き、2005年に違憲判決が出て小選挙区の在外投票権も勝ち取ったのだった。
竹永さんは当時を振り返って「喜びましたよ。でもあの時の喜びは、今では完全に消えています」と怒りを込めて話す。「海外有権者ネットワークの仕事は、制度ができた時点で一度終わったはずでした。ただ、当時は都市部の在外邦人が中心となって進めていたこともあって、例えば発展途上国などの遠隔地に住んでいる方たちの気持ちや状況が分かっていなかったんです。やがてツイッター(X)ができ、2012年の衆院選時に投票できないという遠隔地の人たちの声を知って。自分たちのやるべきことは、まだ終わっていないって思いましたね」。
しかし、かつて共に闘った海外有権者ネットワークのメンバーの多くがすでに亡くなっており、各国にあった海外有権者ネットワークも現在はニューヨークだけが活動を続けている。「勝ち取ったと思っていた権利が、十分なものではなかった。亡くなった人たちに申し訳ないです。だから、みんなで始めた仕事を私が終わらせたいと思っています」と竹永さんは言う。
投票したい人が投票できる在外ネット投票の実現へ
2月の衆院選後、竹永さんは再び署名活動を始めた。「『在外投票できない!』:在外ネット投票の一日も早い導入を求めます」と題されたオンライン署名は、3月末時点で2万筆以上が集まっている。竹永さんは「少なくとも日本の在外投票制度を完成させるにはネット投票の導入しかない」と考えている。「そもそも日本は世界に比べて選挙期間が短い、そして解散選挙が多い。さらに世界の面積は日本の400倍ありますが、在外公館は233しかありません。在外公館に行けない人のために郵便投票がありますが、選挙期間が短すぎて全く機能していないのです。
それから、今回の衆院選では在外公館で並んだという声を多く聞いています。今回の在外投票率は過去最多とはいえ、海外の有権者およそ105万人のうちわずか10万人ほどしか在外選挙人に登録していないので、実質の投票率は2%ほど。これが5%になったとき、果たして在外公館は対応できるのか。これらのことに対応するためには、ネット投票の導入しかないんです。ネット投票が選択肢に加われば、投開票日の前日まで投票できるため、情報がないまま慌てて投票する必要もなくなります」
実は在外ネット投票の導入については2018年から総務省の有識者会議で提言され、議連案を作るところまで来ている。竹永さんたち海外有権者ネットワークが在外投票の現状を訴えてきたことが、実を結びつつあるのだ。「不正や技術的な問題についても、少なくとも在外投票ではクリアしていることを専門家も認めています。あとは政治家が決めれば実現できるんです。より早く法案を成立させるために必要なのは、在外邦人の皆さんの声。在外ネット投票の導入を訴えることが、法制化の後押しになります」。
竹永さんの見立てでは、2028年までに法案通過を目指し、2031年の参議院選挙からの導入が現実的だという。「今回は日本国内でも雪の影響で投票できない人が多くいました。投票したい人が投票できる。これは憲法に定められた原則です。国内外問わず投票できなかった人は声を上げていくべきだと思います」と竹永さん。30年以上在外投票のために闘い続ける竹永さんの言葉は、ごく当たり前の権利を守ることの大切さを思い出させてくれた。
数字で見る在外投票
参考:外務省





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