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ロンドンのゲストハウス
Do. 17. Okt. 2019

極右勢力から自分たちの街を守りたい ケムニッツが生んだ
平和の垂れ幕

2018年8月、ドイツ人が難民に殺害されるという事件を発端に、予期せぬ注目を浴びたザクセン州ケムニッツ。移民や難民に反対する極右グループによるデモで覆いつくされた街の映像を見て、衝撃を受けた人も少なくないだろう。しかし、右翼的というレッテルを貼られたケムニッツを自分たちの手に取り戻そうと、何年も行動してきた市民たちがいる。平和の垂れ幕を製作し、極右勢力に抵抗する「Aktion C」のメンバーに話を聞いた。(Text:ふくもとまさお)

3月5日の平和の日に、ケムニッツ市庁舎にかけられた垂れ幕3月5日の平和の日に、ケムニッツ市庁舎にかけられた垂れ幕

なぜ、極右勢力がケムニッツに?

モンテッソーリ学校の先生であるアンネ・ナウマンさん(41)に出身を尋ねると、「カール・マルクス・シュタットよ」と答えた。東独時代、ケムニッツは「カール・マルクス・シュタット」といった。東西ドイツ統一後に「ケムニッツ」に戻るが、ケムニッツには今も東独時代の面影が残っている。かと思うと、モダンなショッピングモールも立ち並ぶ。

事件は、ちょうどモダンに再開発された市街との境界ともいえるメイン通りで起こった。2018年8月下旬、通りの歩道でキューバ系ドイツ人男性が刺殺されたのだ。容疑者はすぐに拘束されたが、容疑者がシリア人難民だということから、事件はネオナチなどの過激な右翼による抗議デモへと広がっていく。こうして、ケムニッツには「右翼の巣」のレッテルが貼られた。

事件現場の歩道には、犠牲者の写真が置いてある。その周りに、花やロウソクがたくさん並んでいた。写真を見る限り、ドイツ人と言われてもピンと来ない。地元で建築家として働くゲラルト・リヒターさん(63)からは、事前に「(犠牲者は)ドイツ国籍を取得したキューバ人。右翼に(事件を)うまく利用されてしまった」と聞いていたが、確かにそうだ。この事件をきっかけに、ケムニッツにはドイツ各地から過激な右翼が集まってきた。

第二次世界大戦前からケムニッツでは、機械産業が盛んだった。しかし東西ドイツ統一後、自慢の機械産業が崩壊し、たくさんの失業者が出た。リヒターさんは、幸いにも建築家として地元大学の修復工事など大きな仕事に携わることができた。しかし、リヒターさんの友人たちは次から次に失業してしまい、西側のシステムも疾風怒濤のように入り込んでくる。こうした状況において、「友人たちは、自分の価値観を見失っていかざるを得なかった」と振り返る。

街を取り戻す「平和の日」

ケムニッツは1945年2月から4月にかけ、連合軍によって何回も空爆された。中心街はほとんどが破壊され、4000人が死亡したとされる。空爆が最も激しかったのが3月5日だったことから、その日は半世紀以上も経って「平和の日」とされた。

2011年の平和の日、ケムニッツ市内にいたリヒターさんは、これが自分の街なのかと目を疑わざるを得なかった。極右グループが空襲犠牲者を追悼する名目で、警官隊に保護されながらデモ行進していたのだ。この極右グループは欧州各地から集まってきたと見られる。市民は口を閉ざし、ケムニッツはまるで「死の街」だったという。

リヒターさんは、極右勢力から街を取り戻したいと思った。平和の日にわれわれも抵抗しよう。それには青少年たちも参加させたい。その思いで、子どもが自由に自立できる教育を目指すモンテッソーリ学校の先生であるカタリーナ・ケステルザッセさん(46)に相談した。生徒たちが平和をテーマに長さ7メートルの垂れ幕を作り、毎年平和の日にそれらを街に展示したらどうか。そして、翌年3月5日に色とりどりの垂れ幕が、ケムニッツの市庁舎などで披露された。こうして始まったのが、リヒターさんを中心に活動する「アクツィオーンC(Aktion C)」だ。「C」はケムニッツの頭文字で「行動するケムニッツ」を意味する。

垂れ幕を通じ平和を学ぶ生徒たち

このプロジェクトでは生徒たちはまず、学校の授業において戦争の歴史などについて学ぶ。その後、休暇などを利用して数人が共同で一つの垂れ幕を制作する。ケステルザッセさんによると、「生徒たちは(休暇中でも)家族と一緒に旅行に出かけないで、自主的に学校で垂れ幕を完成させる」という。

見せてもらった垂れ幕では、第二次世界大戦中のショル兄弟らによる「白いバラ」の抵抗運動がモチーフだった。ゾフィー・ショルは、当時ミュンヘン大学構内でナチスに抵抗することを呼びかけるビラを上の階から下のホールにばら撒いた。でも垂れ幕では、白いビラが下から上に舞い上がっていて、そこに「抵抗」の強い意志が感じられる。

生徒たちが制作した垂れ幕は、平和の日にケムニッツ市庁舎の外壁やショッピングモール内に展示される。「垂れ幕が展示され、社会のために何かできたと感じることが大切だ」と、教師のオリバー・ヴィンケルさん(44)は言う。「そう実感できれば、決してネオナチに走るようなことはないはず」と確信する。

2018年11月、アクツィオーンCに新たな風が吹き込んだ。生徒たちが制作した垂れ幕がドレスデン聖十字架教会内に展示されたのだ。ケムニッツ以外では初めてのことで、教会の大きな空間に生徒たちの平和への思いが広がった。リヒターさんはそれを誇りに思っている。「定年になるのが待ち遠しい。何にも束縛されず、(プロジェクトを)ライフワークとして続けたい」とリヒターさんは語った。2019年の平和の日もまたケムニッツの街中で、抵抗の思いが込められた垂れ幕が見られることだろう。

ケムニッツ「平和の日」:www.facebook.com/chemnitzer.friedenstag

ふくもとまさお ベルリン在住ジャーナリスト、ライター。旧東ドイツで生活した視点から『小さな革命―東ドイツ市民の体験』を出版。そのほか『ドイツ・低線量被曝から28年―チェルノブイリはおわっていない』(いずれも言叢社刊)など。ドイツのエネルギー事情、原発問題にも詳しい。
https://taiwakobo.de

垂れ幕を制作中の生徒たち垂れ幕を制作中の生徒たち

2018年11月、ドレスデン聖十字架教会での展示会から2018年11月、ドレスデン聖十字架教会での展示会から

左からケステルザッセさん、ナウマンさん、ヴィンケルさん、リヒターさん「白いバラ」の垂れ幕を囲んで、左からケステルザッセさん、ナウマンさん、ヴィンケルさん、リヒターさん(筆者撮影)

 
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