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ビオワインの世界 15 ビオワインの未来

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昨年5月から約1年にわたり、「ビオワインの世界」と題してその現状をお伝えしてきましたが、連載を通してビオワインが少し身近なものとなったでしょうか? 

ドイツをはじめ、欧州のビオワインはようやく欧州連合(EU)の基準が整い、買い手にとって選びやすくなってきています。ドイツ国内のビオのスーパーマーケットやビオ製品専門店のワインコーナーは、訪れるたびに充実してきており、試飲が可能なところもあります。食材の多くをビオの店で調達するという人が増えている今、ビオワインも注目を浴びており、 2012年ヴィンテージからは、葉のマーク(EUのビオ製品のマーク)の有無によってワインを選んでいる人も多いはずです。ビオディナミ製品も、マーケットやビオ・ショップで「デメター」の食材が流通することにより、徐々に知られるようになってきました。

先月、ビオディナミ農法を実践している女性醸造家と話す機会がありました。彼女は、「ビオは『断念(Verzicht)』の農法、ビオディナミはそれにアクティビティーが加わる農法、つまり自然と対話する農法」だと言い、私がまだよく理解できていなかった天体の運行とワイン造りの関係について教えてくれました。「例えば剪定は月が欠け始め、樹液が下がっていくときに行う。月が満ち始めるときは樹液が上がってくるので、ぶどうには触らず、切った枝をフェンスから取り外す作業をするの。様々なプレパラートは月が欠け、樹液が下がるときに散布するのよ」。これまで、私が出会ったドイツのビオディナミの醸造家には、天体の運行はあまり意識していないという人が多かったのですが、彼女が長年にわたり宇宙の躍動に合わせて仕事をしていると知り、ビオディナミ農法の奥深さに改めて気付かされました。

ビオ農法はワインの造り手にとって、もはや避けて通れないものになりつつあります。ビオ農法を実施して緑肥を行ったり、薬草の煎じ液、抽出液、オイルなどを使用すると、植物自体の持つ治癒力がゆっくりと回復し、ある程度病害に対する抵抗力がつくようになります。また、ぶどうの房を減らしたり、1つの房を例えば半分程のサイズに切り落とすことは収穫量制限の手法ですが、同時にフルーツゾーンの風通しが良くなるので、灰色カビ病などをある程度防ぐことができ、農薬散布量を減らすことが可能になります。

ぶどう栽培における最大の問題は、本誌955号(2013年6月7日発行)でご紹介したようにウドンコ病(オイディウム)とベト病(ペロノスポラ)で、ウドンコ病には硫黄剤、ベト病にはボルドー液(主成分は硫酸銅)で対処します。ウドンコ病にはフェンネル油、トクサやイラクサの抽出液、ベーキングパウダーなどを併用し、硫黄の使用量をかなり抑えることができるそうですが、ベト病においてボルドー液の使用量を減らすことは伝統品種の場合、非常に困難で、今後の課題となっています。

926号(2012年7月6日発行)では、ビオの生産者が注目している農薬(殺菌剤)投与が少なくてすむPiWi種(ピーヴィ種=カビ菌耐性品種)を取り上げましたが、当時ご紹介したレゲント(赤品種)、ヨハニーター、ブロナー、ソラリス(いずれも白品種)に続き、ネーミングの良さもあって注目されているのが、カベルネ・ブラン(Cabernet Blanc)という白品種です。醸造所ナビではその先駆者をご紹介します。

Weingut Rummel
ルンメル醸造所(プファルツ地方)

クラウス&ズザンネ・ルンメル夫妻
クラウス&ズザンネ・ルンメル夫妻

プファルツ地方ランダウで、クラウス&ズザンネ・ルンメル夫妻が運営する醸造所。もともと複合農家だったが、先代がワイン造りに専念。元詰めは現オーナーの代になってから始めた。1994年よりエコヴィン(ecovin)基準でワイン造りを行っている。所有畑は14ヘクタール。栽培品種の50%がPiWi種という異色の醸造所でもある。栽培しているPiWi種はレゲント、ピノティン(Pinotin)、カベルティン(Cabertin)、カベルネ・ブランが中心。ルンメル夫妻のPiWi種への思い入れは強く、2005年にはランダウ市のエコロジー奨励賞の最優秀賞を受賞。エコヴィンおよびノイシュタットの研究所と共同で、栽培、醸造各分野における様々なプロジェクトを手掛けている。彼らの先進的な試みは高く評価され、連邦農業省からはパイロット企業としての助成も受けている。

Weingut Klaus und Susanne Rummel
Geißelgasse 36, 76829 Landau–Nussdorf
Tel. 06341–61972
www.rummel-biowein.de


2013 1er Cabernet Blanc trocken
2013年 1er カベルネ・ブラン(辛口)
7.10 €

ワインカベルネ・ブランは1991年にスイス人のヴァレンティン・ブラットナーが、カベルネ・ソーヴィニヨンと耐性品種(Resistenzpartner)を交配して生み出したもの。その後、プファルツ地方の苗木業者(Rebveredler)フォルカー・フライタークが選別し、2004年に新品種として登録した。カベルネ・ブランは粒が小さく、凝縮度も高い。ボトリティスに対して強い耐性があるほか、ウドンコ病、ベト病にも耐性が見られ、リースリング並みに寒さに強い。ワインはソーヴィニヨン・ブランを思わせるエレガントで爽やかな風味と、リースリングを連想させる酸味が特徴。後味に残るほろ苦さも魅力的。従来のPiWi種と違ってネーミングが良いことも、注目される理由の1つ。ルンメル夫妻はカベルネ・ブランのゼクト(13.20€)も生産している。エチケットデザインは、ズザンネ夫人によるもの。1er(Einser=1番目の)は、本来の品種名VB91-26-1をそのように呼んでいたことから付けられている。


 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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