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ワインと食の合わせ方 1 古代ローマのワインのある食生活

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マッチング、ペアリング、マリアージュ……、ワインと食の理想的な合わせ方については、沢山の情報が飛び交っています。このテーマについては、どれほど多くを語っても語り尽くせません。それは、人間の味覚や嗜好が人それぞれであり、料理の味わいが素材や作り手によって違い、合わせるワインが刻々と熟成しているからでしょう。人と食事とワイン、その出会いは常に一期一会です。

今回から、ワインと食の合わせ方をテーマに書き始めますが、その前に時計を逆戻しして、古代ローマの食生活を少しだけのぞいてみましょう。ご存知のとおりドイツワインのルーツは古代ローマ帝国にあり、ライン川、モーゼル川流域などでぶどうを栽培しはじめたのは、ワイン造りの経験や知識を持っていた帝政期のローマ人兵士たちでした。

古代ローマの飲み物には、水、山羊や羊のミルク、穀物やハーブのお茶、 ビール、ワインなどがありました。当時、ビールにはホップが使われておらず、爽やかな味わいに欠け、保存が利かなかったそうです。ワインの保存も困難でしたが、ビールよりは長持ちし、広く飲まれていました。ローマ人の基本食はワインとパンで、庶民が通うワインバー、ポピーナ(Popina) では、ろ過して水で割ったワインと、平たいパンやひよこ豆のタルトなどの軽食を出していたそうです。

富裕層の食生活において、ワインは最も重要な飲み物でした。調味料としても活用され、オリーブ油や魚醤と同じくアンフォラ(かめ)に入れて保存されていました。古代ローマ料理のレシピ本には「カレヌム(Carenum)」というワインを煮詰めたシロップや、「エノガルム(Oenogarum)」というワインと魚醤を合わせた調味料が度々登場します。

食事には順序があり、アペリティフもありました。宴会ではまず、ワイン4、蜂蜜1の割合でブレンドしたアペリティフ「ムルスム(Mulsum)」が供され、卵や野菜中心の前菜が出てきます。その後、第一の皿として肉料理や魚介料理が、続いて第二の皿として、デザートとなるぶどうやいちじく、なつめなどの果物や焼き菓子が出されました。

アンフォラで保管していた濃厚なワインは、ろ過器で漉し、水3、ワイン1の割合で薄めて飲まれていました。スパイスやハーブなどで風味づけされることが多く、夏には冷やし、冬には温めていたようです。このほか、パッスム(Passum)という、樹に実ったままで乾燥したぶどうを収穫して造る、ストローワインに似た甘口デザートワインもありました。正式な晩餐会には、飲み物を担当するソムリエ役がいたそうです。

古代ローマ時代、ワインは当たり前のように楽しまれ、アルコールが強すぎれば水で薄め、蜂蜜を入れて甘くしたり、好みで風味づけしたわけですが、思えばドイツのレストランやバーには必ずワインショーレがあり、ニワトコ(ホルンダー)のシロップを加えたゼクトなどにもお目にかかります。冬にはスパイスたっぷりのグリューワインも人気です。田舎に行くと、特に組み合わせを意識することなく、地元のワインと地元の料理を合わせていただく機会があります。ワインの楽しみ方は、本来このように大らかなものだと思います。

(参考文献/ Ileria Gozzini Giacosa著「Geniessen wie die Alten Römer」Eichborn社刊)

 
Weingut August Eser
アウグスト・エーザー醸造所(ラインガウ地方)

Weingut August Eser
醸造所に新風を吹き込むデジレさんとドドさん夫妻。

創業1759年の由緒ある醸造所。現在のオーナーは10代目のデジレ・エーザー・フライフラウ・ツー・クニプハウゼン夫人。醸造所はデジレさんの祖父名から。夫のドド・フライヘア・ツー・クニプハウゼン氏と共に高品質のワイン造りを信条とする。所有畑は11ヘクタール。エストリッヒの他、ハッテンハイム、リューデスハイムなど8つの村の、7つの特級畑と4 つの一級畑(VDP格付)から味わい豊かなリースリングを生み出している。ワインの約3分の1が木樽仕込み。19世紀末のオークの大樽も現役で使われている。ワインは辛口が主流。リースリングのゼクト、アウスレーゼ、貴腐ワインなどのデザートワインも生産。ディナーを完璧にエスコートするコレクションが揃う。ぶどうの房と鍵を組み合わせたシンボルマークが目印。

Weingut August Eser
Friedensplatz 19
65375 Oestrich-Winkel
Tel. 06723-5032
http://eser-wein.de
オンラインショップ: www.August-Eser-Weinshop.de


2015 Riesling My Way Désirée Eser2015 Riesling My Way Désirée Eser 7,90€
リースリング マイ・ウエイ デジレ・エーザー 辛口

 醸造所初の女性オーナーとなったデジレさんが、醸造所を継いだ2007年から生産している「マイ・ウエイ」は、彼女のワインへの思いが込められたバランス良い味わいの辛口リースリング。主にエストリッヒ村のレンヒェン、クロスターベルクのぶどうをブレンド。残糖値7,9g/L。特に家禽類やリゾットなどと合わせるのがおすすめだという。酸味や香辛料が利いた料理には、中辛口(残糖値13,2g/L)の「シュリュッセルエアレープニス(Schlüsselerlebnis/鍵となる体験の意)」(7, 90€)を。

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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