Hanacell

街のさまざまな姿を写し出す路上生活者による写真展

先日、ハノーファー市庁舎で一風変わった写真展がありました。お酒の空瓶やゴミ箱、空き地が写してあったり、ピンボケだったり、歪んでいたり。通常ならあまり被写体となりそうにないものばかり。会場の真ん中あたりには、使い捨てカメラが多数置いてありました。会場の説明文を読んで、作品はハノーファーに住むホームレスの方が撮ったものだとわかりました。

写真展は「私のハノーファー、住まいのない人が撮った自分の街」という題名で、昨春ハノーファーにいる路上生活者約100人に使い捨てカメラを渡して写真を撮ってもらい、その中から350点を展示。市や財団などの共同プロジェクトとして実現しました。

基町
展示会場の様子

さまざまな写真があり、例えば店に並ぶ高級シャンパンとゴミ箱のそばに落ちている酒瓶、明るい広場とガード下の薄暗い通り、高級車と路面電車の割引チケットなど、裕福と貧困を対比したものがありました。人物の写真は多くありませんが、楽しそうに笑っている男性や、ごちゃごちゃした部屋でこちらを見つめる女性の写真がありました。裕福でないことは一目でわかります。がらんとした路面電車や、自分の足が写しこまれている道があったかと思うと、何の思いもなくただシャッターを押しただけに見える写真もありました。ホームレスは街にいてもあまり触れあう機会がありませんが、この写真展は彼らがそこにいて、何を見て何を感じているかの一端を教えてくれました。

基町
街で見かけるさまざまなもの

私の知り合いで、路上生活者になったドイツ人がいます。20年前私がドイツに一人で来た頃、いろいろ親切にしてくれた人で、当時彼は30代半ばで前途洋々に見えました。ときどき職を変えながらも自立していましたが、50代で失業してからは経済的に逼迫するようになりました。ドイツではジョブセンターと呼ばれるいわゆる職業安定所の指導に従って求職活動や研修をしていれば、実際に仕事が見つからなくても路頭には迷わないはず。どういう経緯なのかはわかりませんが、彼は支援を打ち切られ、家賃が払えなくなり、アパートを追い出され、所有物は強制的にどこかに移され処分されました。生活費の一部を援助してくれていた友達とも喧嘩別れし、しばらく行方知らずとなりました。けれど、無料で食事を提供している教会や路上生活者用の宿泊施設がありますから、なんとかやっているようです。最近ときどき会いますが、痩せたりやつれたりもしていません。相部屋は嫌だと、夏場は路上で寝ることもあるようですが、冬は寒いのでそんなこともいっていられないようです。

ホームレスになるのは自己責任だという論調をときどき耳にしますが、写真展を見て「自己責任の一言で片付けてしまって良いのだろうか、本当に人事なのだろうか」と思いました。写真展は終了してしまい残念ですが、思いのほか賑わっていました。何か心に訴えかけるものがありました。

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。
 
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