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ライプツィヒに学ぶ空き家と空き地の使い方

NPO法人「日本の家」を設立した大谷悠さんが、11月に『都市の<隙間>からまちをつくろう』という本を出版しました。研究者であり、まちづくり活動家でもある大谷さんの目線で書かれた、「ライプツィヒの隙間」を本の中から少し紹介します。

ブックデザインはチームライプツィヒブックデザインはチームライプツィヒ

ライプツィヒでは東西ドイツ統一後に人口流出が起こり、空き家率は市全体で20%を超えました。特にライプツィヒの東西地区の新興住宅街は、労働者のために作られた築100年前後のグリュンダーツァイト建築と呼ばれる建物の多いエリア。人口減少が激しく、同地域の空き家率は50%を超えていました。ライプツィヒ市は空き家の多い東西地域を中心に、歴史的に価値のないとされる東ドイツ時代の団地やグリュンダーツァイト建築の家を解体し、ひとまず10年間は公共の緑地にし、空き家率を下げて治安の良い住みやすい地域にする計画を立てました。

この計画の実行によりできた歯抜けのような都市景観や、意味のない緑地を批判する形で、市民団体「都市フォーラム」が結成されました。彼らは、「際立った歴史的価値のない家でもライプツィヒの景観にとって重要だ」、「建物を解体するのではなく維持することにお金をかけるべきだ」という意見や、「緑地を作ってもイヌのフンやゴミが放置され、憩いの場とは程遠い」など、意見書をまとめて市議会に圧力をかけたのです。しかし、不動産需要もなく、歴史的に際立った価値もないとされるこれらの住宅を、全て公費で保全するのは不可能でした。

著者の大谷さんと、「日本の家」現代表のトビ著者の大谷さんと、「日本の家」現代表のトビ

そこで西地区の住人を中心にこのグリュンダーツァイト建築の空き家を救うため、2004年に立ち上がったのがNPO法人「ハウスハルテン」です。彼らは、「利用による保全」という合言葉で空き家を使いたい人に提供し、使うことで保全していくというプログラムを作りました。「ハウスハルテン」は、この連載の「セルフリノベーションによる共同住宅」(本誌943号)という記事で紹介されています。このプログラムを利用して市民によるさまざまな文化的な活動や場所が作られました。

また、この計画によって2012年までに東西地域に146カ所の暫定的な緑地が誕生。その暫定緑地を、近隣住民たちが利用、整備、維持管理する活動も始まっています。

空き家だらけだったころとは見違えたアイゼンバーン通り空き家だらけだったころとは見違えたアイゼンバーン通り

本を通じて、それまで単に無駄なもの、減らすべきものだと思われていた空き家や空き地は、住民の自発的な活動をするための「資源」であったということに気づかされました。現在では「ライプツィヒの自由」というキーワードで行政と住民が密に連携し、空き家や空き地の活用を推し進めています。本の中では具体的な五つの「都市の隙間」の活用や「日本の家」の10年にわたる活動についても書かれています。ぜひ一度、読んでみてはいかかでしょうか。

小見山 郁子(こみやま いくこ)
岡山県出身。コミュニティースペースやまちづくりに興味を持ち、NPOで活動しながら診療放射線技師として8年間病院勤務。ひょんなご縁で2018年に渡独し、ライプツィヒにある「日本の家」で活動を開始。2020年から日本食を中心としたコレクティブとして活動中。
 
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