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EHECと食中毒

最近ドイツで大騒ぎとなったEHEC は、ほかの食中毒とどう違うのでしょうか?

EHEC とは?

病原性のある大腸菌(E. coli)の一種で、腸管の出血をきたす腸管出血性大腸菌(Enterohämorrhagische E. coli)の略語です。ドイツでは通称「エーヘック」と呼ばれます(表1)。菌数がわずか50〜100個程度でも発症する、感染力の非常に強い菌です(一般の食中毒は菌数100万個以上で発症)。体内で増えたEHECはベロ毒素(発見者にちなんで志賀毒素とも)という強力な毒素(Toxin)を産生します。命に関わる溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症を引き起こすことがあります(後述)。

表1 EHEC 腸炎
・ 感染源は、加熱不十分な肉・生野菜
・ 潜伏期は2〜9日
・ 感染後にベロ毒素を産生
・ 症状は、血液を伴った水様便、激しい腹痛
・ 重篤な合併症を起こす
・ 予防は食品の加熱

病原性大腸菌とは?

私たちの腸の中に常在する大腸菌は、時に膀胱炎の原因となる以外は、ほとんど人体に無害です。それに対し、EHEC のように人体に有害な病気をもたらす大腸菌を病原性大腸菌と言います。日本で話題になった病原性大腸菌O157も、今回ドイツを騒がせたO104もEHEC の一種です。「O(オー)+番号」は大腸菌の抗原型(O抗原)に基づいた分類で、発見された順に番号が付けられています。

EHEC腸炎の症状は?

EHEC感染者の約半数に出血性大腸炎がみられます。風邪のような初期症状に続いて、血液の混じった水のような下痢、吐気、激しい腹痛を訴えます。発熱はそれほどでもありません。

図1 EHEC 腸炎

溶血性尿毒症症候群(HUS)の症状は?

EHEC腸炎の発症から5〜10日後に、全身のむくみ、貧血、出血傾向の3症状が現れることがあります。これは急性腎不全、溶血性貧血、血小板減少症によるもので「溶血性尿毒症症候群(HUS)」と呼ばれています。EHEC腸炎患者の10〜20% にみられ、一部の患者は慢性腎不全や死に至る重篤な病気です。

EHEC とHUS の病名の違いは?

同じ大腸菌を原因とするEHEC腸炎とHUS を区別するため、症状が腸炎だけのものをEHEC、HUS を伴った場合にはHUS という病名を用います。ドイツのニュースでEHEC何名、HUS何名という表現を用いているのはこのためです。

EHEC による脳症は危険?

HUS発症とほぼ時期を同じくして、けいれんや意識障害などの中枢神経障害がみられることがあり、「脳症」と呼ばれています。HUS患者の20〜30% で合併し、死亡率は10〜20% と高率です。

EHEC の感染ルートは?

食材の生産地から食卓に至る過程の中で菌が付着するため、原因食材を特定することが困難な場合もあります。EU は、今回のドイツでのEHEC発生はエジプト産のスプラウト用(モヤシやカイワレ大根を含む植物の新芽の総称)の種が感染源であった可能性が高いと発表しています。

EHEC の予防法は?

肉類は十分に火を通しましょう。EHEC は十分な加熱(中心温度75℃以上で1分間以上)によって死滅します。野菜類は湯がき(沸騰した湯で秒程度)が有効とされています。レタスなどの葉は1枚ずつ流水で洗い、果実はよく洗った後、皮を剥いて食べましょう。

日常遭遇する食中毒は?

サルモネラ、カンピロバクター、ボツリヌス、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌など、細菌性食中毒が知られています(表2)。日本では、以前は海の魚を介した腸炎ビブリオが多かったのに対し、食生活の変化と共に肉由来のカンピロバクター菌が増えています。また、ノロウイルス感染も増えてきました。

● サルモネラ菌
卵、自家製のアイスクリームやマヨネーズ、鶏肉の中で増殖したサルモネラ菌が腸管内で増えて発症します。食品の加熱で予防できます。加熱できない自家製マヨネーズなどは早めに食べてください。潜伏期は10〜72時間。

● カンピロバクター菌
家畜に常在する菌で、調理されていない生肉を食べることによって感染します。潜伏期間が2日〜1週間と長いのと、腐敗臭を伴った下痢が特徴です。予防は加熱。

● ボツリヌス菌
物が二重に見える、声が出ない、物を飲み込めないなどの神経症状が主体の食中毒です。真空パック、缶詰、ソーセージなどの中で増殖します。症状の原因が毒素のため、食品を加熱しても予防できません。缶や真空パックが膨れ上がっている場合には廃棄しましょう。

●黄色ブドウ球菌
手に着いていた黄色ブドウ球菌がお寿司やおにぎりに付着して増殖、そこで毒素を産生します。毒素は耐熱性のため、加熱しても取り除けません。潜伏期間は3〜6時間。

● 腸炎ビブリオ菌
本来は海水に常在している菌です。夏場などの暑い季節に、加熱していない海の魚類などで感染します。

● ノロウイルス感染症
ウイルスによる食中毒です。ウイルスに汚染されたプランクトンを食べた生カキなど、二枚貝からの感染が見られるものの、7割は原因食品の特定ができません。ウイルスは、患者の便や吐物に大量に含まれ、そこから手を介したり、乾燥して空気中に漂って感染を広めます。潜伏期間は1〜2日間。ワクチン、抗ウイルス剤も含めて有効な治療法はまだありません。

表2 代表的な食中毒

一般的な食中毒の予防法

以下に述べるような、基本ルールで自宅での感染はかなり減らせます。調理前と食事前の手洗い、調理器具や食器の洗浄の徹底、冷蔵庫を過信せず、冷蔵庫・冷凍庫で保存した食品の管理には細心の注意を払い、冷凍食品の室温(細菌が増殖しやすい温度)での解凍放置を避ける。加熱を要する食材には十分に火を通す。賞味期限は、封を切らない限り有効と思った方が無難です。また、発展途上国への旅行の際、生水を飲んでの急性下痢を経験されたという話も耳にします。飲み水に限らず、歯磨きやうがいの際にもペットボトルの水を用いた方が安全です。氷の入った飲み物にも注意してください。

新鮮な食材を早めに食しましょう

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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