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ドイツで急病になったら

ドイツ滞在中に国内各地を旅行したいと思いますが、途中で急に病気になったらと思うと心配です。

旅行に携帯したらよいものを教えてください

ドイツでも夏休暇のシーズンに入り、家族旅行の計画を立てられている方も多いかと思います。旅先での病気は避けたいものですが、こればかりは予想がつきません。ドイツにいらしてまだ日が浅い方は、不安なことも多々あるかと思いますが、まず忘れてはならないのが、出掛ける際にドイツの健康保険カードを持っていくということです。

ドイツの健康保険証は、携帯に便利なようにICチップの入ったカードとなっています。チップ内に必要なデータが入っており、各病院で読み取れるようになっています。どんなに短い週末旅行、または日帰り旅行でも、この健康保険カードは身につけておきましょう(表1)。実は筆者もつい最近、旅先でまさかの緊急手術を受けたことがあります。健康保険カードがないと現金払いか最低限の治療しか受けられませんので、ドイツにいらしたばかりで健康保険の加入手続きを済ませていない方は、必ず旅行前に手続きを済ませるようにしてください。

表1 旅行の際に忘れてはならないもの
・健康保険カード ・パスポート ・治療中の薬

急に具合が悪くなったらどうすればよいでしょうか

宿泊先のホテルの受付に連絡し、相談するのが最も簡単でしょう。どの病院(Krankenhaus)に行けばよいか教えてくれますし、必要なら救急車(Krankenwagen)の手配もしてくれるはずです。

大きな病院では休日や夜間も救急患者の診察をしてくれます。電話で確認してから行けば確実ですが、直接に救急外来を訪れても診てくれます。時間外の場合は、最寄の緊急医療センター(Arzt-Notruf-Zentrale)に当直医の連絡先を問い合わせてもらうとよいでしょう。

自分で救急車を呼ぶ場合は、消防署(Feuerwehr)に電話します。救急車には医師の同乗している「Notarztwagen (車内で救急治療を必要とする場合)と「Krankenwagen」 (患者搬送車)があります。

うまく症状を医師に伝えられるかどうか不安です

けがのような外傷は別として、内科、小児科系疾患の場合は、1)どこが 2)いつから 3)どのように(またはどんな時に)痛むのかを、できるだけ簡潔に伝えるようにしてください。例えば、手で痛みの部位を示しながら単語だけで答えるのも正解です。また診察の際には、持病の有無(例えば高血圧)や服用中の薬を告げるようにしてください。薬剤に対するアレルギーがある方も必ず医師に伝えてください(表2)。

さて、せっかく病院に運ばれても、中には遠慮して我慢できるという意味で「大丈夫です」を繰り返す方もいらっしゃいますが、それでは皆が困ってしまいます。また逆に「痛い痛い」というばかりで、上記の1)、2)、3)など重要な情報が明確でなかったり、余り関連のない数年前の検査のことや自分の仕事のことを取り留めなく話しつづけられる方も、医師にとっては適切な診断ポイントが絞りにくくなります。

表2 症状の訴え
ポイント 
1)どこが
2)いつから
3)どのように
どんな時にを明確に
今朝から(seit heute morgen)
頭が痛い(Kopfschmerz, Kopfweh)
お腹が痛い(Bauchschmerz)
食べた後に(nach dem Essen)
4)治療中の疾病
5)アレルギー歴も忘れずに
高血圧(Bluthochdruck)
糖尿病(Diabetes)、など
ペニシリン製剤、アスピリンなど

薬は病院でもらえるのでしょうか

ドイツでは医薬分業が確立されており、医師が書いた処方箋(Rezept)を持って薬局(Apotheke)へ行き、薬を購入します。鎮痛剤(アスピリン)や下剤などの一部は、処方箋なしで直接購入できるものがあります。

手術が必要だといわれたらどうしたらよいでしょうか

旅先での入院や手術は誰もが望まないことですが、人生のうち1度や2度は予期しないことが起こるものです。一般に入院に際しての同意書はありませんが、手術に際しては同意書への署名が必要となります。

手術への同意書には、術式も含めて選択できるものがあります。例えば盲腸の手術でも、新しい内視鏡を使った切除法にするか普通の切開法で行うかとかいった具合です。盲腸では一般的に腰椎麻酔(腹部から下の部分のみの麻酔)が用いられますが、全身麻酔を希望することもできます。

医師による説明が理解できない場合には日本語(または英語)の通訳をお願いすることもできます。ただし生命に関わる一刻を争う緊急手術の場合には、同意書なしに手術が行われます。

入院の際には何を用意すればよいでしょうか

日本では洗面器、洗面用具、タオル、パジャマ・・といった具合ですが、ドイツでは基本的に歯ブラシ、歯磨粉ぐらいでしょうか。入院すると割烹着のような寝間着(背中側はオープンです)が与えられます。しかし、日本のように病院の寝間着だけを着る必要はなく、入院中も普段着やジョギング・ウェアなどを着ている患者さんを多く見かけます。

日独病院施設の大きな違いは、日本の中規模クラスの病院だと、小さなコンビニのように品物が豊富で宅配便の手配も可能な購買部がありますが、ドイツの病院のキオスクは雑誌や新聞、コーヒーなど喫茶が主体で日用雑貨は置いてないことも少なくありません。

公的健康保険とプライベート保険では待遇に差があると聞きました

治療という目的に達する意味では同じですが、待遇には普通車とグリーン車程度の違いがあります。同じ病棟内でも色分けしてあることがあり、個室を使えたり、教授や部長医師(Oberarzt/-ärztin)に直接診療してもらうことができるのがプライベート保険です。公的保険の場合、診察料、治療費、医薬品の支払いは原則として保険機関から直接支払われるのに対し、プライベート保険の場合には請求書が本人宛に届きます。すなわち、いったん自分で費用を支払い、医師の請求書を保険会社に送付して費用の全額または一部を還付してもらいます。 医師から請求書が届いたら、念のため明細にある検査が実際に行われたかどうかをチェックするとよいでしょう。

表3 ドイツの健康保険
種類 備考
法定健康保険
Gesetzliche
Krankenversicherung
法律で義務づけられた健康保険。雇用者が掛け金の半額を負担。強制加入の場合とその対象とならない人のための任意加入の場合がある。ドイツ国外で用いるには旅行保険を追加契約する。
プライベート保険
Private
Krankenversicherung
毎回医師が要求するだけの金額を支払う。部長医師、教授の診察や1人/2人部屋に入院できる。ドイツ国外での使用に関しては契約内容を確認。
追加保険
Zusatzversicherung
法定健康保険加入者が対象。部長医師の診察や1人/2人部屋に入院できる。

ドイツ国外に旅行する時の健康保険は?

公的健康保険はドイツ国内では有効ですが、ドイツ国外旅行中に治療を受けるにはそれぞれの健康保険組合の旅行保険特約(Reiseversicherung)が必要です。1年間で20~30ユーロ程度ですので入っておいた方が良いでしょう。なおドイツのプライベート保険の場合、国外での治療がカバーされるかどうか、 またその給付内容はタリフ、掛け金により違ってきますので旅行前に確認してください。

入院生活は日本とは異なりますか

病院によっても違いますが、基本的に自分の身の回りのことは自分でしなくてはならないことが少なくありません。日本のように看護士が頻繁に部屋を回って来ていろいろ相談に乗ってくれるということは少なく、用事がある時はブザーで連絡します。一定の時間に医師の回診、処置、食事、投薬などがあるのは日本と同じです。日本の医療システムはドイツから学んだものが多く、概して共通点も多いと言えるでしょう。

入院中は白いストッキングを履かされると聞いたことがあります

外科に入院すると病院によっては弾性ストッキングという白い長靴下が渡されます。これは長期臥床による深部静脈血栓症 (エコノミークラス症候群と同じ疾患)という欧米人に比較的多い合併症を予防するためです。同じ理由から、毎日抗凝血薬の注射を大腿部か腹部に受けます。

病院で携帯電話を使ってもよいのでしょうか

突然の入院では連絡しなければならない相手も多いでしょうが、医療機器に影響を及ぼす可能性があるため、院内での携帯電話使用は禁止されています。病室の各ベッド横にプリペイドカード式の電話が備わっています。ただし日本などへの国際電話には使えないことがありますのでご注意ください。

外出や訪問客に関する規則を教えてください

通常、外出は特に断りなく可能です。また見舞客も面会時間内であれば病院入口もしくは病棟で記帳しなくとも自由に病室へ足を運ぶことができます。管理に重点を置いた日本の病院のシステムからみると意外ですが、ドイツの病院での自由は、全く問題なく機能していることが良くわかります。

退院時の支払い等はどうすればよいですか

退院時にはまず、医師から入院中の治療経過を記した診療情報提供書(Arztbrief)を受け取ります。この手紙は、自宅に戻ったら普段かかりつけの医師(Hausarzt/-ärztin)に渡してください。入院中の診療情報のほか、入院中に見つかった検査異常値の経過観察を依頼する内容など、今後の治療に必要なことが記載されているからです。

入院費は公的健康保険の場合は1日10ユーロで、請求書を自宅に送ってもらい後で銀行振込することも可能です。そのほか退院時には、一般に看護士長にお礼のあいさつをして、慣例としてスタッフのコーヒー代として小額(1週間の入院で10~15ユーロ程度)を置いていくことがあるようです。

表4 旅先での病気を避けるために
・出発前に具合が悪ければ中止する勇気を持つ
・睡眠を十分に取る。疲れたら休む
・決して無理をしない
・水分を十分に取る
・旅行中の暴飲暴食をしない
・服用中の薬を中断しない
 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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ドイツニュースダイジェスト編集部
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