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TK Techniker
Mi. 23. Sep. 2020

2020年のドイツを展望する

教会の鐘と花火の音とともに、新たな年を迎えた。2020年は、ドイツにとって一体どのような年になるだろうか。

昨年12月12日、ブリュッセルの欧州理事会に出席するメルケル首相昨年12月12日、ブリュッセルの欧州理事会に出席するメルケル首相

2021年・連邦議会選挙の前哨戦が始まる

今年はハンブルク(2月23日)を除けば、州議会選挙が1つもない。バイエルン州とノルトライン=ヴェストファーレン州で自治体選挙が行われるだけだ。

しかし、来年10月24日の連邦議会選挙へ向けた選挙戦は、今年スタートする。この選挙はドイツだけではなく、欧州全体にとって最も重要な選挙の1つとなるだろう。

2005年以来この国を率いてきたメルケル首相は、この選挙を境に政界を去る。同氏はユーロ危機、リーマンショック、難民危機など欧州が直面したさまざまな難題と対決した、欧州連合(EU)で最も経験が豊富な政治家である。EUの事実上のリーダーだったメルケル氏の引退は、欧州にとっても大きな損失だ。

任期が長い首相の負の遺産は、後継者が見劣りすることだ。例えば、メルケル氏の後継者として有力視されていたクランプ=カレンバウアーCDU党首の人気は低い。最近発表された世論調査によると、「メルケル首相の仕事ぶりに満足している」と答えた回答者の比率は47%だったが、「クランプ=カレンバウアー国防大臣の仕事に満足している」と答えた回答者は24%とはるかに低かった。昨年秋の旧東ドイツ3州での州議会選挙で、CDUは大幅に得票率を減らした。11月に行われたCDUの党大会で代議員たちはクランプ=カレンバウアー氏を一応は支持。CDUはクランプ=カレンバウアー氏を首相候補に擁立するだろうが、同氏の選挙戦は険しい道程となるだろう。

一方大連立政権のパートナー・社会民主党(SPD)では、凋落ぶりがCDUよりも深刻だ。同党は昨年12月6日の党大会で、左派に属するサスキア・エスケン議員と、ノルベルト・ヴァルター=ボリャンス氏(元ノルトライン=ヴェストファーレン州財務大臣)を共同党首に選んだ。これまで中央政界では無名だった2人のうち、どちらが首相候補になるのかはまだ決まっていない。いずれにしても、SPDはCDUとの違いを際立たせるため、政策を左傾化するものとみられる。

伝統政党の弱体化、左派・右派の躍進

公共放送局ARDが昨年12月5日に発表した政党支持率調査によると、CDU・CSU(キリスト教社会同盟)の支持率は25%。SPDは第4位に転落し、支持率は13%にすぎない。つまりCDU・CSUとSPDは合計38%しか取れず、議会の過半数を確保できていないのだ。1970年代にはこれらの3党が約90%の得票率を記録したことを考えると、ドイツ社会の大きな変遷を感じる。こうした数字を見ると、来年の総選挙以降、大連立政権が継続される可能性はかなり低いと見るべきだろう。

ARDのアンケートでは、緑の党の支持率はCDU・CSUにわずか2ポイントの所まで肉迫している。現在の状況が続けば、緑の党抜きでは連立政権を構成することはできない。今年緑の党が支持率の維持に成功できるかどうかは、来年の総選挙の結果を占う上で極めて重要だ。一方右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、来年の総選挙へ向けて旧西ドイツで支持率を伸ばすという目標を打ち出している。つまりこの国では、第二次世界大戦後の二大政党制を支えてきた伝統政党が弱体化し、緑の党に代表されるリベラル勢力と、AfDに代表される右派勢力が支持率を伸ばしているのだ。英国やフランス、イタリアでも見られる社会の分極化現象は、今年のドイツでも強まるだろう。

最近一部のドイツ人の間では、反ユダヤ主義や排外主義が強まっている。昨年はカッセル区長暗殺やハレのユダヤ教礼拝施設襲撃未遂など、ショッキングな事件が相次いだ。今年はこうした不穏な動きに歯止めがかかることを望む。

ドイツ産業界の試練

もう1つ心配なのは、独経済の停滞傾向。昨年正式なリセッション(景気後退)の診断は下らなかったが、第2四半期には国内総生産(GDP)が0.2%減った。国際通貨基金(IMF)の統計では、昨年のドイツのGDP成長率は0.5%で、EU平均1.2%の半分以下。イタリア(0%)に次いでユーロ圏で2番目に低い。

景気を冷え込ませている最大の原因は、米中間、米欧間の貿易摩擦だ。特にこの国の産業界の屋台骨の1つである自動車産業では、懸念が強まっている。ドイツ自動車工業会(VDA)では、今年のドイツでの乗用車の販売台数が前年比で3.9%減って343万台になると予測している。産業界は売上高・収益が減っているにもかかわらず、デジタル化、モビリティー転換、人工知能の活用などさまざまな構造変化を実現しなくてはならない。どの業界にとっても重大な試練である。ドイツが政治的、経済的な難題を克服できるかどうか、注目していきたいと思う。

また昨年12月13日には、英国でボリス・ジョンソン首相が率いる保守党が圧勝。3年間続いた交渉の末、英国が近くEUとの合意に基づいて離脱することがほぼ確実になった。合意なしのハード・ブレグジットは避けられたものの、EUは創設以来初めて加盟国を失うことになる。欧州全体にとっては大きな痛手である。

ー 筆者より読者の皆様へ ー

いつも当コラムを読んでくださり、ありがとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。
 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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