ジャパンダイジェスト

ロックダウン大幅緩和 一部の州で集団感染も

新型コロナウイルスの拡大を防ぐために、3月23日にドイツで未曽有の「接触・外出制限令」が発令されてから約2カ月。「冬眠状態」にあったこの国に、ようやく活気が戻り始めた。

5月25日、記者会見で話すテューリンゲン州のラメロウ州首相5月25日、記者会見で話すテューリンゲン州のラメロウ州首相

ホテルや劇場も再開へ

5月6日にメルケル政権がロックダウン緩和の方針を発表して以降、マスク着用や1.5メートルの最低距離を取ることを条件に、商店、レストラン、喫茶店、ビアガーデン、理髪店などが徐々に営業を再開。教会のミサやモスクでの礼拝も許可された。さまざまな制約付きとはいえ、今後はホテル、劇場、映画館、コンサートホールなども再開されていく。

工場やオフィスに戻る人も、少しずつ増えていくだろう。国内旅行や、欧州連合(EU)域内でのバカンスを計画する人々もいる。「わが国はパンデミックの第1期をうまく乗り切った」とする連邦政府は、感染者数が急増しない限り、接触・外出制限令を6月29日に終える方針を明らかにした。

一部の州政府のロックダウン緩和競争

3月後半にロックダウンが宣言された時、連邦政府と州政府は一致団結していた。ところが今ではコロナ対策の一枚岩は崩れた。一部の州政府が足並みを乱し、ロックダウン緩和を急いでいるからだ。

特に5月24日にテューリンゲン州のラメロウ首相が行った発言は、連邦政府を驚かせた。彼は「わが州は、これまでの緊急事態モードから通常モードに切り替える。6月6日以降はマスク着用義務や1.5メートルの最低距離などの規制事項を州全体で適用するのをやめ、新型コロナウイルスの拡大状況に応じて、地域的に実施する」と述べたのだ。

首相は後に「全廃するとは言っていない。こうした措置を法律で強制するのではなく、市民が他者を守るために自発的に行うようにするのが、私の希望だ」と発言を若干修正したものの、連邦政府やほかの州政府からは批判の声が上がった。

バイエルン州のゼーダ―首相は、5月25日のARDでのインタビューで「マスク着用義務や1.5メートルの最低距離は、コロナ対策の基本中の基本だ。ウイルスが消えたわけではないのに、そうした義務を廃止するのは早すぎる」と述べた。

旧東独で高まる撤廃要求

ラメロウ氏が大幅緩和を求める理由の一つは、テューリンゲン州の新規感染者数が、ほかの州よりも少ないことだ。ロベルト・コッホ研究所によると、5月26日のテューリンゲン州の新規感染者数はわずか6人で、バイエルン州(130人)やノルトライン=ヴェストファーレン州(97人)に比べて大幅に少なかった。

ザクセン州政府も、積極的な緩和派だ。同州でこの日確認された新規感染者数は5人。また、同州で5月26日までの1週間に確認された感染者数は、人口10万人当たり2.2人で、バイエルン州(5.6人)の半分以下だ。このため同州のケッピング保健大臣は、「もしも新規感染者数が低い水準で推移すれば、わが州も6月6日以降、規制を大きく変更する」と述べた。

各州の政府が緩和競争を始めたのは、5月6日にメルケル首相が接触・外出制限などを緩和する方針を発表する前後からだった。例えばニーダーザクセン州政府は、メルケル首相の発表の2日前に、「5月11日からレストランの営業再開を許す」と発表。バルト海に面した観光地を持つメクレンブルク=フォアポンメルン州政府は、「5月9日からレストランの営業を解禁する」と宣言した。

一部の州が緩和を急ぐ理由は、飲食店・小売業界などで、ロックダウンのために苦境に陥る経営者が増えているからだ。連邦労働庁が4月30日に発表した統計によると、ドイツの失業者数は3月には約234万人だったが、4月には約264万人になった。ドイツでは通常4月になると悪天候の日が減って建設労働者が働きやすくなるため、失業者数は減る。つまり4月に失業者数が約13%増えたのは、異常な事態だ。

教会やレストランで集団感染

この国が「平時」に近づきつつあることは、喜ばしい。だが大半のウイルス学者たちは「秋から冬にかけてパンデミックの第2波が来る可能性が高い」と予想しており、油断は禁物である。

例えば一部の州では、ロックダウン緩和から1カ月も経たないうちに、クラスター(集団感染)が発生した。フランクフルトのある教会では、5月10日にミサが行われたが、信徒やその家族が次々に新型コロナウイルスに感染。感染者数は5月27日の時点で133人に上り、重症化して集中治療室に収容された人もいる。信徒たちは接触制限令を守らず、マスクを着けずに讃美歌を歌っていたという。

またニーダーザクセン州のレーアという街のレストランでは、5月15日に再開を祝う内輪のパーティーを行った後、感染者が続出。5月27日までに客や従業員23人の感染が確認された。これらの出来事は、最低距離やマスク着用義務を軽視することの危険性を浮き彫りにしている。

ロックダウン緩和は、ウイルスの消滅を意味するわけではない。過度に神経質になるのも良くないが、ワクチンが開発されない限り、ウイルスが人類に再び襲いかかる機会を伺っていることを、われわれは頭の片隅に置いておくべきではないだろうか。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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