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Do. 01. Okt. 2020

メルケル政権はコロナ・デフレを防げるか?

新型コロナウイルスの新規感染者数は減っているが、パンデミックの経済への打撃は深刻化する一方だ。そうしたなか、メルケル政権は不況の悪影響を緩和するために大規模な景気刺激策を発表した。

3日、コロナ危機における景気パッケージについて発表するメルケル首相3日、コロナ危機における景気パッケージについて発表するメルケル首相

ドイツで初の付加価値税引き下げを断行

連邦政府が6月3日に公表した「景気パッケージ(Konjunkturpaket)」の総額は、約1300億ユーロ(15兆6000億円・1ユーロ=120円換算)に上る。メルケル首相と共に記者会見に臨んだショルツ連邦財務大臣は、この不況対策の規模について「ドカーン(Wumms=ヴムス)という感じです」と形容した。

パッケージの最大の目玉は、付加価値税の引き下げだ。メルケル政権は、今年7~12月に限り付加価値税率を19%から16%に下げることを決めた。また、食料品は7%から5%に引き下げる。

この措置によって、200億ユーロ(2兆4000億円)の負担が軽減されるという。政府は特に低所得層の負担を減らしたり、コロナ危機によって減退している市民の購買意欲を高めることにより、景気の底上げを図る。ドイツで付加価値税が引き下げられたのは、今回が初めてだ。この決定は、多くの報道関係者や経済学者を驚かせた。

ただし、この減税が本当に消費を増加させ、景気の下支えにつながるかどうかは、未知数だ。今後ドイツでは失業者数が増えていく。雇用に不安がある人は、消費に走らず財布の紐を固く締めるだろう。

またドイツの付加価値税は内税だ。税金が減っても、企業が小売価格を下げるという保証はなく、価格を変えなければ企業の収益は増える。政府は企業に対し、商品の値段を下げて減税分を消費者に還元するよう強制することはできない。「企業は売上高を増やすために、値下げするだろう」という予想も出ているが、今回の引き下げがどの程度市民の消費を促進するかは、ふたを開けてみないと分からない。

政府が小売店などに資金援助

連邦政府は、小売店、飲食店、ホテルなどコロナ危機で売上高が大幅に減った事業所に対し、3カ月につき最高15万ユーロ(1800万円)まで固定費用をカバーする。例えば売上高が70%減った企業には、国がコストを80%まで支払う。メルケル政権は、この「つなぎ援助金」のために250億ユーロ(3兆円)を投じるという。さらに、子ども1人につき300ユーロ(3万6000円)の「家族ボーナス」を出して、市民の消費意欲を高める。その総額は43億ユーロ(5160億円)に上る。

小売店や企業の売上が激減し、地方自治体の営業税収入も減っている。このため連邦政府は、地方自治体の営業税収入を最大59億ユーロ(7080億円)補填。また地方自治体は、長期失業者に給付金「ハルツIV」だけではなく、家賃も支払っているが、連邦政府は40億ユーロ(4800億円)を投じて、長期失業者の家賃を肩代わりし、地方自治体の負担を軽減する。

自動車補助金で気候保護に配慮

ドイツの物づくり業界の屋台骨である自動車産業は、コロナ危機で車への需要が激減したために苦境に陥っている。そこでメルケル政権は、自動車メーカーの支援にも乗り出した。

大連立政権のうち、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は全ての車種に補助金を出すべきだとしていた。これに対し、連立パートナーの社会民主党(SPD)は、「温室効果ガスの削減努力をしている時に、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンを積んだ車にも補助金を出すのはおかしい」と反対した。

その結果、メルケル政権は内燃機関を持つ車には新車購入補助金を出さず、電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド車を買う市民だけに補助金(6000ユーロ=72万円)を出すことを決めた。つまりドイツ人たちは、コロナ対策においても、温室効果ガスの削減を重視したのだ。この支援措置には22億ユーロ(2640億円)の予算が投じられる。

心理的効果でコロナ・デフレ防止を狙う

ドイツでは、今年1月から再生可能エネルギー賦課金や、電力の送料である託送料金の増加により、電力料金が上昇傾向にある。

メルケル政権は市民の負担を軽減するために、賦課金の上昇を防ぐ措置に踏み切った。現在、再生可能エネルギー賦課金は電力1キロワット時当たり6.8セントだが、政府の補助によって2021年は6.5セント、2022年は6セントを超えないようにする。連邦政府はこの措置のために11億ユーロ(1320億円)を投じる。賦課金を廃止しないのは、電力消費量に再生可能エネルギーが占める比率を2030年までに65%にするという目標を達成しなくてはならないからだ。

今回の景気パッケージには57項目の対策が列記されているが、そのうち半分近く(24項目)はエネルギー転換や気候温暖化対策に関するものだ。項目の数を増やすためか、水素エネルギーの拡大や住宅の暖房効率強化など、過去に発表されていた施策も混ざっており、本当に新しい政策は少ない。

しかし、メルケル首相は「Wumms」という大音響とともに景気対策を公表することで、人々の不安を減らし、コロナ不況と闘うための自信を与えようとしたのだろう。いわゆるコロナ・デフレの防止が先決なのだ。このパッケージが今年後半の成長率の低下にどの程度の歯止めをかけるか、注目される。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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