ジャパンダイジェスト

約90万人の市民が極右団体やAfDへの抗議デモ

多くのドイツ市民が、極右勢力や社会の右傾化に対抗するために立ち上がった。極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の党員も参加した会合で、外国人追放計画が協議されていたことが分かり、各地で多数の市民が抗議デモを繰り広げた。

1月21日、ベルリンの連邦議会議事堂前に集まったデモ参加者たち1月21日、ベルリンの連邦議会議事堂前に集まったデモ参加者たち

各地で数十万人がデモに参加

1月20日と21日、肌を刺す寒気のなか、「AfDを食い止めよう」、「全てのナチスは愚かだ」などと書いた手製のプラカードを持った市民たちが、ベルリン、ミュンヘン、ケルン、フランクフルト、ハンブルク、シュトゥットガルトなどで広場や道路を埋め尽くした。デモはドレスデン、マグデブルク、エアフルトなど旧東ドイツの街でも行われた。最も規模が大きかったのは、1月21日にベルリンのブランデンブルク門周辺で開かれた抗議集会で、警察発表によると10万人が参加。主催者は「35万人が集まった」と述べている。

連邦内務省の1月22日の発表によると、この2日間にデモに参加した市民の数は、91万600人に上る。その理由は、AfDの支持率が高まったり、反ユダヤ主義の動きが強まったりするなど、社会の右傾化傾向が強まっているからだ。デモ参加者からは、「今の雰囲気は、1930年代にナチスが権力を掌握する直前の雰囲気に似ている」という声すら聞かれた。

極右勢力の「外国人追放計画」

多くの市民の危機感を高め、抗議デモに駆り立てたのは、調査報道センター「コレクティーフ」が1月10日に公表したスクープ記事である。コレクティーフによると、昨年10月25日に、ポツダムのホテルで極右勢力の関係者らが、秘密会合を開いた。主催者は、デュッセルドルフの歯科医ゲルノ・メーリヒ。彼は1970年代に「国家に忠実な青年の同盟」という極右組織の指導者を務めたことがある。

特に問題とされているのは、極右勢力「アイデンティタリアン運動」に属するオーストリアのマルティン・ゼルナーが行った講演である。ゼルナーは、ドイツの文化や伝統を守るために、新しい法律を制定することによって、亡命申請者など数百万人の外国人を国外へ追放する「マスタープラン」について説明した。

ゼルナーは追放すべきグループとして、「亡命申請者」、「ドイツにとどまる権利を持っている外国人」と「ドイツに帰化したが、社会に適応しようとしない、元外国人」を挙げた。つまりドイツに帰化した外国人をも追放するべきだと主張したのだ。ゼルナーは、これらの外国人の行き先として、「北アフリカの国」を提案し、「この国ならば、200万人の外国人を送り込める」と語った。コレクティーフは、「ドイツ国籍を持つ者を肌の色や出身地で差別し、一部の市民を国外追放するという提案は、憲法違反だ」と批判している。

極右勢力が「Remigration」(逆移住)と呼ぶこの提案について、聴衆の間から抗議の声は上がらなかった。ある参加者の「どのように実行するのか」という質問に対し、ゼルナーは「新しい法律によって、追放するべき外国人、元外国人たちに社会に適応するよう圧力をかければよい。逆移住は、短期間では実現できないので、10年単位の時間をかけて行うべきだ」と語った。

この提案は、1940年にナチスがユダヤ人をマダガスカルに強制移住させようとした計画に似ている。ナチスはこれを実現できなかったため、約600万人のユダヤ人を強制収容所に送り込むなどして虐殺した。

コレクティーフによると、会議にはAfDのアリス・ヴァイデル共同党首の腹心・アドバイザーであるロラント・ハルトヴィヒなど、複数のAfD党員が参加していた。ザクセン=アンハルト州議会でAfD議員団を率いるウルリヒ・ジークムントもその場にいた。さらには、キリスト教民主同盟(CDU)の右派勢力「価値同盟」のメンバーであるジモーネ・バウムも参加。AfD党員らは、「私は個人として参加した。党を代表しての発言は一切行っていない」と弁解している。

与野党を問わず抗議デモを称賛

多くのドイツ市民はこの会合に複数のAfDの党員が参加していたことを知って、同党の危険さを理解し、抗議デモに参加した。オーラフ・ショルツ首相は1月20日にビデオ演説を公表し、「極右勢力は、われわれの民主社会の分断と攻撃を試みている。ドイツには約2000万人の外国人またはドイツに帰化した外国人が住んでいる。われわれは、彼らを守るために、社会の連帯を強め、極右勢力に対してはっきり『ノー』と言わなくてはならない」と国民に呼びかけた。首相は、外国人に対して「あなたたちは、ドイツに属している。われわれはあなたたちを必要としている」と強調した。

野党CDUのフリードリヒ・メルツ党首も、「この抗議デモは、ドイツの民主主義が活力を持っている証拠だ」と述べ、抗議行動に参加した市民たちを讃えた。彼は「AfDには、正真正銘の国家社会主義者(ナチス)もいる。しかしAfDに票を投じる市民が全員ナチスであるというわけではない。AfDは、現政権への市民の不満を悪用して、自党への支持率を増やしているのだ」と指摘。メルツ氏は、AfDを「事実上のナチス党」と呼んだノルトライン=ヴェストファーレン州のヘンドリク・ヴュスト首相とは一線を画した。

アレンスバッハ人口動態研究所が昨年12月前半に行った世論調査によると、AfDへの支持率は18%と、CDU・CSU(34%)に次いで第2位。9月にザクセン州など3州で行われる州議会選挙では、AfDが勝つ可能性が指摘されている。抗議デモの高まりが、AfDへの支持率にどう影響を与えるかが、注目される。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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