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ロンドンのゲストハウス
Do. 14. Nov. 2019

先鋭化する亡命申請者問題

ドイツは、日本とは比べられないほど、様々な民族と文化が共存している社会だ。

移民国家ドイツ

朝の通学時間帯のバスには、トルコ系、アフリカ系、インド系、アジア系……様々な民族の子どもたちが乗ってくるが、皆、流暢なドイツ語を話している。この国に移住してきた外国人の子どもたちだからだ。ドイツが移民国家であることは、もはや否定できない事実である。この国が、米国のような「民族のサラダボウル」に近づいていくことは確実だ。

日本と同じように高齢化・少子化が急速に進んでいるドイツでは、将来的に働き手が不足する。このためドイツ連邦政府は、社会保障制度に依存せず、自分の力で生活できる外国人の移民や帰化を奨励している。特に、IT分野などでドイツが必要とする技能を持った外国人は、通常よりも簡素化された手続きで、滞在許可や労働許可を取ることができる。

急増する亡命申請

だがドイツ市民の間には、「ドイツ社会に溶け込まない外国人が増えると、ドイツがドイツでなくなってしまう」と不安を抱く人々がいる。その不安感は、ドイツ語のÜberfremdung(外国人が増えることなどによって、自分の祖国が外国であるかのように、よそよそしいものになること)という言葉に象徴される。

一部の人々の不安や不満を掻き立てているのが、ドイツへの亡命申請者の増加だ。ドイツ連邦移住・難民局(BAMF)によると、2014年にドイツに亡命を申請した人の数は約20万3000人。前年に比べて約60%も増えた。亡命申請者のうち、26%に当たる約3万3000人が、ジュネーブ難民協定に基づきドイツへの亡命を認められ、亡命申請の33%は却下されている。

亡命申請者数の増加の原因は、シリアでの内戦が激化していることだ。今年1月には2万5000人がドイツで亡命を申請したが、そのうちシリア人が約25%で最も多かった。これまでドイツは、約6万5000人のシリア難民を受け入れている。さらに、コソボやアルバニア、セルビア、アフガニスタンからの難民も多い。中でもコソボでは、「ドイツへ行くと、誰でも住む所と滞在許可をもらえる」という根も葉もない噂が広がっているため、亡命申請者が増えているのだ。

シリアやトルコ、コソボには、出国希望者からお金を取って、ドイツへ輸送する「運び屋」がいる。彼らは、ドイツが豊かな国である上に、亡命申請者の受け入れについて比較的寛容であることを知っている。シリアからの難民は船でイタリアへ着いても、そこで亡命を申請せず、バスでドイツへ行ってから申請するのだ。ドイツの地方自治体は、スポーツ競技場や使われなくなった兵舎などに亡命申請者を住まわせているが、食事代や暖房費などの負担が重く圧し掛かり、連邦政府や欧州連合(EU)に資金援助を要請している。

中には「経済難民」も

ドイツは「戦争や政治的迫害から逃れてきた難民は原則として受け入れるが、イタリアなど、ほかのEU諸国に到着した難民は、そこで亡命を申請するべきだ」と主張している。欧州にはダブリン合意という原則があり、難民は危険な地域を脱出して到着した最初の国で亡命を申請する決まりになっている。また、政治的迫害を受けていないのに、生活保護など社会保障サービスだけを求めてドイツにやって来た「経済難民」は、強制送還する。だが、実際には強制送還には人道的な見地から問題点が多いため、亡命を申請する資格がないと判断されても、すぐに強制送還されるわけではない。 BAMFでは、中東やアフリカの政治的混乱が続いていることから、今年の亡命申請者数が30万人に達すると予想している。これまで最も亡命申請者数が多かった年は鉄のカーテン崩壊直後の1992年で、43万8000人に達した。その大半は、東欧からのシンティ・ロマ(いわゆるジプシー)だった。当時ドイツでは、極右勢力が亡命申請者の増加を理由に、外国人に暴力をふるう事件が多発した。92年に極右勢力が引き起こした暴力事件は90年に比べて8倍も増加し、2285件になった。この年、外国人17人が暴行の末に殺された。特に旧東独のロストックでは、極右勢力が亡命申請者の住宅に放火、投石し、周辺の住民が喝采を送る模様がテレビで放映された。

92年11月には、旧西独のメルンで極右の若者がトルコ人家族が住む家に放火し、女性と子ども3人が焼死。93年6月にも旧西独のゾーリンゲンで、極右思想を持つドイツ人が民家に火をつけ、トルコ人の女性と子ども5人を殺害した。

反人種差別運動のプラカード
2014年11月24日ミュンヘン、反人種差別運動のプラカード「違法な人間はいない」

PEGIDAへの共感は残っている

旧東独では、亡命申請者の流入規制を求めるポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への人気が高まりつつある。ドレスデンでは、昨年秋に「欧州のイスラム化に反対する愛国的な欧州人(PEGIDA)」という市民団体が結成され、デモ参加者の数は一時2万人にも達した。政府が難民問題の舵取りを上手く行わないと、有権者が右派ポピュリストに流れる危険もある。ドイツ政府は、「亡命資格のある難民は温かく迎える」ことを基本原則としている。だが、PEGIDAに対する潜在的な共感が、一部の市民の心に残っていることも否定できない。

 今後、ドイツ社会で外国人を見る目がどう変わっていくか、我々は注視していく必要がある。

6 März 2015 Nr.997

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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