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写真家・杉本博司氏インタビュー

©Hiroshi Sugimoto
Mathematical form
Privatsammlung
©Hiroshi Sugimoto

杉本博司の写真を前にして抱くのは、「怖い」という感覚だ。写っている対象が恐ろしいという意味ではない。見る者に匕首(あいくち)を突きつけるような迫力があるのである。被写体が意味するものを抽出するため長時間思考し、生まれたコンセプトを純化し、それを一分のスキもない簡潔なモノクロームの表現に託して放つ。哲学的内省と完璧な手仕事が一体となった杉本氏の写真は、作品と鑑賞者を抜き差しならない関係に追い込む力をみなぎらせている。

世界中の海を太古の人間のまなざしに戻って見つめた作品「Seascapes」にせよ、時間帯による影の現れ方の違いを考察した「Colors of Shadow」にせよ、杉本作品に通底するのは時間と人間存在の意味にとことん迫ろうとする作家としての姿勢だ。事実、杉本氏にとって写真を撮ることは、「我々がどこから来たのか、いかに存在するに至ったのかを思い起こすための作業」なのだと言う。

©Hiroshi Sugimoto
The electric Chair, 1994
©Hiroshi Sugimoto

ニューヨークと東京を拠点とした30年以上の活動を経て、現代屈指の写真芸術家として世界的な評価を確立した杉本博司。2005年の東京・森美術館での回顧展に続き、ドイツ語圏で過去最大規模の回顧展をNRW州立美術館K20が企画、7月14日から展覧会「Hiroshi Sugimoto」がスタートした。オープニングに際してデュッセルドルフを訪れた杉本氏に話を聞いた。(田中聖香)


杉本博司杉本博司(すぎもと・ひろし)
1948年東京生まれ。立教大学経済学部卒業。1970年米国に渡り、ロサンゼルスのArt Center College of Designで写真を学ぶ。1974年 ニューヨークに移住。2000年グッゲンハイム美術館(NY)、04年カルティエ現代美術財団(パリ)、05年森美術館(東京)など個展多数。

── 杉本さんの作品は原則的にモノクロームですが、なぜでしょうか。

カラー写真は科学物質の色、モノクローム写真は銀の色です。貴金属とケミカルでは、格からいっても雲泥の差があります。

── 19世紀末に製造された旧式カメラを撮影に使われてきたのはなぜですか。

世の中は便利になる方向で動いていますが、必ずしもより高い質が得られる方向には動いていません。未だに生フィルムを使う大判写真機が作り出すプリントのクオリティーは、決してデジタルでは出せないことは私の作品が証明しています。一般にはデジタル写真が主流になりつつありますが、私の使う機材は今後も変わりません。


Polar Bear, 1976 Privatsammlung
©Hiroshi Sugimoto

── モチーフはどのように決定されますか。また1シリーズの制作にかける時間は。

10年以上考え続けているテーマがたくさんあります。そのうちの1つ、2つと卵がかえるようにコンセプトが実現するのです。そのための秘密裏の実験が今も続けられています。シリーズ制作には必要かつ十分な時間をかけ、一度始めると飽きるまでやります。しかし、実際にはどのシリーズも飽きたためしがありません。

── 杉本さんの作品には、東洋的美学とミニマリズムが混在していると評されます。ご自分ではそれを意識されますか。

批評というものは自由であるべきです。そして批評は作家についてのファンタジーを生みます。私は、せっかくのファンタジーを大切にするようにしています。つまり、作られつつある虚像に自分をなるべく合わせていく。これが世界に対する作家のサービスです。

── 写真から建築、彫刻へと表現の幅を広げるに至った背景を教えてください。

世界の有名建築といわれる建築をほぼ見尽くした後に、建築的に自分で成すべきことが見えて来たという経緯があります。また彫刻に関しては、19世紀の数理模型を撮影中に、これらの数式を現代最高の工作技術を持つ日本で作ったらどうなるか、という実験が形になりました。したがって、これらの作品を彫刻ではなく数理模型と呼んでいます。K20に展示される「Onduloid」も、この形が表す数式の名称です(筆者注:ゼロでない平均曲率の一定な回転面のこと)。

©Hiroshi Sugimoto
左)Emperor Hirohito, 1999 Sammlung Diego Cortez, New York ©Hiroshi Sugimoto 
右)Lightning Fields008, 2006 ©Hiroshi Sugimoto


「Hiroshi Sugimoto」
2008年1月6日(日)まで
10:00-18:00(土日祝11:00-18:00)※月曜休館
6,5ユーロ(割引4,5ユーロ)
K20 Kunstsammlung, Grabbeplatz 5, 40213 Düsseldorf
www.kunstsammlung.de

 
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