冬のベルリンで味わう静寂と文化
1月のベルリンは観光客が少なく静寂に包まれている。喧騒から離れ、芸術や音楽、ビール文化にじっくり浸れる季節だ。寒さは厳しいが、室内での文化的な時間が心を温めてくれるだろう。
そんな冬のベルリンで訪れたいのが、プレンツラウアー・ベルク地区にあるクルトゥアブラウエライ(Kulturbrauerei)。六つの中庭と20棟以上の建物から成る赤レンガの産業建築群だ。もともと19世紀後半に建てられたシュルトハイス醸造所の跡地で、ベルリンを代表するピルスナー「シュルトハイス」(Schultheiss)がこの地で生まれた。
シュルトハイスは1842年に薬剤師アウグスト・プレルが創業し、後に商人ヨプスト・シュルトハイスが買収してその名を冠した。20世紀初頭には世界有数のラガービール醸造所へと発展し、世界大戦や東西分断を経て、大手グループの一員となりブランドを維持。現在でも「ベルリンの味」として市民に愛され続けている。
この場所での醸造は1960年代後半に終了したが、建物は保存され文化複合施設として再生。現在は映画館やライブハウス、レストラン、カフェ、ギャラリーなどが集まり、多彩な文化が息づいている。なかでも「ムゼウム・イン・デア・クルトゥアブラウエライ」の旧東ドイツの暮らしをテーマにした無料の常設展示「東ドイツの日常生活」(Alltag in der DDR)は一見の価値あり。社会主義時代の家庭や学校、職場の様子が実物資料で再現されており、冷戦下のベルリンをリアルに感じられる。
日が暮れると建物全体がライトアップされ、幻想的な雰囲気に。ライブハウスからの音楽やレストランのにぎわいも加わり、昼間とはまた違う表情を見せる。ここではもちろん、当地で生まれた「シュルトハイス」を味わいたい。鼻腔をくすぐる麦芽の風味と、舌の上に長く残るホップの苦みの余韻が心地良く、寒い季節でもあっという間にグラスが空になる。
vol.108
Schultheiss Pilsener




インベスト・イン・ババリア
スケッチブック

コウゴ アヤコ
1978 年東京生まれ。看護師を経て、旅するビアジャーナリストに転身。旅とビールを組み合わせた「旅ール」(タビール)をライフワークに、世界各国の醸造所や酒場を旅する。ドイツビールにほれこみ1 年半ドイツで生活したことも。「ビール王国」(ワイン王国)、「ビールの図鑑」(マイナビ)、「BRUTUS」(マガジンハウス)など、さまざまなメディアで活躍中。






