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ビオワインの世界 3 ビオワイン小史

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ドイツのワイン生産地の中で、いち早くビオ農法を試みたのがラインヘッセン地方です。第63回の「醸造所ナビ」でご紹介したシュテファン・ザンダーの祖父オットーハインリヒ・ザンダーが1955年にぶどう畑を緑化し、化学肥料と化学農薬の使用をやめたのですが、通常この年をドイツワインの「ビオ元年」と言います。まだ「ビオ」という概念が知られていなかった時代のことでした。

とは言え、産業化の波に抵抗した初のビオ農法は、1924年に人智学の祖ルドルフ・シュタイナー(オーストリア出身)によってすでに提唱されていました。彼がコーベルヴィッツ(現在のポーランド)で開講した「農業講座」が、今日に受け継がれるビオディナミ農法の基本となっており、ワインにも応用されています。

1927年にはシュタイナーの農法を実践する国際組織が結成され、1928年に「デメター(Demeter)」の名称でスタート。1930年にはドイツでも実践され始めました。その後、1941年にナチスがデメターの活動を禁じましたが、戦後すぐに活動を再開しています。

ワイン造りにおいてビオディナミ農法を実践している著名な先駆者は、オーストリア・ヴァッハウ地方ニコライホーフ醸造所のザース家(1971年より)、フランス・ロワール地方クレ・ド・セラン醸造所のニコラ・ジョリ(1980年頃より)です。ドイツでは、1990年代に入ってから徐々にこの農法が知られるようになりました。

時代が前後しますが、ドイツ最古のビオ生産者団体は1971年設立のビオラント(Bioland)。翌1972年には国際有機農業運動連盟(IFOAM/アイフォーム)という国際組織がフランスで発足します。また、1982年には別のビオ生産者団体ナトゥアラント(Naturland)が誕生します。ドイツにおいては、1980年代にビオ農法への意識が急速に高まります。それは緑の党(1979年発足)の新興と時期を同じくしています。

1983年には、ラインヘッセン地方でドイツ初のビオワイン生産者団体、レギオナーラー・エコ・フェライン(Regionaler Öko-Verein)が誕生しました。また、1985年にはエコヴィン(Ecovin)の前身である連邦エコロジカル・ワイン生産協会(Bundesverband Ökologischer Weinbau)が、やはりラインヘッセン地方で産声を上げます。エコヴィンの本格的な始動は1990年、そして1991年には欧州連合(EU)の規定が整います。

EUの規定は当初、ぶどう栽培に対するものだけで、エチケットに表示される場合は「ビオ栽培のぶどうから造られたワイン」と書かれていました。しかし、2012年産からは、すでにご紹介したように醸造段階における規定が整い、「ビオワイン」が公式にスタートしています。

飲み手にとって気になる酸化防止剤(スルフィット/Sulfit)の量は、通常のワインよりもビオワインの方が少なく、EU基準よりもさらに添加量を抑えている醸造所もあります。

次回からは、ドイツを拠点とする代表的なビオ団体を順にご紹介しましょう。

 
Altmannswein
アルトマンズワイン(モーゼル地方)

アルトマンズワイン(モーゼル地方)
アルトマンズワインはフンスリュック山地で暮らす俳優のミヒャエル・アルトマン氏(70)とヘッダ夫人のワインブランド。2人は主にぶどう栽培に専念し、醸造はフリーの醸造家マーティン・ファイデン氏が全面的にサポートしている。ネーフに所有する畑は計1ヘクタール。栽培しているのはリースリング、シュペートブルグンダー、ドルンフェルダーの3品種。リースリングは樹齢約40年、赤品種はミヒャエルの弟ウルリヒの要望で10年前に植えたものだ。急斜面の畑ゆえ、近隣の畑と合同で行われる農薬の空中散布に頼らなければならないが、それ以外は徹底した自然派だ。20年前に畑を購入してからは、除草剤を投入していないので、春になると畑の大部分が野いちごで覆われる。野いちごは刈って放置することで均等に畑に広がり、土壌の浸食も防いでくれるという。「俳優は動きの多い仕事。だからこそ静寂が支配する畑で、1本1本のぶどうと対峙する時間が大切なんだ」とミヒャエル。ぶどう畑は2人にとって、安らぎの場所となっている。

Altmannswein
Michael & Hedda Altmann
Tel. 0151-52513295
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www.altmannswein.de


2012 Der Schoss Riesling
2012年 デア・ショース、リースリング 5.60€

ワインネーファー・フラウエンベルクは、夕方までしっかりと太陽の光が降り注ぐ南向き急斜面の畑。スレート岩および硬砂岩の風化土壌だ。「Der Schoss(「膝」「山の懐」の意)」は、勾配がやや緩やかなY字型の一角のリースリングから造られたもの。醸造は自発的醗酵に任せ、出来上がるワインの味わいも自然任せ。決して華やかではないが、繊細な果実の風味が徐々に立ち上る。ヴィンテージの特徴が活かされた優しい味わいだ。アルトマン夫妻は、フラウエンベルクの最も急勾配の畑からは「Steiler Süden(急斜面の南の畑)」、テラス状の畑からは「Rosengärtchen(バラの庭)」と、計3種類のリースリングをリリースしている。いずれも土壌の個性をしっかりと表現している魅力的なリースリングだ。

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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