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ビオワインの世界 9 ビオディナミ基礎講座 2

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前回お話ししたハーバー・ボッシュ法の発見以降、人間を取り巻く自然環境は大きく変わってしまいました。化学合成肥料の登場によって農作物の大量生産が可能になり、人口が増加したのです。また、過剰な肥料は農産物の成長を極度に促進し、植物細胞が肥大化したり、組織が軟弱になったり、カビ菌などが繁殖しやすくなりました。人工肥料は、雑草の生育も促します。そして雑草が過度に繁殖するようになると同時に、特定種の昆虫が大量発生するといった現象が起こり始めます。

こうした自然界の不均衡を解決するために登場したのが、除草剤や殺菌剤、そして殺虫剤といった化学農薬でした。第2次世界大戦後もなお、農家が避けて通れなかった化学肥料と化学農薬。現在の農業は、これら化学製品に依存するようになってしまいました。また、化学肥料と化学農薬は土壌に残留し、地下水、河川、海洋の水質が悪化していきました。こうして見ると、20世紀初頭の段階ですでに危機感を抱いていたシュタイナーの先見性には驚くばかりです。

さて、シュタイナーの『農業講座』以後、有志たちによってビオディナミ農業が少しずつ広まっていきましたが、ドイツでは1941年にナチスにより活動が禁じられてしまいます。シュタイナーの自由な思想が、一部のナチスの反感を招いたのです。しかし、ビオディナミ農法の実践は、戦後まもなく再開されます。

戦後、ビオディナミ農法の発展に寄与した人物に、マリア・トゥーン(1922~2012年)がいます。人智学者であり、ヴァルドルフ学校の美術教師でもあった夫ヴァルター・トゥーンの影響でシュタイナーの思想に親しんだ彼女は、農業家フランツ・ルルニ(1894~1981年)が製作した種蒔きカレンダーを参考に、植物の成長と天体の運行の関係を研究します。彼女が約10年の年月を掛けて突き止めたのは、月の満ち欠けと種蒔きの時期、そして植物の成長の度合いには関連性があるということでした。そして1963年に、ラディッシュ、じゃがいも、玉ねぎなどの「根や茎」を食する植物、キャベツやハーブなどの「葉」の植物、豆類、とうもろこし、トマト、きゅうり、カボチャなどの「実」を食する植物、アブラナやひまわりなど「花」の種の部分を利用する植物のそれぞれの種蒔き時期、ぶどうや果樹の剪定の時期など、ビオディナミ農法による作業のタイミングを助言するカレンダーを発行し始めます。このカレンダーは彼女の死後も、家族によって毎年発行され続けています。

人類が1万年近く掛けて発見した農業の神秘、すなわち「農耕と牧畜の結婚」は、20世紀初頭にそのバランスを崩され、現在に至っています。シュタイナーの思想はドグマティックであると誤解されることがありますが、それは長年の人類の知恵の蓄積とゲーテの自然観から発展したものであり、世の中で起こっている事柄を理性的に、冷静に見つめた人間の率直な思考です。1980年代から着実に広まっているビオ農業も、化学肥料と化学農薬、そして遺伝子組み換え法から脱却しようとする理性的な試みなのです。

次回は、ビオディナミ農法の作業について具体的に紹介しましょう。

 
Weingut Pflüger
プリューガー醸造所(プファルツ地方)

アレクサンダー・プリューガー
プファルツ地方の期待の新人、
アレクサンダー・プリューガー

バート・デュルクハイムの家族経営の醸造所。現オーナー、アレクサンダー・プリューガーはドイツのほか、ブルゴーニュ、南フランス、南アフリカなどで経験を積み、実家の醸造所で働き始めた。父ベルントが1990年にビオ栽培を始めており、アレクサンダーは2008年にビオディナミ農法に移行。10年に醸造所を継いだ。エチケットに描かれている、馬を使い、畑を耕す人のシルエットが象徴するように、現場でも馬を使って畑作業を行っている。栽培品種の3分の1はリースリング。石灰岩と泥灰岩が混在するデュルクハイムのミッヒェルスベルクと、鉱物質土壌のウングシュタインのヘレンベルクから、畑の個性が活かされたリースリングを生み出しているほか、砂岩と石灰岩で構成されるデュルクハイムのフローンホーフではシュペートブルグンダーを栽培している。ブルグンダー種のほかにも、レンベルガーやシュヴァルツリースリング、ザンクト・ラウレント、メルローなど多彩な赤ワイン品種を生産。 エコヴィン、デメター両団体の会員。VDP準会員でもある。

Weingut Pflüger
Gutleutstr. 48, 67098 Bad Dürkheim
Tel. 06322-63148
www.pflueger-wein.de


2012 Blanc de Noir trocken
2012年 ブラン・ド・ノワール(辛口)7.00€
(2012年産は完売。2013年産は2014年2月より発売)

ワイン「唯一無二の土壌を持つ畑とぶどうの力を活かしたワイン造りをしたい」と語るアレクサンダー。ビオディナミに転換してからは、ぶどうが極端な乾燥、長雨や雹ひょうなどのストレスにも耐えられるようになってきているという。また、味わいのバランスも良くなっており、個性が際立つ、長期保存が可能なワインに仕上がるとのこと。毎年、あっという間に売り切れてしまう人気のブラン・ド・ノワールはシュペートブルグンダー70%、シュヴァルツリースリング(ピノ・ムニエ)25%、メルロー5%のブレンド。抑制された赤い果実の香り、しっかりした体躯が特徴。年間を通じて食卓を彩ってくれるワイン。

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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