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Fr. 24. Jun. 2022

ウクライナ危機にNATO・ドイツはどう応える?

プーチン大統領は昨年秋以来、ウクライナ国境付近に約10万人の兵力を集結させ、米国と北大西洋条約機構(NATO)に対し、冷戦終結後の欧州の秩序に変更を加えるよう迫っている。ドイツなど西欧諸国の安全保障体制をも揺るがす事態だ。

1月9日、ウクライナのキエフにてプーチン大統領の政策に抗議する市民たち1月9日、ウクライナのキエフにてプーチン大統領の政策に抗議する市民たち

10万人の兵力が国境に集結

1月10日、ウクライナ危機をめぐって米ロ代表がジュネーブで最初の会議を開いた。ロシアのリャブコフ副外相は「われわれがウクライナに侵攻するというのは、フェイクニュースだ。わが国にはそのような意図は毛頭ない。ロシア軍は軍事演習を行っているだけだ」と述べ、西側の懸念を打ち消そうとした。これに対し米国のシャーマン国務副長官は「10万人の部隊を動員して、ウクライナ国境の近くで演習を行う必要はない。早く部隊を撤退させるべきだ」と反論した。

昨年11月米国のメディアは、「政府の安全保障担当者が部内の会議で『ロシアは2022年初頭にウクライナに侵攻するための準備を整えている』という見解を表明した」と伝えている。

NATOの東方拡大禁止を求めるロシア

昨年12月に、プーチン大統領の意図が明らかになった。同氏は米国とNATOに対して新しい条約の草案を送りつけ、「ウクライナをNATOに加盟させないことを条約によって約束しろ」と迫ったのだ。ロシアは2014年にウクライナの領土だったクリミア半島に戦闘部隊を送り、併合した。さらにウクライナ東部で起きている内戦では、ロシアはウクライナからの独立を求める勢力を支援している。

ウクライナはNATOへの加盟を希望している。NATOは2008年の首脳会議で、ウクライナに対し「加盟の可能性」を示唆したが、かつてソ連に属していた国をNATOに受け入れることはロシアを刺激するとして加盟を認めていない。リャブコフ副外相は、「NATOは2008年にウクライナに対して示した加盟の可能性を撤回するべきだ」と迫っている。

しかもプーチン大統領は「NATO・米国は、これ以上東側に拡大しないこと、もしくは加盟国の数を増やさないことを約束せよ」と主張。さらに、かつてソ連に属していた国に基地を置いたり、軍事的に協力したりしないよう求めている。またロシアは条約草案の中で「NATOとロシアは、自国領土内を除いて、互いに脅威を感じさせるような行動をやめるべきだ」としている。これは、ロシアがウクライナ国境付近で軍事演習を行えるのに対し、NATOにはバルト三国やウクライナでの演習を禁止する「不平等条約」である。

米国とNATOは、「プーチン大統領の提案には、受け入れがたい部分が多い」としている。例えばウクライナがNATOに加盟するかどうかは、同国とNATOが決めることであり、ロシアが口出しする問題ではないという意見が有力だ。このため西側では、「ロシアの本当の狙いは、無理な要求を突き付けることで協議を決裂させ、ウクライナに侵攻する口実を作ろうとしているのではないか」という懸念も高まっている。実際プーチン大統領は、「米国とNATOがロシアの要求を拒否するならば、私は軍人たちのアドバイスに耳を傾けるだけだ」と不穏な発言をした。

ドイツの安全保障にも大きな影響

NATO加盟国ドイツにとっても、プーチン氏の「挑戦状」は重要な意味をもつ。ドイツは英仏とは異なり自国の核兵器を持っていないが、米国の核兵器がドイツ領内に配備されている。米軍はドイツのほか、トルコ、イタリア、オランダとベルギーに自国の核兵器を配備している。

ロシアとの間で戦争が始まった場合、ドイツ政府はラインラント=プファルツ州のビュッヘル空軍基地に保管されている米国の核爆弾を、連邦軍の戦闘機に搭載して出撃させる。これはドイツ語で「nukleareTeilhabe」(核兵器を使った協力)と呼ばれ、NATOの核抑止戦略の中で重要な要素の一つだ。だがプーチン大統領は米国に対して、「これらの国々に配備している核兵器を撤去せよ」と要求。つまりNATOの核兵器は現在よりも大幅に減って、ロシアに対する抑止力は弱まる。

ショルツ政権は、連立契約書の中でNATO・米国との結束を維持する方針を明らかにした。「nukleareTeilhabe」についても原則として継続する方針だ。ただし、核爆弾を搭載するドイツのトルナード型戦闘機が老朽化しているため、ショルツ政権は連立契約書の中で、戦闘機を更新する必要性について言及している。

ショルツ首相は、マクロン大統領と共にロシアとの対話を深めることによって、ウクライナをめぐる緊張を緩和したいと発言。これに対してベアボック外相は、「ロシアはウクライナに侵攻した場合、高い代償を払うことになる」と警告し、ほかの欧州連合(EU)諸国と共に厳しい制裁措置を実施する可能性を示唆している。

西側の意表を突いた2014年のクリミア併合のときとは異なり、今世界中の目がウクライナ国境に注がれている。このため、プーチン大統領にとって奇襲効果は小さい。だがロシアは実際に戦車を投入しなくても、西側に打撃を与えることができる。同国が大規模なサーバー攻撃を行い、ウクライナや西側諸国の電力、暖房、水道、通信などインフラを麻ひさせる可能性がある。米ロ間の主張の隔たりは大きく、短期的な成果は望めないだろう。2022年が動乱の年とならないことを祈る。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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