Hanacell

日本人作曲家のオペラ、ハンブルクで世界初演

震災後の福島を題材としたオペラ「Stilles Meer(海、静かな海)」が1月24日、ハンブルク州立オペラ座で世界初演されました。この作品は、同オペラ座の委嘱によるもので、劇作家の平田オリザ氏による脚本(日本語)をドイツ語に翻訳し、作曲家の細川俊夫氏が作曲を担当しました。平田氏は、本作品の演出も手掛けています。

物語は、津波で夫と息子を亡くしたドイツ人女性とその周りの人々を描いています。彼女は愛する者の死を現実のものとして受け入れることができず、さまよっているのです。夫の姉や、元恋人がドイツに戻ることを勧めても、震災のあった海辺から離れることができません。舞台には橋がかかっており、現実と虚構、この世とあの世、和と洋という対比する世界が、常に行きつ戻りつしながら描かれていて、大変興味深かったです。

出演者たち
指揮のケント・ナガノ氏とともに拍手を受ける出演者たち

細川氏は、ドイツで10年間作曲を学んだ際に、逆に日本文化に目が開かれたと言います。今回のオペラも、西洋音楽の手法、西洋楽器を用いながら、日本の伝統芸能である“能”のような歌いまわしや和楽器のような演奏法が用いられていました。弦楽の細かいトレモロによる和音は、笙(しょう)の音に聞こえましたし、フルートの鋭い音色は、龍笛(りゅうてき)のように聞こえましたから不思議です。

冒頭の打楽器の連打は地震による地鳴り、トロンボーンやチューバによる、音のない息だけの奏法は、風の音を表現していました。また、水滴がポチャン、ポチャンと落ちる音がマイクで増幅されて響き、作品タイトルの「静かな海」をほうふつとさせました。

彼の音楽の主要テーマは、「自然との調和」だそうですが、見事にそれが表現されていたと思います。逆に作中には無機物の代表であるロボットが登場し、「今から危険区域に入ります」と、放射線防護服を着た人々を先導して行くことにより、自然が破壊され、生命の通わなくなった地域の姿も描写されていました。

ラウンジに集まった人々
上演前の解説講演のためラウンジに集まった人々。超満員でした

細川氏はインタビューの中で、「ただの『素敵な』オペラを作ることはできません。私たちは音楽を通じて、破壊的な災害を、そして秩序を見ることができるでしょう。魂の癒しのドラマが私のオペラのあるべき姿と考えています。」と語っています。現代音楽作品は、時々あまりにも前衛的過ぎることがあるのですが、「Stilles Meer」は緊張の中にも美しさがあり、ぜひもう一度観たいと思いました。これからハンブルクオペラ座のレパートリーとなることを期待しています。

井野さん井野 葉由美(いの はゆみ)
ハンブルグ日本語福音キリスト教会牧師。イエス・キリスト命。ほかに好きなものはオペラ、ダンス、少女漫画。ギャップが激しいかしら?

 
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