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Mo. 01. Mär. 2021

ドイツで活躍する日本人舞踏家たち

「舞踏」というと日本発祥で、不思議な踊りというイメージで、実際に見たことはありませんでした。先日ハノーファーで2回舞踏を見る機会があり、その独特の動きに惹きつけられました。

一つは、ベルリン在住舞踏家の関美奈子さんと吉岡由美子さんによる「ゼロ」。広島原爆投下から75年がモチーフとなっています。ゼロとは全てが無に帰った瞬間・場所であり、「空」、「無」でもあります。

「ゼロ」の関さん(左)と吉岡さん「ゼロ」の関さん(左)と吉岡さん

舞台は丸い縄に囲まれた場所で、2人が立っているところから始まりました。体が小刻みに震え、頭のてっぺんから何かがうごめくように足の先、指先まで伝わっていきます。体はしなやかで、何か別のものが内に宿っているよう。制御されていないようにも、制御され尽くしているようにも見えました。体から自発的に溢れるエネルギーが空間に蔓延していき、観客を圧倒します。2人が踊る背後には、映像が映し出されていました。それは赤かったり、黒かったり、時には顔だったり。赤いのは太陽のようにも爆弾のようにも見え、黒いのは黒い雨(原爆投下後に降った放射能を含んだ雨)に見えました。

舞踏は、観ている人が感じるままに理解するものであり、説明はしないそう。踊り手の体から出てくるエネルギーを感じるのが醍醐味なのです。吉岡さんは「舞踏は存在の踊り。世界には自分の存在だけでなく、全ての存在が均等にある。バクテリアやウイルスも宇宙の一部」と話します。関さんも「ほかの踊りと比べて違うのは、『表現する』でなくそれに『なる』ということ」と舞踏の特徴について語りました。

また別の日に、歌劇場で上演されたオペラ「トリスタンとイゾルテ」にも舞踏の要素が生かされていました。ゲッティンゲン在住の舞踏家である遠藤公義さんの振り付けで、遠藤さんとノラ・オッテさんが白塗りで舞台に登場します。悲劇の恋を描いた大作ですが、今回の公演は感染症対策のため3時間に短縮し、体が触れ合う場面は省かれていました。遠藤さんたちの不思議な動きはいわゆる西洋の踊りとは対照的で、新聞では「トリスタンとイゾルテの内面を表しているのではないか」と論評されました。遠藤さんは「舞踏が何を表しているかは、考える人に任せたい」とのこと。白は死を表すようにも見える一方で、オッテさんは「白は無垢を表す」と話します。また、遠藤さんは今回のコロナ禍について「好きなことをやっているというのが、1番大事なのではないか」と語りました。

歌劇「トリスタンとイゾルテ」の舞踏歌劇「トリスタンとイゾルテ」の舞踏

舞踏というのは体と心の全てを使って自己表現するものであり、人間本来が持つ力をむき出しにするような感じがします。コロナ禍の現在、社会における芸術の意義が議論されていますが、ドイツで活躍中の舞踏家3人のお話は、一つのことを極めている人ならではの真実の断片があちこちに光り、とても興味深いものでした。

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳・翻訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか』『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』、共著に『お手本の国」のウソ』(新潮新書)、『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)など。
 
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