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人生にセカンドチャンスを セラピー学校で卒業資格

ハノーファーに、依存症により学校を卒業できなかった人のための学校があります。セラピー学校(Therapieschule)といい、 大学入学資格は取れませんが、職業訓練学校に行く道が開けます。ドイツでは年間約6万人が義務教育の間に中退しており、そのうち2~3割は薬物やアルコール依存症であり、精神疾患や自閉症など複数の困難を抱えている人も少なくないそうです。ドイツは資格社会なので学校を卒業していなかったり、職業訓練を終えていなかったりすると、就職が難しくなる傾向があります。

アルベック校長(中央左)とリープヘア副校長(中央右)と職員たちアルベック校長(中央左)とリープヘア副校長(中央右)と職員たち

セラピー学校では学業だけでなく、精神的、社会的に成長できるようサポートします。生徒は16歳から40代までの約50人で、依存症をはじめうつや自閉症、発達障害のほか、貧困などの問題を同時に抱えている人も少なくありません。ひとくちに依存症といってもゲーム中毒やスマホ依存、薬物、アルコールなどさまざま。長く引きこもっていた人もいます。ハインツ・アルベック校長によると、「3分の1は発達障害、3分の1は精神的な問題も抱えている。いじめられた経験のある子も。いら立ちから暴力沙汰を起こして親が連れてくる例もある」とのこと。相手をリスペクトすることを教え、差別や人権侵害はよくないと分かってもらうことから始めます。

生徒たちの心の内を表した絵画生徒たちの心の内を表した絵画

心理学的な視点も取り入れ、ソーシャルワークやメンタル教育、芸術を使って心を癒す試みがなされています。ゲーム中毒防止や人工知能(AI)にまつわる知識、フェイクニュークについてなど、デジタルトレーニングやロールプレイなど多角的な授業を通して、社会の一員として自立できるよう導きます。ジルケ・リープヘア副校長は「この学校で初めて、誰かに気にかけてもらう経験をした子もいる」と言い、時間をかけて他人と信頼関係を築くことを学んでいくそうです。「自分が尊重されていると感じてもらうこと」に力点を置き、「いつも味方だよと伝え続けている」と話します。

教室にビリヤード台があるなど、学校は楽しい場所教室にビリヤード台があるなど、学校は楽しい場所

立ち直ったと思ってもまた逆戻りすることも、もちろんあります。すぐに薬物などを断つことができなくても、コントロールできるようにするのが肝要です。重症の場合は入院をすすめ、退院したらまた学校に戻って来る生徒もいます。校長は「依存症には社会的なスティグマがある。ここは競争社会から降りた子たちが、再出発する場所」といい、実際に「この学校に来たから人生が変わった」という卒業生も少なくないそう。息の長い仕事だけど、大変やりがいがあると職員たちは情熱を傾けています。このような学校は全国でも少ないそうですが、セカンドチャンスがあるのは社会にとっても本人にとっても有意義です。

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか(学芸出版社)』、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿(光文社新書)』、『夫婦別姓─家族と多様性の各国事情(筑摩書房)』など。
 
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