ミュンヘンといえば、クラシック音楽やバレエ、オペラなど、伝統的な芸術に触れる機会に恵まれている一方で、ベルリンなどと比較すると、新しく生まれてくる芸術に対してやや保守的な印象もあります。そんな私のイメージを一掃してくれたのが、ミュンヘン美術院(Akademie der Bildenden Künste München)で7月に行われた年次展(Jahresausstellung)と、そこで出会った若き日本人芸術家たちでした。
糸電話での友人同士の会話を観察した小林さらんさんの映像作品
ミュンヘン美術院は1808年にバイエルン王国のマクシミリアン1世によって設立された歴史ある芸術大学で、現在約700人の学生が在籍しています。ここで学ぶ日本人アーティストの一人、小林さらんさんは、日本で彫刻を学んだ後に渡欧し、現在は同美術院でコンテンポラリーアートを学びながら創作活動を行っています。彼女の糸電話を使った映像作品は、ふたりの友人が糸電話を介して会話する様子を観察するものでした。糸電話の細い糸を伝って相手に届く言葉。糸電話という構造上制約のある伝達手段だからこそ、相手への丁寧な言葉選びや話し方、会話の間合いなど、独特のやり取りが生まれました。この作品は、SNSやチャットなどのデジタルツールを通して簡単にやりとりができる現代社会において、人同士のコミュニケーションの在り方への問いのようにも見えました。
小林さらんさん https://sarankobayashi.myportfolio.com
今回の展示会で出会ったもう一人の日本人アーティストの木本大貴さん。無意識のうちに発せられる自身の寝言を録音したものを上映するとともに、自らもそれをセリフとして記憶し、パフォーマンスを披露しました。身体と精神、現実と夢、意識と無意識の間で生み出される言葉(寝言)は、一方で自らの痕跡でもあります。無意識に発せられた言葉を、あえて意識が覚醒した中で自らが再現することにより、そこで感じる意識や不協和などを表現しました。木本さんの作品や表現は、時間・身体・潜在意識など、日常生活では気に留めることのない部分を切り取り、フォーカスを当てることで、作品に触れる一人ひとりに考えさせる、とても興味深いものでした。
木本大貴さん www.daikikimoto.com
小林さんに、創作活動の目的を尋ねると「遅延証明書です」との興味深い答えが返ってきました。「私は社会のスピードよりはゆっくり歩んでいるかもしれない。立ち止まり見つめ、遅延理由の証明として作品を制作する。そして作品を通して、対象の価値を問う」と。とてもすてきな言葉でした。彼らの活動をこれからも応援したい、そんな清々しい気持ちにさせてくれた一日になりました。
駐在員として赴任したミュンヘンで、自然や文化、人々に魅了され、2019年に完全移住。「ミュンヘン山の会」のメンバーとして月に1~2度ハイキングを企画したり、山歩きの魅力やミュンヘンでの日常生活を発信したりしている。
Instagram:@yama.trip.music_kou



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