60歳を過ぎた頃から、少し暗い紺色と黒の靴下やズボンの見分けがつきにくくなった気がします。オーディオの黄色と白端子を間違えてしまうこともあります。加齢で色覚が低下することはあるのでしょうか?
Point
- 色覚の多様性への理解
- 後天性の色覚変化も多い
- 白内障は40代から、80代でほぼ100%
- 糖尿病網膜症も増加
- 色のユニバーサルデザインへの留意
- 白と黄、紺と黒の誤認識は注意
色の見える仕組み
私たちが見ている色(Farbe)
色は、網膜(Netzhaut)の視細胞(Fotorezeptorzelle)によって捉えられた光の波長をもとに、脳が作り出している感覚です。物体に当たった光が特定の波長を反射、それを網膜で電気信号に変え、脳(後頭葉)で統合し、色として認識します。
視細胞
視細胞は網膜上にあり、明るいときは「錐体」(Zapfen)が色を、暗い場所では「桿体」(Stäbchen)が明暗(Hell und Dunkel)を認識しています。L、M、Sの3種類の錐体は、それぞれ赤、緑、青色の光波長に対応しています。哺乳類の祖先は夜行性であったとされ、ヒトでも暗所に適した桿体が約1億5千万個あり(視細胞の約95%)、錐体は約700万個しかありません。
視物質の役割
視物質は視細胞に含まれるビタミンA誘導体とタンパク(オプシン)の複合体で、目に入った光を感知して電気信号に変える働きをしています。ビタミンAが不足すると、桿体のロドプシン合成がうまくいかなくなり、暗い場所で視力が低下しやすくなります。
生まれた時からの色覚特性
錐体機能の違い
人によって錐体の数、錐体の機能の特性には個人差があります。また特定の錐体がない(例えばM錐体)、錐体があってもほかの錐体と性質が似ていることもあります。その場合、異なる色が似たような色に見えていることになります。
色覚特性の頻度
色覚検査表を用いて行う色覚検査(後述)によって、日本人男性の約5%に色覚に特性があり、女性の0.2%、残りの人の色覚は「正常」とされています。この数値は過去に学校で実施された色覚検診および臨床統計の累積結果に基づくものです(1959年、1969年、1997年の日眼会誌)。
ヒトの色覚の多様性
色覚検査で「正常」とされる人の中にもハイブリッド遺伝子を有し、全く「正常」ではない、中間に位置する人が約25%存在するという報告があります(1999年のVision誌)。そのため、前項の色覚に特性のある人を含め、日本人男性の約30%は程度の差こそあれ、ほかの約70%と異なる色覚を有している可能性も推測されています(2002年の細胞工学誌「色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション」)。
後天的な色覚異常
加齢に伴う色覚低下
加齢とともに色覚が変化してくる場合があります。特に白内障は、早い人で40代から始まり、80代までにはほぼ全ての人(約100%)の色覚が影響を受けるとされています(長寿科学振興財団)。
白内障によるもの
白内障(Katarakt)があると、黄色く変色した水晶体では青い光が網膜に届きにくくなり、薄い黄茶色サングラスを掛けたように世界が黄色、茶色、赤みがかって見えるようになります(前記2002年の細胞工学誌)。
視神経の病気
視神経炎、薬物(抗結核薬のエタンブロール)の影響などで後天的に色覚(主に赤緑色覚)の低下を生じることがあります。若年性家族性視神経萎縮はミトコンドリアDNAの変異によるもので、多くは若年男性に発症し、視力低下、青黄色覚低下を呈します。
網膜病変によるもの
糖尿病によって発症する糖尿病網膜症(diabetischeRetinopathie)、網膜色素変性症、中心性しょう液性網膜症などでは、網膜上の錐体が障害(特に数の少ない青系)や黄斑部の浮腫により、青〜黄色の色覚が低下します。黄色と白色の区別が難しくなります。
緑内障によるもの
緑内障(Glaukom)では、眼圧の上昇により、大きい視神経細胞(青系)が影響を受け、青黄色覚が低下します。さらに進行すると赤緑色盲も加わり、最終的に全色盲となることがあります。
脳梗塞によるもの
視覚領域を司る後頭葉に脳梗塞を生じると、見えているもの全てがモノクロになってしまうことがあります。脳梗塞発症に伴い、急激に見ている世界がモノクロになるといわれています。
心的要因の関与
大きな心因性ストレスが加わった際にも、視力障害や視力低下、色覚の変化を生じることがあります。子どもに多く、学校や家庭生活でのストレスが原因と考えられます。色彩検査の結果が典型的な分類に当てはまらない場合、心的要因が疑われます。
検査法と試み
色覚の検査法
「色覚検査表」(石原表、Ishihara-Farbtafel)は明度や彩度を巧妙に変えた多数の丸い色斑の背景に描かれた数字や文字を読む検査で、色覚異常のスクリーニングに用いられます。色を順番に並べる色相配列検査(パネルD-15テスト)は色覚特性の程度を、アノマロスコープ(Anomaloskop)は精密診断に用いられます。
配色のバリアフリー
カラーユニバーサルデザインは、色覚特性を持った人や高齢者の色覚低下に配慮し、見分けにくい配色を避けて、全ての人に同じ情報が正しく伝わるようにデザインすることを意味します(2011年、東京都カラーユニバーサルデザインガイドライン)。日常生活の場だけではなく、会合のパンフレット、プレゼンテーション作成の際にも大切です。
遺伝子治療の試み
生まれつきの色覚特性に対し、遺伝子の一部を置き換え、錐体細胞の機能を回復させる遺伝子治療の研究も進んでいます。全色盲の人の色覚改善の可能性が報告されています(2023年のCurrent Biology誌)。
高齢者の色覚低下と日常生活
紺や茶を黒と間違える
白い生地についた黄色のシミが見えない、黒と紺色やこげ茶の靴下を間違えて履く、などが繰り返されるときは要注意です。後天性色覚特性で多いのは、「黄色と白」「青や緑と黒」「茶と黒または紫」といった色誤認です。
転倒事故や着衣着火
色の見え方が異なってきて、小さな段差や階段の境目がはっきりとは見えにくくなります。ガス式コンロの先端の青白い部分が見えにくく、そのため若い人に比べて炎の大きさが小さく見えてしまい、着衣着火のリスクを増す原因の一つとされています。



インベスト・イン・ババリア
スケッチブック





