フリードリヒ・メルツ首相(キリスト教民主同盟・CDU)への支持率は7月の時点でわずか13%(ARD調べ)。歴代の首相の中で最低だ。不人気の理由の一つは、根回しの不十分さや、他者への影響に配慮しない発言や行動だ。7月下旬にメルツ氏が行った内閣改造は、政界に混乱を生じさせた。
7月27日、記者会見で話すメルツ首相
宙に浮いたシュニーダー大臣
焦点は、メルツ氏と同じCDUに属するパトリック・シュニーダー交通大臣の処遇だった。7月24日、経済日刊紙ハンデルスブラットなどは、「メルツ氏はシュニーダー大臣を更迭する方針を固め、記者会見で発表する予定」と報じた。シュニーダー氏もCDUのほかの議員らにSNSで、「首相が間もなく私を更迭する」と伝えていた。
ところが同日の記者会見でメルツ首相は、シュニーダー大臣の更迭を発表できなかった。その理由は、メルツ氏が交通大臣への就任を要請したCDUのフリッツ・ギュンツラー議員が、首相に対して一度要請を受諾しておきながら、数時間後に拒否したからだった。
つまり首相による正式発表がないまま、「シュニーダー更迭」という報道だけが独り歩きした。彼の処遇は宙に浮いた。このためシュニーダー氏は7月26日、「現在の不名誉な状態を終わらせるために、メルツ首相に私を解任するよう要請した」と自分から発表した。メルツ氏は同27日に、過去に交通次官を務めた経験を持つシュテフェン・ビルガー議員を交通大臣に任命すると発表した。
一般的にドイツ人は、事前の意見調整や根回しが下手だ。メルツ氏は、まず交通大臣の後任者を確定させてから、シュニーダー氏に更迭を伝えるべきだった。一度受諾したギュンツラー議員の突然の翻意が想定外だったとはいえ、メルツ氏の情報管理がスムーズだったとは言い難い。
CDU内部からメルツ批判が噴出
今回のスキャンダルで異例な点は、CDU党内からメルツ批判が公に行われたことだ。シュニーダー氏は、ラインラント=プファルツ州のキルブルク出身の議員。ラインラント=プファルツ州議会のCDU議員団のクリストフ・ゲンシュ院内総務は、メルツ首相に公開書簡を送り、「われわれはメルツ首相の、シュニーダー氏に対する態度を全く理解できない。シュニーダー氏は豊富な専門知識を持つ、優秀な政治家だ。そうした人物に対する首相の態度は不可解だ」と怒りをぶちまけた。
このためラインラント=プファルツ州議会のCDU議員団は、抗議の姿勢を表わすために、ベルリンでの首相との会議の予定をキャンセルした。CDUの党員たちが首相・党首であるメルツ氏への不満を、公開書簡の形で表明するのは極めて珍しい。
連邦議会のCDU・CSU(キリスト教社会同盟)議員団の中でも、首相に対する怒りの声が上がっている。ある議員はフランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)に対して「メルツ氏は、われわれに対しては絶対の忠誠を求める。だがメルツ氏は大臣や議員の態度が気に入らないと、シュニーダー氏に対して見せたような扱いをする。このことは今後何年も、連邦議会の議員団の間で問題視される」と語った。
FAZはドイツで最もCDU寄りのメディアで、通常はメルツ氏に対して好意的だ。その新聞がこのようなメルツ批判を載せたことは、保守系メディアの間でもメルツ氏の政局運営のまずさについて批判が強まっていることを示す。
CDUで労働者を代表する団体CDA(キリスト教民主労働組織)のクリスティアン・ボイムラー副会長も「シュニーダー氏の更迭は、『恣意的な政治』の印象を与える。ドイツでの政局運営は、封建時代の王国のように行われてはならない。そのような態度は、市民の民主主義への信頼を損なう」とメルツ首相を批判した。
メルツ氏がシュニーダー氏を更迭しようとした理由は伝えられていない。だがシュニーダー氏は昨年9月の記者会見で、「インフラ特別予算には、高速道路の維持・補修のための予算はあるが、高速道路の新設のための予算が十分ではない」と不満を述べたことがある。メルツ氏はこの発言を自分への間接的な批判と受け止めたのかもしれない。またシュニーダー氏は、ドイツ鉄道(DB)やインフラ建設企業 DB InfraGOの改革を進めているが、人事刷新が難航している。メルツ氏はドイツの交通インフラ改善とそのための投資を重視している。彼は大臣を交代させることによって、交通関連プロジェクトを加速しようと考えたのかもしれない。
9月の地方選挙にも悪影響?
メルツ首相は7月27日の記者会見で、「この混乱について、個人的に遺憾に思う」と述べたが、交通大臣の入れ替えは必要だったと主張した。だが今回のスキャンダルはCDU内部で、メルツ氏に対する党員の信頼を揺るがせた。「メルツ氏には個人的に失望した」という声が聞かれる。こうした発言から、党内の支持基盤が薄くなっていることが予想される。
このスキャンダルのタイミングは非常に悪い。ドイツは9月6日に旧東ドイツのザクセン=アンハルト州とメクレンブルク=フォアポンメルン州で重要な州議会選挙を控えているからだ。世論調査機関INSAが7月26日に公表した世論調査の結果によると、ザクセン=アンハルト州での極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)への支持率は41%で首位となっている。それに対してCDUは24%で、AfDと比べて17ポイントも少ない。
シュニーダー氏更迭をめぐる混乱が、CDU支持者をさらに減らす恐れもある。夏休みにもかかわらず、ドイツの政局は荒れ模様だ。



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